『DUNE/デューン 砂の惑星』から『フリー・ガイ』まで、2021年という時代を象徴したSF映画たち

この2021年も多くのSF作品が映画館と配信サーヴィスの両方で上映された。『DUNE/デューン 砂の惑星』のような超大作から『フリー・ガイ』のような奇妙な設定の作品、ロマンスタイムループ作品『明日への地図を探して』まで、『WIRED』US版がおすすめする2021年のSF映画の数々を紹介する。
Dune
©WARNER BROS. /EVERETT COLLECTION/AFLO

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2021年のSF映画を語るとなれば、『DUNE/デューン 砂の惑星』で始めて『デューン』で締めくくらないわけにはいかないだろう。そんなわけで、まずは『デューン』について語っていきたい。

ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督した『DUNE/デューン 砂の惑星』(配信はAmazonプライム・ビデオのほかApple TVなど)は、見どころが多い。スケールは壮大で、映像はまるでシェイクスピア劇のようだ。そして、とにかく砂まみれで、砂漠に生息する巨大生物サンドワーム(砂虫)は圧巻である。

主人公ポール・アトレイデスの父レト公爵を演じたオスカー・アイザックは、全裸になったと思ったらすぐに死んでしまう。主人公ポールを演じたティモシー・シャラメは、ゼンデイヤ演じる少女チャニと恋に落ちる。ただし、チャニの登場シーンは合計でたったの7分だ(全編2時間35分)。

ふたりは声をほとんど発さず、主に幻想や漠然とした夢のなかで関係が展開する。あれほどソーシャルディスタンスがとれていれば、何の心配もいらないほど安全だ。


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7分といえば、米国には「天国での7分」と呼ばれるパーティーゲームがある。ボトルを回転させるなどして選ばれたふたりが、7分間は個室などで何をして過ごしてもいいというルールだ。ポールとチャニの7分間は、このゲームにしては最高につまらないものと言っていい。

とはいえ、現実の世界に暮らすいまどきのティーンは、「天国での7分」を楽しむことさえないだろう。若者がポールと同じように性の目覚めを“リモート”で体験したいと思っていなかったとしても、2年におよぶ新型コロナウイルスの感染拡大防止策を経て「接触を避ける」ことが法にのっとった行動であることはもちろん、多くの人にとって理想的であるという意識が、そろそろ心に植えつけられているはずだ。

オンラインで口説いたりいちゃついたりするほうが、ボトルを回転させるよりずっと簡単である。いずれにせよボトルを使うことは衛生的ではないし、7分間の“体験”の合意は曖昧なものだ。

その点で『デューン』は、2021年という時代において“完璧”といえるSF映画だった。慎み深い青春のZoomロマンス、とでも言おうか。

奇妙な設定の恋愛ものがヒット

さらなる青春を謳歌しているのが、決して若いとは言えない俳優ライアン・レイノルズを主演に配した『フリー・ガイ』(配信はAmazonプライム・ビデオのほかApple TVなど)だ。こちらも『デューン』と同じくリモートロマンスという設定だが、主人公・ガイは夢のなかではなく、存在論を超越して女性に恋をする。ガイはオンラインヴィデオゲームの平凡なモブキャラ(ノンプレイヤーキャラクター=NPC)で、相手の女性は生身の人間が操作するプレイヤーなのだ。

『フリー・ガイ』でいちばん奇妙だったのは、ガイが女性に「きみにキスしたいんだ」と言う場面である。「それっておかしなことかな?」と言うのだが、それは確かにおかしい。だが、PCの画面を見つめる彼女はガイの質問にうなずきながらも、自覚をもったプログラムとキスをする自分そっくりのアヴァターを止めようとしない。言ってみれば、未来のファーストキスは異次元間で交わされるのである。

4次元の恋愛ものなら、『明日への地図を探して』(配信はAmazonプライム・ビデオ)はどうだろうか。同じタイムループにはまりこんだ十代の男女が出会う物語である。ふたりがキスをするのは、それが奇跡の瞬間をつなぎ合わせた4次元立方体の地図を完成させる最後の1ピースだと知ったときだ。そのキスが「時空の亀裂」から解放されるきっかけになる。

劇中では何度も『恋はデジャ・ブ』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』「ドクター・フー」といったタイムループ系の作品名に言及されて不自然な気がするが、そう思わないでほしい。同じように、ロマンスタイムループ映画『コンティニュー』で耳にする『96時間』の名ゼリフも気にしてはいけない。

フランク・グリロ演じる主人公は、同じ日を何度も繰り返すループにはまってしまったマッチョの元兵士で、「いくつかの能力」を備えている。その日を繰り返すたびに、刃物で刺されたり、銃で撃たれたり、頭を切り落とされたり、爆破で吹き飛ばされたりと、あらゆる試練を耐え抜いて必死に生き残ろうと奮闘するのだ。

そんななか、ミシェル・ヨーの刀剣の力を借りて、元妻(支離滅裂なナオミ・ワッツ)を救い、黒幕(とても支離滅裂なメル・ギブソン)を倒し、時空の崩壊(支離滅裂の原因)から世界を救おうと突き進んでいく。ワッツの出演シーンが短く、『デューン』のゼンデイヤに引けをとらないが、それでもやはり最後には愛が勝つ。

人と人との触れ合いの重要性

いまは女性がもっと目立った活躍を見せる映画が好まれる時代と言える。それなら、フランス映画『オキシジェン』(配信はNetflix)がおすすめだ。ほぼ唯一の登場人物である主人公の科学者を演じるのは、演技派メラニー・ロラン。彼女は人工知能(AI)で制御される極低温ポッドのなかで目覚め、わずかとなった酸素が枯渇する前にそこを脱出する方法を見つけなくてはならない。

記憶を失っていて、誰にポッドに入れられたのかも、自分がどこにいるのかもわからない。やがて彼女は、ひとりの男性──生涯の愛を誓った夫のことを思い出す。夫は地球で発生した恐ろしいパンデミックで命を落としていた。彼女はあるミッションに参加していたのだ。あと2世代で絶滅すると予測された人類を救うためのミッションに──。

あと2世代で人類滅亡とは早すぎるって? いまは現実にパンデミックが進行中であり、架空のパンデミックを描いた映画を観ていると落ち着かないかもしれない。単に説得力に欠ける可能性もある。ただし、いまのパンデミックが起きる前にたまたま製作されたがゆえに、悲惨な事態にたちまち着想を得て描かれた真実や虚偽に一切悩まされない映画であれば、話は別だろう。

そんな作品が、21年最高のSF映画『こぼれる記憶の海で』(配信はAmazonプライム・ビデオのほかApple TVなど)だ。19年に撮影され、ようやく公開にこぎつけたのが21年だった。

新進気鋭の俳優オリヴィア・クックとジャック・オコンネルが演じるエマとジュード(出演時間はほぼ同じだ)は、ビーチで出会って恋に落ちる。しかし、結婚したころから、地球上であるウイルスの感染が拡大し始める。新型コロナウイルス感染症と違って身体的な症状はない。ウイルスに侵されるのは記憶だけなのだ。

ジュードがはじめに感染し、愛する女性の記憶を少しずつ失っていく。病になって少し経ったころ、ジュードはエマにこう言うのだ。「君の手触りは忘れていない」。すると「わたしに触れて」とエマは言う。21年公開の映画で最もロマンティックで、最も感動的といえるシーンだ。

なぜ感動的かというと、いまであろうが、ソーシャルディスタンスが常態化した未来であろうが、人と人との触れ合いは常に素晴らしいものだからだ。21年公開のSF映画が何かを肯定しているのだとすれば、人との触れ合いを忘れないことの尊さ、絶対的な必要性である。

それは、気候の黙示録が訪れて荒廃した地球が舞台の『フィンチ』(配信はApple TV+)のように、たとえ相手がロボットだとしてもだ。同じく気候の黙示録を経た世界が舞台の『Voyagers(原題)』(日本未公開)のように、たとえ死に至ることになるとしてもだろう。

21年のワーストSF映画といえる『レミニセンス』(配信はAmazonプライム・ビデオのほかApple TVなど)のようにかなりの駄作だとしても、人との触れ合いは必要である。『レミニセンス』では悲しみを抱えた男が、もう何にも触れられないのなら、いっそのこといまは亡き女性の記憶に触れたいと願う。

『デューン』の続編に期待すること

最後になるが、科学、フィクション、リアリティなど、あらゆることがこれまでになく謎に包まれた2021年についての楽しい会話が、ぐるっと1周して戻ってくるべきところがある。最初と最後を飾るべき映画『デューン』だ。

そこには希望すら感じられる。ゼンデイヤの出演シーンがたった7分だったと不満を漏らすことは、もちろんフェアとは言えない。ヴィルヌーヴはかねてフランク・ハーバート原作のSFロマンスを映画化するなら、2部構成として常に構想していたからだ。

23年公開予定のパート2では、ポールとチャニ(ゼンデイヤ)の関係がついに始まる。そのころには新型コロナウイルスの流行も、人との触れ合いが禁じられた非人間的な飢餓状態の蔓延も、終わりを迎えていることを願いたい。そしてポールとチャニの長距離恋愛が花開き、目のくらむようなふたりの危うい肉体の触れ合いを初めて目にできることを祈るのみだ。