Facebookからアルゴリズムを排除したら、“世界”はどう見えてくる? 投稿を「最新順」の時系列表示に変えてわかったこと

フェイスブック元社員の内部告発により、安全より利益を優先するアルゴリズムの問題が注目されているFacebook。実はニュースフィードからアルゴリズムによる操作を排除し、「最新投稿順の表示」に変更することが可能だ。そんな“健全”なニュースフィードを試してみると、世界はいったいどのように見えてくるのか?
実録:Facebook投稿を「最新順」の時系列表示に変えてみた。
ニュースフィードからランキングの仕組みを除外すると、世界はこうなる。ILLUSTRATION BY WIRED US

フェイスブックは崩壊している──。フェイスブック(現在の社名はメタ・プラットフォームズ)を内部告発したフランシス・ホーゲンは、そう語っている。Facebookがもたらす“病”は若者のメンタルヘルス問題からエチオピアの民族間の暴力まで幅広いが、その原因は同社のアルゴリズムにあると証言したのだ。

フェイスブックが抱えるさまざまな問題をまとめて解決できる策など存在しない。それは社名を変えてもだろう。しかし、元社員でシヴィック・インテグリティチームに在籍していたホーゲンが掲げたある提言は、注目に値する。

「わたし自身は(Facebookの投稿を)逆時系列順に並べていく、つまり最新の投稿から順に表示してスパム広告の表示を少し下位に下げる方式を強く支持します」と、ホーゲンは米上院小委員会で10月に語っている。「わたしたちに必要なものは、人間の尺度で人が対話できるソフトウェアです。誰の発信を目にするのかをコンピューターが決めるソフトウェアではありません」


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アルゴリズムからの脱却

想像してみてほしい。人が対話をする──つまりホーゲンの提案とは、フェイスブックが仕掛けたアルゴリズムという“魔術”のお告げによる順番ではなく、ユーザーが投稿した順にコンテンツがニュースフィードに表示される世界なのだ。

その世界では、表示されるコンテンツが「いいね」やコメントに左右されない。すべては投稿された時間順になる。そうなると、炎上中の投稿がアルゴリズムによって上位に表示されてしまう事態も起きない。

これは決して過激な意見ではない。Instagramがフィード上に表示される内容にアルゴリズムを介入させたのは2016年になってからだ。Twitterは同じ年に最新ツイートの新着順表示をとりやめたが、2年後には選択できるかたちで復活させている。

そしてFacebookでも、いますぐこの場でニュースフィードをアルゴリズムから切り離すことはできる。この10月に実際に試してみたのだ。

公正を期すために言っておくと、この選択肢をフェイスブックは隠しているわけではない。PCのウェブブラウザーから見ている場合は、画面の左側に縦に並ぶアイコンから「最新情報」を選べばいい。モバイル端末のアプリなら、右下のメニューから「最近・お気に入り」を選ぶ。

ただし、フェイスブックが注意を促している通り、この表示方法は一時的なものだ。ヘルプセンターの注意書きには、次のように書かれている。「最近の投稿から順に表示するようにニュースフィードを並び替えることができますが、最終的にはデフォルト設定に戻ります」(あるいは「facebook.com」の代わりにこのリンクからFacebookにアクセスすれば、アルゴリズムによるランキングに左右されない表示になる)

“健全”な設定の使用体験の現実

わかりきったことかもしれないが、先に断っておこう。個人的にはフェイスブックを頻繁に使うユーザーではない。19年以降、投稿は年に3〜4回だし、いずれも『WIRED』US版の記事か、娘のガールスカウトでクッキーを売るときの宣伝だった。

アカウントはプライヴェートで使っており、メンバーになっているグループは14ある。半数以上はこの1年で投稿数がゼロ、3つはたまに見にいく程度、残りは存在も忘れていた、といった感じだ。

でも、なぜか週に2〜3回ほど開いている。惰性ともいえるし、物を売買できる機能「マーケットプレイス」をひやかす趣味のせいとも言える。それでも、ニュースフィードが通常どのように表示されるのはわかっている。そして投稿が新しい順に並ぶ“健全”な設定に変えたことで、どれだけ使用体験が違ったものになるのか気付かされた。


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とはいえ、あまり大げさなことは言いたくない。投稿日時が新しい順に表示すれば是正されるとホーゲンが提言した問題は、そもそも自分がつながっているソーシャルメディアのつながりではあまり起きていないのだ。それにFacebookには多数のアルゴリズムが用いられており、ここで取り上げているのはニュースフィードのランキングだけである。

また言いづらい話ではあるが、少なくとも自分にとってのユーザー体験は、標準で提供されている表示形式より必ずしもよくなったわけではない。フェイスブックが自らをどう語るかのほうが、はるかに興味を引かれる。

この13年ほどの間に、Facebook上の「友達」は975人になった。「いいね!」したページは15ある。主にニュースメディアで、ほかは個人のプロフィールをページに変えた友人数名、あとなぜかチーズクラッカー「Cheez-It」が入っている(Cheez-Itはおいしいというのが理由だ)。

健全なソーシャルネットワークなら、投稿を新しい順に表示したとしても、友達の投稿とブランドや企業の投稿は実際のフォロー数をおおむね反映した割合でフィードに表示されるはず──。そう考えるのではないだろうか。

Twitterに関しては改めて想像するまでもなく、最新投稿順に表示される設定に変えると基本的にそうなる。フォローしている人の実際の動向に応じて、時間帯によって変動しながらタイムラインに表示されるわけだ。

それがFacebookではどうか。ブランドや企業の投稿がずらりと並ぶ。

ここでもう一度断っておくと、ニュースフィードはユーザーそれぞれが自分に合わせてキュレーションした体験であり、どれだけどう利用するかは人によって違う。ピュー研究所による最近の調査に基づいて判断すると、自分はどの属性から見てもFacebookを最もよく使う層に該当するらしい。だが、1,000人いる近しい「友達」がフィード上に表示されないのであれば、いったい誰がそこにいるのだろうか?

それがブランドや企業なのだ。自分の場合は主にメディアをフォローしているので、メディアの投稿が中心になる。

アルゴリズムが介入しない世界

先日ある朝、8時半(米東部標準時)のニュースフィードを例に挙げよう。そのときは35本の投稿をスクロールし続けて、ようやく個人の投稿にたどり着いた。ちなみに内容は、誰なのか記憶にない人がシェアしたエルヴィス・プレスリーの物まね動画だった。

これは言うまでもなく、、Facebookがアルゴリズムで厳選して盛り上げたニュースフィードとはほど遠い。それほど熱心なユーザーでなければ特にそうだろう。

アルゴリズムが介入したヴァージョンのFacebookのフィードでは、いたるところに友達が出てくる。大勢いる。ハロウィーン用のかぼちゃを買いに出かけたり、カップルで夜のデートに出かけたり、ドラマ「キング・オブ・メディア」で盛り上がったり。ニュージャージーのモントクレア美術館でシタールを奏でたりもしている。きらびやかでにぎわう大都市という様相ではないが、ゴーストタウンでもない。

しかし、そのほうがいいかといえば……実際どうだろうか。

最新の投稿順にすると、多くの知り合いが出てくるわけではないかもしれない。だが、ニュースフィードがソーシャルネットワークというよりも、最新のニュース投稿を表示するRSSフィードの様相を呈してくるのだ。

これにはいい点もある。「いいね」もコメントも稼がないのでアルゴリズムでは目にとまるところへ出てこないような面白い記事(ラルフ・エリソンがかつてジャズについて書いた記事など)に、最新投稿順の表示では巡り会えるのだ。こうした記事のタイムリーさでは一般的にTwitterには及ばないが、世の中のニュースを知っておくには向いている。

「最新投稿順」に表示する利点

アルゴリズムが介在したニュースフィードのほうが、なじみのある顔に遭遇する機会が増えることは確かだろう。しかし、その差はユーザーが思うほど明白ではない。表示順に関係なく、やはり最近はFacebookに投稿する人自体がそこまで多くないのだろう。

どこの誰か覚えていないような人が投稿したエンゲージメントの高いコンテンツは、あまり表示されない。そしてこれは面白いと思うような投稿は(投稿から4〜5日たったものが多い)、高確率ですでにInstagramで目にしていたりする。

それでも、ニュースフィードを最新投稿順の表示にしていちばん興味深いのは、通常ならアルゴリズムが表示させなかったであろうコンテンツをすべて見せられることかもしれない。

ニュースでもそうだ。10月に元国務長官のコリン・パウエルが死去したとき、最新投稿から順に時系列で表示するタイムラインは、各メディアが訃報を伝える同じような記事で埋まった。わずらわしいとも言えるが、それでも存在する選択肢をひと通り知ることができた。アルゴリズムが選んだ「真の訃報」1本だけを、友達の投稿や高額のコストをかけたノンアルコールビールの広告のなかに突っ込まれるよりはいい。


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個人情報の不正利用問題で、その存在意義を揺さぶるほどの衝撃を受けたフェイスブック。しかし、巨大なソーシャルメディアを惨劇の渦中に追い立てたものは、ほかならぬ自身の内側にあった──。社員と元社員51人への取材を基にマーク・ザッカーバーグの夢と理想が崩壊するまでの2年間を追い、病巣をえぐり出した迫真の長編ルポ。


また、Facebookの規模がいかにひと握りの人に支えられているかも実感した。繰り返すが、どれだけ利用するかは人それぞれだし、自分の周りでは2008年当時と同じようにタイムラインが友達でにぎわっている、という人もいるだろう。しかし、自分のフィードに自然に表示される投稿はだいたい決まった数人によるもので、そこには特に親しくしている人はいない(明確にしておくと、投稿するという選択は支持するし、かつての同僚の母親が元気にしていると知ればうれしい)。

そして、このように数が少ないからこそ、ときに思わぬよき出会いをもたらしてくれる。通常のニュースフィードであれば、住んでいる街のグループにあったこんな投稿を表示してくれただろうか。

「大人の男性用のルイージのコスチュームを売ってくれる方、いませんか? マリオはダメです。ルイージ限定で」

これには朝から楽しい気分になった。

隠された現実

最新投稿順の表示を巡ってよく言われる懸念は、アルゴリズムによるキュレーションがないとニュースフィードがスパム広告だらけになる、あるいはごちゃごちゃと乱雑になる、というものだ。

しかし、実際のところそうでもない。ここまで説明してきたような理由もあるが、現時点でFacebookをアルゴリズム抜きで表示すると、スポンサー広告やおすすめ記事を作為的にタイムラインに入れてはこないようなのだ。標準の表示では投稿5本のうち1本は何らかの広告が入るが、それが消えても個人的に何も困ることはない。

ニュースフィードの表示を新着順にしてみたら、Facebookをもっと利用したくなった──とまでは言わない。だが、嫌いになったわけでもない。

それに、自分はこれまで思い違いをしていたことに気づいた。Facebookのアルゴリズムは、ユーザーであるあなたをどんな人物として認識しているのかを示すが、同時にFacebookが自覚するFacebook自身の現実を隠してもいるのだ。

行き交う人の姿が少なくて、少し寂しい場所──。発信する内容が何であれ、ひと握りの人の声が注目される場所である現実を隠しているのだ。

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TEXT BY BRIAN BARRETT

TRANSLATION BY NORIKO ISHIGAKI