あのSF超大作から日本発のロードムーヴィーまで:2021年のベスト映画9選

コロナ禍で映画の公開延期が相次いだ2021年だが、注目すべき作品は数多くあった。SF大作から、映画界の巨匠が手掛けた静かな時代物まで、『WIRED』US版が選んだ2021年のベスト映画9本を紹介しよう。
Dune
©WARNER BROS. /EVERETT COLLECTION/AFLO

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率直に言って、2021年は前年と同じく映画界にとっては大変な年だった。新型コロナウイルスの影響で閉鎖されていた映画館は再開されたが、パンデミックによって生じた公開延期のせいで、新作映画にとっては山あり谷ありの年になったのである。

とはいえ、注目すべき作品は数多くあり、サプライズもたくさんあった。SF大作から、映画界の巨匠が手掛けた静かな時代物まで、『WIRED』US版が選んだ2021年のベスト映画を紹介しよう。


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DUNE/デューン 砂の惑星

フランク・ハーバートの1965年の小説『デューン 砂の惑星』は、史上最も影響力のあるSF小説のひとつであり、『スター・ウォーズ』シリーズを筆頭に過去に制作された代表的なSF映画に影響を与えてきた。だが、小説『デューン』そのものを映画化する試みは、いつも計画通りに進んできたわけではない(アレハンドロ・ホドロフスキー監督が小説『デューン』の映画化を試みて失敗に至った過程を描いたドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』を参照)。

デヴィッド・リンチ監督の1984年版『デューン/砂の惑星』はカルト的な人気を博しているが、公開当時は大失敗作とみなされていた。だが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は『複製された男』『メッセージ』『ブレードランナー 2049』でわかるように、ホドロフスキーやリンチとは毛色の違う映画監督だ。ヴィルヌーヴは小説的なアプローチによる映画づくりで、ほかの映画監督が失敗したところで成功し、複雑すぎるストーリーを消化しやすく、完成度の高い珠玉のSF作品に変えてきた。

そのすべてが『DUNE/デューン 砂の惑星』にも当てはまる。スマートさと美しさを兼ね備えた大作で、続編の制作も決まっている。

『スペンサー』(日本では2022年公開予定)

パブロ・ラライン監督は2016年の『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』で誰もが名前を知っているものの、実像を知る人はほとんどいない、時代を象徴する女性の内面を描き出してアカデミー賞にノミネートされたが、『スペンサー』でも同じことをやってのけた。

チャールズ皇太子の妻として、また王室の一員として期待に応えると同時に自分の主体性も保とうとするダイアナ妃を、クリステン・スチュワートが見事に演じている。ダイアナ妃は夫が浮気していることを熟知し、愛人のために買ったものと同じ真珠のネックレスを自分に買ってきたことさえ知っている。

この映画はフィクションを取り入れているが、嫁ぎ先の王室という組織に閉じ込められ、力を失ったと感じているダイアナ妃の心情は、わたしたちが聞き及ぶ彼女の個人的な葛藤と一致しているように思える。この作品は、ダイアナ妃とチャールズ皇太子が正式に離別する1年前、そしてダイアナ妃の早すぎる死の6年前の1991年を舞台にしている。

『The Card Counter』(日本未公開)

この作品では、つらい過去をもつ主人公を演じるオスカー・アイザックが輝いている(驚くことではない)。退役軍人ウィリアム・テルはギャンブルの世界に入り浸り、全米を回ってブラックジャックやポーカーのトーナメントに出場することで必死に過去を忘れようとしている。

旅先でサーク(タイ・シェリダン)という青年に出会って親しくなったウィリアムは、彼から軍の大佐(ウィレム・デフォー)への復讐に手を貸してほしいと頼まれる。サークから彼の境遇や計画を聞かされるうちに、ウィリアムはサークとの関係が贖罪のチャンスかもしれないと考えるようになる。

この作品はポール・シュレイダーが脚本と監督を担当し、シュレイダー作品で主人公の多くが直面してきたように、罪と贖罪を中心にストーリーが展開する。しかし『The Card Counter』では、シュレイダー作品としては珍しく、主人公が心から贖罪を望んでいるように感じられる。

『ドライブ・マイ・カー』

『ドライブ・マイ・カー』は3時間の長編作品だが、本当に優れた作品だ。濱口竜介が脚本と監督を務め、舞台演出家の家福悠介(西島秀俊)の物語を描く。妻との死別の2年後、広島で2カ月間の舞台演出の仕事を引き受けた家福は、毎日1時間かけて滞在先と劇場の送迎を受けるうち、若い女性運転手(三浦透子)と徐々に友情を育んでいく。

家福は彼女に、キャストやスタッフとの問題や、いまも心に引っかかっている妻の裏切りについて打ち明ける。『ドライブ・マイ・カー』はロードムーヴィーだが、そこには景色の美しさ以上のものがある。オンラインではまだ公開されていない。

PASSING -白い黒人

『ゴジラvsコング』出演のレベッカ・ホールの初監督作品。原作はハーレム・ルネサンス期の作家ネラ・ラーセンが1929年に発表した小説だ。

長い間会っていなかった幼なじみのリーニー(テッサ・トンプソン)とクレア(ルース・ネッガ)が大人になって偶然再会する。医者(アンドレ・ホランド)と結婚したリーニーは、家族と一緒にハーレムの高級住宅に住んでいる。一方、クレアの夫は実業家(アレクサンダー・スカルスガルド)で、人種差別主義者だが、色白な妻のクレアが黒人であることに気づいていない。華麗な映像とすばらしい演技で、現在にも通じる人種に関する力強い意見を訴える。Netflixで配信

『The Green Knight』(日本未公開)

デヴィッド・ロウリー(『Miss Juneteenth』)が監督・脚本を務め、デーヴ・パテールが新感覚のアーサー王伝説を届ける。主演のパテールは、アーサー王の甥で強情なガウェイン卿を演じている。彼は身の危険を顧みず、自ら志願し、強大な「緑の騎士」と対決する旅に出る。

非常に危険な任務だが、恵まれた出自でありながら不屈の戦士としての名声を手に入れようとするガウェインの決意は固い。アーサー王伝説に(おおむね)忠実でありながら、ロウリー監督は「英雄の凱旋」という図式を覆すことを恐れず、ちょっとしたユーモアを取り入れている。

ロスト・ドーター

アカデミー助演女優賞ノミネートされたマギー・ギレンホールもまた、2021年に見事に監督デビューを果たした俳優のひとりだ。エレナ・フェッランテの小説を映画化した『ロスト・ドーター』で、ギレンホールは脚本も担当した。

この作品の秀逸な点は、絶え間なく漂う不安感だ。ギリシャで休暇を過ごす文学教授のレダ(オリヴィア・コールマン)は、子育てに悩む若い母親のニーナ(ダコタ・ジョンソン)と親しくなる。レダは自分の過去をあまり語らずに、ときに途方に暮れてしまうと打ち明けるニーナに理解を示す。

だが、ふたりはギリシャのビーチに座っているというのに、常に壁が迫りくるように感じられ、いまにも何か恐ろしいことが起こりそうな気がする。ギレンホールが観客の頭の中に入り込み、そこにとどまる方法を理解していることを証明する作品だ。Netflixで配信

『Licorice Pizza』(日本未公開)

ポール・トーマス・アンダーソンは、現在活躍中の監督のなかで最も多彩なフィルモグラフィーをもつ監督かもしれない。四半世紀前の1996年に『ハードエイト』でデビューして以来、『ブギーナイツ』ではポルノ業界の光と影を、『マグノリア』では子どものころの夢と大人になってからの現実のギャップを通じて人生の二面性を描き、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のカネ以外の何にも見向きもしない残酷な山師、『ザ・マスター』のカルト教団リーダーといった癖のあるキャラクターを生み出してきた。『ファントム・スレッド』では、靴下にこだわるオートクチュールデザイナーが、妻の手で死の淵に立たされながらも、それを楽しみ受け入れる。

アンダーソンの作品は予測不可能であるからこそ素晴らしく、彼が次にどんな題材に興味をもつかは知る由もないが、以下のふたつの点はほぼ確実だろう。(1)上映時間は2時間以上であり、(2)多くの人の年間ベスト映画ランキングに入る。

多くの意味で『Licorice Pizza』は、アンダーソンの原点回帰の作品だ。1970年代にロサンジェルスのサンフェルナンド・ヴァレーで成長していく子ども時代と初恋が、カリフォルニアの太陽の下で描かれる(どの要素もアンダーソンにとって思い入れ深い)。故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子であるクーパー・ホフマンの起用は素晴らしい発想で心を打つ。

パワー・オブ・ザ・ドッグ

ジェーン・カンピオン監督が、12年ぶりに手がけた長編映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でパワフルに復活した。主演のベネディクト・カンバーバッチは、間違いなくこれまでで最もイメージを覆す役どころである、

カンバーバッチが演じたのはフィル・バーバンクという悪役である。彼は裕福な牧場主だが、カウボーイ仲間と一緒に汚れ仕事をすることを好み、雄牛の去勢すらいとわない。威圧的なフィルとは対象的に、弟のジョージ(ジェシー・プレモンズ)は、行く先々で問題を起こす兄に代わって、しばしば謝罪を強いられる。

ジョージが労働者階級の未亡人・ローズ(キルスティン・ダンスト)と結婚し、彼女を家に連れてきて一緒に暮らすようになると、フィルはことあるごとに彼女を苦しめて悦に入る。しかし、ローズの息子・ピーター(コディ・スミット=マクフィー)が農場でひと夏を過ごすことになり、フィルは徐々にこの若者を気にかけ始める。

重層的なプロットを考慮すると、この作品を余すことなく簡潔に要約することは不可能だろう。だが、あえて言うなら、フィルの傲慢な振る舞いの下には、はるかに繊細な別の側面が隠れている。Netflixで配信

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TEXT BY JENNIFER M. WOOD