新作映画の同時配信は、誰を幸せにするのか?:『WIRED』日本版が振り返る2021年(映画編)

長期にわたる映画館の休業……から一転、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の爆発的ヒットという特異な現象が(日本では)起きた2020年。続く21年、映画シーンではどのような動きがあったのか。2021年にオンラインでよく読まれた映画関連の記事をピックアップしながら振り返る。
Marvel Studios
2019年に開催されたサンディエゴ・コミコンに、ケヴィン・ファイギ(最左・マーベルスタジオ社長)とともにスカーレット・ヨハンソンも登壇。このときは、まさか自分がディズニーを訴えることになるとは夢にも思わなかったことだろう。ALBERTO E.RODRIGUEZ/GETTY IMAGES FOR DISNEY

2021年も引き続き、コロナ禍は最強のヴィラン(悪役)として映画業界に立ちはだかった。この強敵に対してまずアクションを起こしたスタジオが、ワーナー・ブラザースだった。2021年の劇場公開作品を、系列である動画配信サーヴィスの「HBO Max」において「同時配信」すると発表したのだ。

しかしいまのところ、この決断は悪手だったと言わざるをえない。クリストファー・ノーラン──20年に公開された『TENET テネット』は全世界で3億6,370万ドルを稼いだものの、制作費やPR費を鑑みると赤字回収ギリギリのラインだった──は、ワーナーとのパートナー関係を見直すと激怒し、ドゥニ・ヴィルヌーヴ──21年公開の『DUNE/デューン 砂の惑星』はいまのところ全世界で3億7,477万ドルを稼ぎ、21年の興行収入ランキングでも10位に入っているが、本人もスタジオ(ワーナー)ももう少し期待していたかもしれない──も、「背中を刺されたようなもの」というコメントを発した。

ふたり以外にも数多くの映画人や、直接被害を被りかねない劇場から批判的なコメントが集中したこともあり、最終的にワーナーは、劇場公開から45日間は配信をおこなわない取り決め(=シアトリカル・ウインドウ)を最大手シネコンチェーンと締結することになった。

同時配信でいうと、『ブラック・ウィドウ』の劇場公開と配信を同時におこなったウォルト・ディズニー・カンパニーを、主演のスカーレット・ヨハンソンが提訴する事件も記憶に新しい。こちらも多くの映画人が、スタジオではなくヨハンソンを支持した。

新作映画の(同時)配信をめぐる議論は、この先どこに落ち着くのだろうか。22年も注視していきたい。

ちなみに、2021年の「興行収入ランキング」世界1位は『長津湖』、2位『こんにちは、私のお母さん』となっているが、どちらも中国映画で(3位にようやく『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』がランクイン)、『長津湖』にいたっては公開日(9月30日)からわずか3か月で8億9,635万ドル(約1,028億7,400万円)をたたき出している。

22年は、映像エンターテインメントの領域でもアメリカ vs. 中国の闘いが加速するのかもしれない。こちらも要注目だ。


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伝染病が広まり陰謀が渦巻く2021年──SF映画『JM』は、未来を“予言”していたのか

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偽のインフルエンサーをでっち上げるドキュメンタリー映画が浮き彫りにした、「有名である」ことの意味

有名になることを夢見る3人の若者を、華やかな暮らしを装ったフェイク写真や金で買ったフォロワー数を駆使して“インフルエンサー”にでっち上げる──。そんなドキュメンタリー映画『Fake Famous』が、このほど米国で公開された。そこから浮き彫りになるのは、Instagramで有名になることの容易さと、楽しいことばかりではないインフルエンサーの現実だった。>>記事全文を読む


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『DUNE/デューン 砂の惑星』から『マトリックス』や007の新作まで、2021年に期待の映画26選

コロナ禍において多くの映画の劇場公開が延期になった1年を経て、この2021年にはどんな作品が公開されることになるのか。『DUNE/デューン 砂の惑星』に始まり、マーベルや『マトリックス』、007の新作まで、今年期待の映画26本を紹介しよう。>>記事全文を読む


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映画『マトリックス レザレクションズ』の予告編に見る「カプセルの選択」の意味

2021年12月に公開予定の映画『マトリックス レザレクションズ』の予告編が公開された。シリーズを通して語られてきた「赤いカプセルか、青いカプセルか」という選択がもつ社会的・政治的な意味は時代と共に大きくさま変わりしている。こうしたなかシリーズ最新作の映像とティザーサイトに改めて同じ選択が繰り返し示されたことで、本作がこれまでになく重大な意味をもつことが示唆されている。>>記事全文を読む


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映画はゲームで「再定義」される:2021年の映像制作

21世紀を代表する映画監督として名を馳せるポン・ジュノ。彼が撮った映画『パラサイト 半地下の家族』の制作プロセスは極めて画期的であり、100有余年に及ぶ映画の歴史が次のフェイズに突入した事実を浮き彫りにする。あえて極論するならば、「映画はゲームによって再定義される」かもしれないのだ。>>記事全文を読む


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マーベル映画『ブラック・ウィドウ』が、初週にネット配信だけで記録した興収「60億円超」の意味

マーベルの最新映画『ブラック・ウィドウ』が米国で7月8日に公開された。映画館とストリーミングで順次公開されたこの作品だが、米国では驚くべきことに最初の週末にストリーミングだけで6,000万ドル(約66億円)を超える興行収入を叩き出している。このハイブリッド戦略の成功は、コロナ禍を経て映画の公開戦略が様変わりした事実を浮き彫りにしている。>>記事全文を読む


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原作で描かれた夢の発明「スティルスーツ」は、どこまで再現できたのか? 映画『DUNE/デューン 砂の惑星』の制作陣が語る舞台裏

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『DUNE/デューン 砂の惑星』の本予告編は、これが「映画館で観るべき作品」であることを示している

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TEXT BY TOMONARI COTANI