高まる宇宙開発への関心と、激化する全固体電池の開発競争:SZ MEMBERSHIPで最も読まれた5記事(2021年)

『WIRED』日本版の会員サーヴィス「SZ MEMBERSHIP」では、2021年もインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を週替わりのテーマに合わせてお届けしてきた。そのなかから、国際宇宙ステーションで発見された新種のバクテリアの正体や、全固体電池の実用化を見据えたブレイクスルーなど、21年に最も読まれた5本のストーリーを紹介する。
高まる宇宙開発への関心と、激化する全固体電池の開発競争:SZ MEMBERSHIPで最も読まれた5記事(2021年)
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2021年は宇宙への世間の関心が一段と高まった1年だった。なかでも国際宇宙ステーション(ISS)の内部で採取された新種のバクテリアは、「未知の生命体」として取り沙汰された。しかし、新種といっても遺伝的にはメチロバクテリウムという地球にありふれた属に由来するバクテリアで、貨物や宇宙飛行士の身体に付着して入ってきたものが宇宙ステーションの環境に適応するために変異したものとみられている。それでも今後、宇宙空間や地球外の惑星で進化する契機となる可能性は十分に考えられる。

こうした微生物叢は、ISSでの生活で一部の免疫反応が抑制されたクルーにとって予期せぬ体調不良の要因になりうる一方で、火星のような地球外の環境に存在するかもしれない生命体との接触を検知するために有効な手段にもなりうるという。また、メチロバクテリウムは土壌の窒素分子をアンモニアや硝酸塩、二酸化窒素といった窒素化合物に変換してくれることから、宇宙環境に適応した今回のような微生物叢は、将来的に月面や火星での食料栽培に役立つ可能性も期待できる。

全固体電池の商用化に王手

電気自動車(EV)の発展と普及に伴い、より高いエネルギー密度と安全性、長寿命が期待できる全固体電池の研究開発が活発化している。リチウムイオン電池を搭載したEVの共通の課題は、500kmに満たない航続距離と1時間以上を要する充電時間、そして可燃性の液体電解質がもたらす安全面のリスクだ。こうした問題に対する解決策として、電極間に固体の電解質を用いた固体電池技術の研究が進められてきたが、いまだ実用化にはいたっていない。そうしたなか、20年12月に米国のスタートアップのクアンタムスケープが公開したテスト結果は、長きにわたって実用化を阻んできた障壁を一気に打ち砕くような内容だった。

ブレイクスルーの鍵を握るのが、正極と負極を隔離するセパレーターの素材である。これまでは主にポリマーかセラミックが使われてきたが、ポリマーではデンドライトの形成を防ぐことができず、セラミックでは充電サイクルにおける耐久性に難があった。クアンタムスケープが新たに開発した柔軟性に優れたセラミック素材のセパレーターは、その両方をクリアしている。

一方、同社が公表したのはあくまでセル単位の性能データであり、それらを大量に積み重ねた最終的なバッテリーの性能には疑問が残るという指摘もある。いずれにせよ、クアンタムスケープが全固体電池の商用化に大きく近づいた事実が、開発競争の新たな起爆剤になったことは間違いない。

ここからは、21年に「SZ MEMBERSHIP」向けに公開された記事を中心に、最も読まれた5本を紹介する。


01

国際宇宙ステーションで見つかった「未知の生命体」が、宇宙開発の未来にもたらすこと

国際宇宙ステーション(ISS)で未知の生命体を米航空宇宙局(NASA)の研究チームが発見した。この新しい細菌の特性次第では、火星飛行ミッションやほかの惑星での基地建設を安全に進める上で重要な役割を果たす可能性も秘めている。>>記事全文を読む


02

ついに「全固体電池」が実用化へ? EV普及の鍵となる研究成果から見えてきたこと

リチウムイオン電池を超える性能と安定性を発揮するバッテリーとして期待されてきた全固体電池を開発するスタートアップが、課題の多くを解決したとして研究成果を発表した。電気自動車普及の鍵となるイノヴェイションの裏側を探る。>>記事全文を読む


03

「ヴァギナ」におじけづく投資家たち:5兆円規模のフェムテック市場に向け、まずは女性起業家の声を聴くべきだ

女性のための膣関連製品を売り込まれると、顔を真っ赤にして話を切り上げてしまう投資家は多い。世界人口の半分をターゲット顧客にもつフェムテック市場を活性化させるためには、女性起業家の言葉にきちんと耳を傾けるべきだ。>>記事全文を読む


04

チーズは「太らない食材」:最新の研究による朗報が食と健康に関する思考を書き換える

最近の研究結果によると、体重増加や糖尿病リスクに対する働きの点で、チーズは最悪の場合でも中立を保ち、むしろ改善する可能性さえあるという。この朗報をひも解けば、カロリー摂取や健康をめぐる古い思考が書き換えられるはずだ。>>記事全文を読む


05

終わりなきジャパニーズ・シティ・ポップ:70・80年代のヒット曲はなぜいまヴァイラルしたのか

米国のポップミュージックの影響を受けた70・80年代の日本のヒット曲が「シティ・ポップ」としてオンライン上で再注目されている。トレンドの背景には、欧米人の東洋に対するイメージから創作された郷愁の念が透けて見える。>>記事全文を読む


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TEXT BY RITSUKO KAWAI