科学に対する信頼が問われた1年:『WIRED』日本版が振り返る2021年(サイエンス編)

科学研究分野における2021年を振り返ると、待ったなしの気候危機に対する改善策を示す環境関連の記事や、火星探査機「パーサヴィアランス」の動向をはじめとする宇宙関連の記事の人気が高かった。また、新型コロナウイルスのワクチンが世界的に普及したことで、有効性を巡る社会の分裂やmRNAワクチンの研究までさまざまな記事が注目された。こうしたなかから、WIRED.jpで最も読まれたサイエンスにまつわる記事をお届けしよう。
科学に対する信頼が問われた1年:『WIRED』日本版が振り返る2021年(サイエンス編)
CONSTANTINE JOHNNY/GETTY IMAGES

2021年も「WIRED.jp」では、科学的研究に基づくさまざまな記事を公開してきた。サイエンス分野で顕著だった動きとしては、マスクやワクチンについて賛否両論が分かれたように、科学の負の側面に警戒を示す側と、技術による打開策を求める側という二項対立の加速があった。

新型コロナウイルスの変異株に関するニュースが飛び交い、困惑した人々のなかには、政府・科学・メディアへの信頼の欠如からSNSに救いを求めた者もいるだろう。結果としてフィルターバブルやインフォデミックの波に揉まれ、情報の正確さという判断軸を見失ってしまったという人も少なくない。


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こうした状況のなかで、自分が信じる「正しさ」を超えて、他者との信頼をいかに築けるかが改めて問われているのではないか。

政治的に意見が異なるふたりが会って対話をするプロジェクト「ドイツは話す」を、17年にドイツの週刊新聞『Die Zeit』が企画している。グーグルの資金提供を受けてアルゴリズムを開発し、他国も追従できるようにプラットフォーム「My Country talks」を開設したところ、欧州を中心に広がりを見せた。参加者の多くが前向きな感想を残していることを意外に感じるのであれば、“異なる意見をもつ人々はわかり合えない”という思い込み(仮説)のもと、他者や自分の可能性を信頼していないということなのかもしれない。

反証可能性が担保された仮説を立て、検証を繰り返し、先人たちの研究成果の上により正しい結論を更新していくことが科学だとすれば、反対意見が存在することを受け入れることこそが科学的態度だといえる。そして、それは科学分野以外でも応用すべき部分があるだろう。自分と異なる意見を支持する理由や相手が抱く恐怖をシェアすることで、目の前の相手と争うのではなく、真に向き合うべき対象が明らかになるのではないだろうか。

科学やテクノロジーが対立の原因になっているときに、いかにして架け橋に変わりうるか? 22年の科学研究分野では、この問いに対していかなる仮説を打ち立て、どう検証していくのか期待したい。


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TEXT BY ERINA ANSCOMB