WIRED COMMON GROUND CHALLENGE

人間とは? 地球とは? 生命とは? 技術とは?:ウェルビーイング、レジリエンスを未来に実装するための10冊

ウェルビーイングとレジリエンスのいずれかをテーマに、社会課題を解決するテクノロジーやアイデアを募集している「WIRED COMMON GROUND CHALLENGE」。それぞれのテーマに関して、発想のインスピレーションになるブックガイドを編集部がお届けする。
人間とは? 地球とは? 生命とは? 技術とは?:ウェルビーイング、レジリエンスを未来に実装するための10冊
Photograph: Daigo Nagao

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ウェルビーイングとは自由なのか?

Photograph: Daigo Nagao

『ネオヒューマン』

アンドロイドへと通じる身体拡張の歴史が、人類の疾病と医療の格闘の歴史でもあるように、AIやロボティクスによるポストヒューマン/ネオヒューマンが生まれるのは、最も身体的困難のある人々がウェルビーイングを追求する営為から来るものであるはずだ。難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患った科学者である著者が「AIとの融合」を試みるなかで本書が体現するのは、アイデンティティの自由や勇気、そして愛といった最も人間の資質に属するものだ。

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『カーム・テクノロジー』

かつて『WIRED』US版のケヴィン・ケリーは、「AIは電気のように日常を流れる」と言った。都市や文明のあり方を根底から変えた電気のスイッチを入れることをもはや人々は意識しないように、日常に静かに溶け込んだテクノロジーのたたずまいとは、いかにして実現可能だろうか? アテンションエコノミーがわたしたちの時間の争奪戦を繰り広げ、メタヴァースがわたしたちを四六時中接続させる時代に、「穏やかな技術」の価値を再考したい。

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『ケア宣言:相互依存の政治へ』

パンデミックによって「ケア」という労働の重要性が明らかになったにもかかわらず、その価値はいまだに貶められており、むしろケアを隠れみのとした搾取が進みつつある──。そう看破する本書で試みられるのは、他者と相互に依存することで生まれる連帯、つまり個人のウェルネスを越えたウェルビーイングの実現であり、オルタナティヴな社会システムの構想だ。これは誰かを不幸せにすることで実現するウェルビーイングなど存在しえないのだという叱咤激励にほかならない。

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『家は生態系―あなたは20万種の生き物と暮らしている』

自宅での「害虫」との遭遇は日常生活での一大事だ。とはいえ、プライヴァシーが自分の意図しない外敵によって侵犯されるこの事態は、あなたが多様性と直面した瞬間でもある。本書では管理されているように見える「屋内」にある知られざる生物の多様性を解き明かすだけでなく、それがいかに人間の健康によい影響を与えているのかを教えてくれる。「害虫」があなたの味方だったと知ることは、ウェルビーイングのあり方を考え直す機会になるはずだ。

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『あわいの時代の『論語』——ヒューマン2.0』

かつて人類は「心」をもたずに暮らしていた。紀元前1000年ごろに「心」という文字が発明されて初めて心が生まれ、現代人はいま自らが生み出した心の副作用に苦しめられている──。そう看破してみせる本書は、心が生まれた直後の紀元前6世紀を生きた孔子による『論語』に、22世紀のヒントを見出す。「心」が人類の生み出したコモングラウンドだとすれば、それをアップデートすべきタイミングは、いまなのかもしれない。

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『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』

不老不死が人間のウェルビーイングに本当に資するのかどうかはまだ実現例がないわけだが、ギルガメシュ叙事詩に描かれて以来4,000年にわたる人類の悲願には取り組みがいがあるはずで、その最前線に立つのが著者のシンクレアだ。老化を遅らせるだけでなく、若返りへの道筋を科学的に提示し、「病なき老い、老いなき世界」を描く本書は、長寿社会の人生戦略やその地球環境へのインパクトといった社会課題にまで踏み込んでいる。

レジリエンスはいかに思考できるのか?

『地球第三の森』

都市化がますます加速する一方で、急激な気候変動のドライヴァーとして都市がやり玉に上がる昨今。都市と自然を二項対立で捉え、なんとかカーボンニュートラルを達成しようとする既定路線に対して、拡張生態系としての都市の可能性を35億年の生命誌のなかに位置づけ直すのが本書だ。「都市」という人類の大規模な地球改変こそ、生態系にとって森林やサンゴ礁に次ぐ第三の森となり、救済地になりうるとする大胆なヴィジョンを提示する。

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『天災と日本人: 地震・洪水・噴火の民俗学』

20年ごとに建て替えられる伊勢神宮は、さまざまな災害が発生しやすい風土の不安定さに対処するためにつくられた「かりそめ」の建築といえる──。そんな小泉八雲の言葉を起点に災害民俗学を展開する著者が解き明かすのは、「サステイナブル」とは少し違う日本独自のレジリエンス。それぞれの土地に根ざした言い伝えのなかに凝縮された名もなき人々の営為、そして感情を想像することは、社会問題をマクロな視点で捉える第一歩といえるのかもしれない。

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『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』

ドローダウンとは「大気中の温室効果ガスがピークに達し、減少に転じる時点に到達」すること。本書は「世界をリードする科学者と政策立案者の綿密な調査に基づく、地球温暖化を逆転させる最も確実な100の解決策」を提示する。エネルギー、食、都市、輸送、マテリアルまで多角的なカテゴリーを網羅するなか、注目すべきはその半分が「自然に寄り添ったライフスタイル」というファンタジーではなく、技術革新を目指すものであることだ。

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『LIFE3.0』

宇宙を数学的存在として論じて注目されてきたマサチューセッツ工科大学(MIT)の理論物理学者による人工知能(AI)論は、射程が限りなく深く遠い。労働、法律、軍事、倫理や生命と機械の意識にまでおよぶその論点は、軽く10,000年後、あるいは10億年後という宇宙スケールの時間軸へと伸長される。圧巻となる未来のプロトタイプを経てバックキャストで現代に提示されたAI開発の指針「アシロマAI原則」を、わたしたちはレジリエントな社会にどう実装できるだろうか。

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『蜜蜂』

2045年、地球の蜜蜂は絶滅し、22世紀を目前に迎えた人類は存亡の危機にさらされていた──。1852年の英国、2007年の米国、2098年の中国といった、3つの時代に生きる人間とミツバチの姿を通じて、わたしたちが当たり前に食べている多くの作物が花粉の交配をミツバチに頼っているという事実をサイエンスフィクションとして描き出す本書。人間がほかの生物に依存しながら生きているという現実は、レジリエンスという言葉がもつ射程を大きく広げてくれるだろう。

Photograph: Daigo Nagao

『精神と自然:生きた世界の認識論』

わたしたち人間、そしてこの世界を生きるすべてに潜む「生物」としての共通のパターンとは何か? そんな壮大な問いを、人間が世界をいかに認識できるのかという出発点から解き明かそうとする本書は、エコロジーという言葉がバズワードになりつつあった1978年に書かれた。生物の進化や発生といった根源から人間の認識を揺さぶる本書は、レジリエンス、サステイナブル、エコという流行がどこから生まれたのかを改めて教えてくれる。


WIRED COMMON GROUND CHALLENGE
with IIS, The University of Tokyo
supported by PwC Consulting

募集期間:2022年1月12日(水)〜3月6日(日)

最終審査・授賞式:2022年4月〜5月

対象者:年齢・国籍・性別不問。社会人・学生不問、個人/チームどちらの応募も可。大学生、大学院生、研究者、技術者、スタートアップ、ベンチャー、起業家、ビジネスマン、建築家、デザイナー、クリエイター、プログラマーなど、様々なバックグラウンドの方が応募可能です。

提出物:チャレンジのタイトル/チャレンジの概要説明(400字程度)/テクノロジーに関する説明(200字程度)/実装に関する説明(200字程度)/グローバル性に関する説明(200字程度)/応募内容の詳細説明[任意]/プロジェクトの参考資料(画像・ドキュメント資料・映像など)[任意]/プロフィール(200字程度)

主催:『WIRED』日本版

共催:東京大学 生産技術研究所

協賛:PwCコンサルティング合同会社

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