注目される「15分の会議」、その効果はいかに?

ビデオ会議が一般的になったことで、仕事の手を止めて会議に参加することを1日に何度も繰り返すことにストレスを感じる人も増えたことだろう。こうしたなか、労働者の生産性や作業効率を維持するためにも、「15分」といった短時間の会議が注目されている。
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PHOTOGRAPH: MIRAGEC/GETTY IMAGES

業務管理プラットフォームを運営するAsanaは、ある社内実験を4月に実施した。従業員は会議に費やす時間を測り、参加者が5人以下の定例会議の予定をすべて削除するよう求められた。そして予定が何も入っていない状態で48時間を過ごした上で、必要と感じた会議に限って予定を元に戻したのである。

「おかげで従業員たちは、従来では考えられないほど会議の時間を短縮しました。30分の会議は15分になり、頻度も減っています」と、Asanaで生産性を専門とするレベッカ・ハインズは語る。「最後に、この実験を経てどれだけの時間を会議に費やすようになったのか計算してもらいました」

集計したところ、従業員には1カ月で平均11時間ほど会議以外に費やせる時間が生まれた。これは1年で17日間、すなわち3週間半に相当するとハインズは言う。

Asanaが10,000人超の従業員に実施した調査によると、従業員の40%はビデオ会議に費やす時間が昨年より増えていると答えており、52%は会議中にマルチタスクをしているという。英国とオーストラリアでは労働人口のほぼ半数が、米国では3分の1超が心身に疲労を感じながら勤務時間を終えている。

実際にデジタル疲労、すなわちPCやスマートフォンの画面を長時間使うことで生じる重度の疲労が増加している。米国の労働者のうち半数超(52%)は「燃え尽きている」と2021年4月の時点で感じており、3分の2超(67%)は、この燃え尽き症候群が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の間に悪化したと感じていることが、Indeedの調査で明らかになった。また、オンラインで“バーチャル勤務”している人々のほうが、燃え尽き症候群が悪化したと答える傾向が強いという(38%)。

“リモート疲れ”で求められる会議の短縮

このようにデジタル疲労と闘う試みがなされるなか、会議の時間をわずか15分に短縮する動きが管理職の間でかなりの好評を博している。

ベルリンを拠点に法人向けの金融自動化プラットフォームを運営するMoniteは、経営陣の業務報告やチームとキャッチアップミーティング、問題解決のための会議を15分で実施する取り組みを21年7月に導入した。それぞれの招待状には、定期的に交代するモデレーターやファシリテーターの役割のほか、議論の流れを示す議題が設定されている。

大半のスタッフはこの形式の会議に慣れるまでに4〜5回ほどかかったという。だが、Moniteの最高経営責任者(CEO)兼共同創業者のイワン・マリヤシンは、すでに15分の会議のメリットを感じている。

「Zoom会議が長時間になる場合に特に顕著だったのですが、参加者が話に耳を貸さないという問題がなくなるのです」と、マリヤシンは語る。「以前は会議を1時間に設定しても80分まで延びてしまうと、1時間経過後の20分間に経営陣はすでに別の作業を始めていましたから」

英国のソフトウェア開発企業のDistributedは、パンデミックの期間にすべての業務をリモート化したのち、すぐに15分会議を導入している。「計算するとわかりますが、8人が1時間の会議に参加することは、1人が丸1日働くことと同じになります。企業にとってその会議にかかるコストはかなりのものになるので、より短時間で集中する会議を開くメリットは考えるまでもないことです。ハイブリッドワークやリモートワークを実施している現状では特にそうでしょう」と、Distributedの共同創業者のカラム・アダムソンは語る。

企業は15分会議を導入し始めたところだが、組織心理学者スティーヴン・ローゲルバーグは、より短時間でより集中した会議の形式は昔からあると指摘する。「ハドルミーティング(作戦会議)やデブリーフィング(結果報告)、アフターアクションレビュー(事後検証)など呼び方は異なれど、この概念は何十年も前からアジャイルフレームワークや組織戦術で重要な部分を占めてきました」と、ローゲルバーグは説明する。

短時間の会議に再び高い関心が集まるようになった理由は、職場での雑談がなくなったことで、リモートで働く従業員の管理方法を管理職が導入せざるをえなくなったからだと、ローゲルバーグは指摘する。そして、15分という枠は従業員とキャッチアップするためのツールのひとつにすぎず、15分会議に頼りきってはいけないとも言う。

鍵を握る「会議の頻度」

とはいえ、15分会議だけでは過密スケジュールの問題は解決できない。従業員は標準で設定された1時間の「Google Meet」で開かれる会議や、「Calendly」、「Doodle」といった日程調整ツールによって管理され、1日中もしくは丸1週間、会議で埋め尽くされたスケジュールを過ごすことになるのだ。

ビデオ会議を終えた直後に別のビデオ会議を始めると、従業員の脳内のストレスレベルが急上昇し、絶えず頭を切り替えなければならないという心理的負担が生じる──。こうした事実が、マイクロソフトの研究部門「Human Factors Lab」の調査によって明らかにもなっている。そもそも会議の企画者でもない限り、予定の収拾はつかなくなりがちだ。

職種を問わず、人々は真剣に仕事に取り組んできちんと作業するために、まとまった有意義な時間を確保する必要がある。一定の間隔を空けて仕事をすることは、まとまった時間でやる仕事の流れを阻害し、生産性やウェルビーイングに悪影響を及ぼしかねない。

ローゲルバーグのいくつかの研究によると、会議と空き時間のすみ分けができている労働者は、より大きな達成感と満足感をもって1日を終えられることが明らかになっている。理想的な流れは、5〜10分の休憩を挟んで会議に参加し、少なくとも連続して2〜3時間は会議に参加しない時間を設けることだという。

「人々の会議に対する不安は、自分の時間の管理を誰かに委ねているという思いと結びついています。会議によって常に途切れるスケジュールが組まれることで、こうした気持ちは増幅されるのです」と、ローゲルバーグは指摘する。

それに長い会議と会議の間に長時間の空きが生まれると、生産性が損なわれることは言うまでもない。オハイオ州立大学で15年から続く複数の研究によると、会議前の1時間が短く感じられるのは、これから会議があると意識するからであり、そのせいで集中力が低下するという結果が出ている。

こうしたなか15分会議を会社の基準にしたのは、気候変動関連の技術を開発するフルリモートのスタートアップのVaayuを20年に立ち上げたナムラタ・サンデュだ。「わたしはキャリアのほとんどを企業の一員として過ごしてきました。人々が15分会議のスケジュールを取り入れようと考えるようになった理由は、従業員たちの予定が詰まり過ぎていて、会議の参加者全員を1カ所に集めるには2〜3週間前から計画する必要があったからです」

こうした負担を軽減すべく、Vaayuではあまり先の計画を事前に立てないよう従業員に推奨し、予定を入れないことでより自発的な共同作業を可能にしている。「必要なときに必要な人材を見つけて、従業員同士で話をさせることが目標です」と、サンデュは言う。「従業員たちは、仕事に集中する時間が増えて気分がよくなると話しています」

すべては従業員の生産性のために

会議を計画する前でも開催前でも、その会議の必要性を見直すことは、食べ放題のビュッフェならぬ“会議し放題”の状態から抜け出す鍵となる。さらに議題の枠組みも鍵になると、組織心理学者のローゲルバーグは言う。

「会議の議題はテーマではなく、答えを出さなければならない質問であるべきです」と、ローゲルバーグは指摘する。「質問がひとつも思いつかなければ、その会議は恐らく必要ありません。議題を決めることで、その会議に誰が参加すべきかが決まるのです」

企業が共同作業のアプローチをより意識して取り入れるようになると、15分会議の試みは多様な戦略で補完できる。健康管理アプリを運営するThrivaは、チームが共同で仕事をしていないときに短い動画を更新し、ハイブリッドワークの場合でも歩きながら会議に参加して外出するよう促している。

電子商取引技術のプロバイダーAlphagreen Groupは、Zoom疲れを減らすためにセルフビューモード(自分の顔を映すモード)をオフにするよう従業員にすすめている。植林活動をする非営利団体に利益の一部を寄付する検索エンジンを運営するEcosiaでは、火曜と木曜には会議を開かないことに決めている。

よりよい会議文化を構築するための措置をとる企業もあれば、先鋭的な対策を講じる企業も、まったく何もしていない企業もある。こうしたなか、YouTubeやTikTokの動画制作を手がけるTheSoul Publishingのプラットフォームパートナーシップ担当バイスプレジデントのヴィクター・ポトレルは、社内会議を開いたことやメールを送ったことは3年以上ないという。

TheSoul Publishingには、70カ国に2,500人超のリモートワーカーがいる。同社は対面やビデオ通話を除くコミュニケーションをとる方法として、プロジェクト管理ツールやニュースレター、チャット、そして動画のみの使用を19年に決定した。

「得意なことに集中できると解放感を感じるものですから」と、ポトレルは語る。「メールや会議は古い働き方です。わたしたちはメールは使わず会議も開かないのだと採用面接で話すと、求職者はとても喜んで『理想の仕事だ』と言ってくれますよ」

WIRED UK/Translation by Madoka Sugiyama/Edit by Naoya Raita)

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