3月21日(木)からNetflix版「三体」の配信が始まっている。同作は世界的なベストセラーとなった劉慈欣のSF小説を原作とする全8話からなるシリーズだ。共同クリエイター、製作総指揮、脚本を手がけたのは、社会現象ともなった「ゲーム・オブ・スローンズ」で成功を収めたデイヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス、そして「ザ・テラー/インファミー」「トゥルーブラッド」のアレクサンダー・ウー。もちろん、彼らがショーランナーを務めていることも、同作品が注目されているゆえんである。
1960年代の中国で若い女性科学者が下した運命的な決断によって、現代の科学者たちは知的生命体による地球侵略という危機に直面する。
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「本作は、中国のSF作家・劉慈欣が書いた一連の小説を脚色したものです。バラク・オバマが推薦しているということで わたしたちはみな、この小説のことを気にしていました。アメリカの元大統領が中国のSF小説に興味を示すなんて、異例ですからね。
Kindleに入れてはいたもののまだ未読だったころ、Netflixのエグゼクティブであるピーター・フリードランダーに初めて会ったのですが、彼がデイヴィッドとわたしにこの本を勧めてくれたんです。そして、同時期にアレックス(アレクサンダー・ウー)にもね。
デイヴィッドとわたしは日本での『ゲーム・オブ・スローンズ』の最後のプロモーションの仕事をして、帰国する機内の中で読み始めたんですけど、読み終えるとわたしは彼の席に行って、お互いに顔を見合わせました。
わたしたちはNetflixに、この本の映像化に興味があることを伝えると、それから間もなく、ピーター・フリードランダーから一緒に組んだらいいんじゃないか、とアレックスを紹介されたんです。
その後はパンデミックに見舞われ、1年半ほど家に閉じこもることになったのですが、そのおかげで、わたしたち3人は『三体問題』について、Zoomで長い長い時間をかけて話すことができたし、この小説を番組にすることがどういうことなのか、本当に理解することができたんです」(D・B・ワイス)
原作は三部作の長編小説だ。この小説を原作とするTVシリーズは、中国のテンセント版全30話が2023年から配信されているが、Netflix版では主な舞台を07年の中国から24年のロンドン(およびオックスフォード)に置き換えるなど、大胆な変更がなされている。
なかでも、キャラクターを再構築し、オックスフォード大学出身の優秀な科学者集団“オックスフォード・ファイブ”を登場させ、物語の推進力を託している。
「 “オックスフォード・ファイブ”は、デイヴィッドとダン、そしてわたしがこれまでTVシリーズを手掛けてきた経験から生まれたものです。キャラクターを通してストーリーを語る。それが、わたしたちが知っている唯一の方法です。それが素晴らしいTVシリーズ、少なくともわたしたちが望むようなTVシリーズをつくる核になるのだと思います。
登場する人物たちに感情移入できるからこそ、次のエピソードが気になる。彼らはあなたの人生のなかで生き出すのです。劉慈欣の小説では、三部作それぞれで主要登場人物は別々ですが、シーズンごとに新しい登場人物を紹介するような構成にはしたくなかった。早い段階でキャラクター全員をチェス盤に登場させ、彼らを知り、また彼らが互いに影響し合うようにすべきだと思いました。なので、わたしたちは、共通の過去をもち、葛藤を抱えたり、想いを寄せたりする人たちのグループを登場させることにしたんです」(アレクサンダー・ウー)
「このプロジェクトの開発で最も困難だったのは、原作の登場人物全員をひとつのまとまりのあるグループにまとめる方法を見つけることだったと思う。原作を尊重し、原作でわたしたちが愛したものすべてを保存するような方法でそれをおこなうにはどうしたらいいか、検討する必要がありました。60年代の中国とオックスフォードの現在、そして奇妙な仮想現実が混じり合う。登場人物たちを多くの異なる場所に連れて行くのは、とても挑戦的なことでした」(D・B・ワイス)
ちなみにNetflix版「三体」は、原作と同様に1960年代の文化大革命時の中国から始まっている。そのためエピソード1は歴史劇のようでもあり、そこから現代への飛躍が、このドラマのミステリーを牽引している。
「父親が殴り殺される様子を娘のイエ・ウェンジエ(葉文潔)が見たことが、すべての物語の始まりです。この物語はSFですが、読み始めるとまるで歴史小説のように感じます。1960年代の北京にタイムスリップし、SF的なことが起こるまでにはかなりの時間がかかりますが、わたしたちにとってそれがとても魅力的だったんです。
文革のシーンは、とても素晴らしい導入になると確信していました。脚本にはたくさんの変更と脚色がありますが、『劉慈欣が手がけた原作の精神に忠実であろう』というわたしたちの思いが最も現れている部分のひとつが、彼が始めたのと同じ場所から物語を始めることだったと思います」(デイヴィッド・ベニオフ)
スタイリッシュなギアを装着し、没入するVRゲームの世界観が見事にヴィジュアライズされたNetflix版「三体」はエンターテインメントとして楽しむことができるが、その背景には科学と人間という大いなる“問い”が鎮座している。
ロバート・オッペンハイマーが核の時代の扉を開いたように、われわれはAI問題に直面している(実際に昨年のハリウッドでは、AI問題により全米脚本家組合と全米映画俳優組合が長期のストライキを実施し、多くの作品の制作が中断された)。
「これは重要な問いだと思う。わたしは科学者じゃないから、うまく答えられないけどね。でも、『科学』の問題ではないのかもしれない。わたしたち人間が大きな脅威に直面したとき、必ずしもうまく協力し合えるとは限らないことが明らかになってきた。みんなが納得いくって、口で言うほど簡単でないことは、最近の事例が示している。
もしかしたら、ほかの惑星からの脅威のような深刻なことがなければ、わたしたち人類は全員が協力し合うことはできないかもしれない。けれど、この作品に登場する科学者たちは、一丸となって、ある目標のために科学のすべてを捧げようとする。そこには、希望に満ちた考え方が示されていると思います」(アレクサンダー・ウー)
※『WIRED』によるNetflixの関連記事はこちら。SFの関連記事はこちら。
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