トルコとシリアを襲った大地震は、「人道的危機」をさらに深刻なものにする

トルコとシリアを2023年2月6日(米国時間)に襲った大地震では、本震と余震を合わせて10,000人以上が犠牲になった。なかでもシリア北部は以前から人道的危機が問題になっており、余震が継続すれば被害が拡大するだけでなく、危機が深刻化する可能性も指摘されている。
collapsed building with a parked car surrounded by rubble
Photograph: Aydin Arik/Getty Images

トルコとシリアを2023年2月6日(米国時間)の未明にマグニチュード7.8の地震が襲い、9時間後にマグニチュード7.5の余震が発生した。死者は6日時点で3,800人以上にのぼり、がれきの下に残された人を救う救助活動は始まったばかりである。

これほどの大地震は付近の断層にも影響を与えるので、この地域では余震が続くだろう。この過程は数日では収まらず、数カ月あるいは数年も続く可能性があると、科学者は指摘する。可能性は低いが、最初の地震より規模の大きい地震が発生することさえある。

「余震が起きる可能性は基本的に本震の直後が最も大きいのですが、今後数年間は顕著な余震が発生するでしょう」と、カリフォルニア大学リバーサイド校の地球物理学者のデイヴィッド・オーグルズビーは説明する。「現時点で予測できるのは、この地域でマグニチュード5から6程度の余震がまだまだ続くだろうということです。それは容易に想像できます。歴史的にも統計学的にも、ほぼ確実なことだからです」

これにより、トルコやシリアの人道的危機がさらに深刻化するだろう。

「ひどい経験だったけれど終わったから大丈夫、とは人々に言うことはできません。地震活動はそういうものではないからです」と、地震地質学者のウェンディー・ボホンは指摘する。「これほど精神的な痛手を負って壊滅的なダメージを受けてきた人々が、長期にわたって繰り返し余震に苦しめられなくてはならないと考えると、非常に心が痛みます」

地震が連鎖するメカニズム

地震はプレートテクトニクスによって説明できる。プレートとは地殻内を独立して動く巨大な岩盤だが、断層を境界に互いに接している。「応力(ストレス)やひずみが蓄積され、岩盤をつなぎ合わせている摩擦力に打ち勝つと地震になり、岩盤が破壊されます」と、ボホンは説明する。「岩盤が破壊されると地震波としてエネルギーが放出され、この地震波が揺れとして感じられるのです」

2月6日朝の本震は、トルコ南部の有名な断層線である東アナトリア断層に沿う約125マイル(約200km)に及ぶ地域で発生した。厳密に言うと、蓄積された応力によって両側の岩盤が反対方向に水平に動き、断層が破壊される横ずれ地震だった。さらに震源がかなり浅かったことから、地表では非常に大きな揺れになった(カリフォルニア州のサンアンドレアス断層も横ずれ断層で、1906年の地震はサンフランシスコをほぼ壊滅状態に陥れている)。

一般的には本震が大きいほど余震も大きく、時間が経つにつれ余震の頻度は低下し、規模は縮小する傾向がある。この地図でわかるように、本震の断層線だけでなく、これとつながり北部に続く別の断層線に沿ってもさまざまな規模の余震が多数発生している。

マグニチュード7.5の余震が発生したと思われるのは、この別の断層線だ。「この地域では地殻が非常に押しつぶされた状態になっているので、断層が大変複雑になっています」と、スクリップス海洋研究所の地震学者アリス・ガブリエルは指摘する。

このように断層が複雑になっていることから、ひとつの断層で起きたことがその断層だけにとどまらない。マグニチュード7.5の地震を引き起こした応力は長期にわたって蓄積されており、それが本震の衝撃によって解放された可能性がある。

「本震が時計の針を少し進める結果となり、いつか起きるはずの大地震がおそらく少し早く発生したのでしょう」と、アメリカ地質調査所の地震地質学者のオースティン・エリオットは指摘する。「(このような余震は)単なる別の地震です。特別なことではありません。これほど大きな地震であれば地殻応力を大幅に変えるので、その地域の地震発生率が総じて上昇するのです」

余震の継続が意味すること

現地では数日後、あるいは数週間後に巨大な余震が襲う可能性がある。例えば、15年にネパールで発生したマグニチュード7.8の地震の17日後には、マグニチュード7.3の余震が発生した。

本震より規模の大きい余震が起きる確率はわずか5%程度だと、エリオットは指摘する。だが、実際に発生した記録が残されている。19年7月にカリフォルニア州リッジクレストで起きたマグニチュード6.4の地震の2日後に、マグニチュード7.1の地震が発生したのだ(この場合は用語がさらに複雑になる。当初はマグニチュード6.4の地震が本震だったが、マグニチュード7.1の地震が襲うと新しい地震が本震とされ、マグニチュード6.4の地震は「前震」となった)。

このような地震活動は、嵐の後に古い家が安定した状態を取り戻そうとする原理と同じことが、地質上発生していると考えられる。「嵐の後は、新しい位置に落ち着くまで数日にわたって家がきしむでしょう」と、ボホンは説明する。それと同じように、地震が発生した断層や近くの別の断層も、数日か数カ月かけて安定した状態を取り戻そうとする。

嵐の規模が大きいほどきしみも大きく、本震の規模が大きいほど余震も大きい。「地震によって地域全体の地殻応力体系が変わりました」と、ボホンは指摘する。「このため一部の地域では応力が蓄積され、より地震が起きやすくなるでしょう。応力が少し解放され、地震が起きにくくなる地域もあるはずです」

余震が継続する可能性があることで、トルコやシリアでの救助活動はかなり困難になっている。「通りで建物が倒壊したら、救急車は通ることができません」と、地球物理学者のオーグルズビーは言う。「救助隊を送ったり、食料を避難者の元に届けたりすることさえできないのです」

「地震が発生した場所が、ほぼ最悪です」ともオーグルズビーは指摘する。「この地域、特にシリア北部は地震が起きる前でさえ、人道的危機が非常に深刻な場所なのです。ここは地球上で最も弱い立場にいる人々が生活している場所のひとつなのです」

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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