アマゾンの「Fire Max 11」はパワフルだが、あくまで“Amazonを使うため”につくられている:製品レビュー

画面サイズが11インチという大画面のタブレット端末としてアマゾンが発売した「Fire Max 11」。確かにパワフルではあるが、あくまでAmazonのコンテンツを消費することに最適化されており、同じ価格帯なら競合製品を選んだほうがいいかもしれない。
アマゾンの「Fire Max 11」はパワフルだが、あくまで“Amazonを使うため”につくられている:製品レビュー
PHOTOGRAPH: AMAZON

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Fire Max 11」はアマゾンの最新かつ最大サイズで、最強のタブレット端末である。それと同時に、誰も欲しがらず、誰も必要としないタブレット端末でもある。

アマゾンは超お手ごろ価格のハードウェアを展開していたが、そこから路線変更した。仮にOSとして最新版のAndroidを搭載していれば、ミッドレンジの端末として満足できてもよさそうなタブレット端末をつくり出したのである。

しかし、この端末のOSはそもそもAndroidではなく、アマゾン独自の「Fire OS」を搭載している。Fire OSはAndroidの派生OSではあるが、制約が多くてほとんど使いものにならず、機能の面ではグーグル純正OSと比べて2年以上は遅れている。

ミッドレンジのハードウェアに、アマゾンのコンテンツを楽しむ以外にほとんど使いものにならないOSを搭載し、アップルの「iPad」に近い金額で販売する──。これでは、競合製品と競合すらできないタブレット端末になって当然だろう。

アマゾンのタブレット端末「Fire」シリーズは、Amazonプライムデーなどのセール期間中には半額になることもある[編註:2023年のプライムデーでもセール対象になると予告されている]。だが、Fire Max 11は半額でも訴求力に欠ける製品と言える。

高いスペックに高まる期待

箱から取り出した状態で比較すると、Fire Max 11はアマゾンがAmazonのコンテンツを楽しんでもらう目的につくったなかで最高のタブレット端末だ。問題は、Amazonのコンテンツの視聴以外の何かをしようとしたときに発生する。

Fire Max 11の価格は230ドル(日本では34,980円)からだ。そこに100ドル(日本では13,000円)を足すと、スタイラスペン・キーボード付きカバーセットを選べる。ところがそうすると、グレードがはるかに高くソフトウェア体験がより優れた一部のタブレット端末と同価格帯になってしまう。

なにか気取った感じでアマゾン製ハードウェア嫌いをアピールしているわけではない。実際、このレビュー記事は「Fire HD 10」FintieのBluetoothキーボードカバーを装着してタイピングしている。

普段は家にいる時間の半分、そして家を出た際(自分の場合はクルマに乗っていないとき)には常に、Fire HD 10とFintieのキーボードの組み合わせを主な入力ツールにしている。開発者向けツール「Android Debug Bridge(ADB)」を使ってFireのソフトウェアに手を加え、アマゾンのアプリをすべてオフにし、仕事に必要なアプリ(「Vivaldi」と「Termux」)をインストールした。

このような作業が必要ではあったものの、Fire HD 10はライターとしてのニーズを完全にカバーしてくれている。つまり、セールの際には100ドル(約14,000円)になるFire HD 10でも、少し手を加えれば実際に仕事には便利に使える。これはかなりお買い得だろう。

だから今回、Fire Max 11を試せることにワクワクしていた。よりパワフルな性能で、本体は安っぽいプラスチックではなく本物の金属なのだから、気に入らないはずがないと思っていたのである。

実際のところFire Max 11は、確かにアマゾンが謳っているレベルの端末となっている。つまり、アマゾンがこれまでにつくったなかで突出したレベルのFireタブレット端末になっているのだ。

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Fireシリーズとしてはパワフルだが……

11インチの液晶ディスプレイは、2,000×1,200ピクセルという満足できる解像度だ。映り込みがかなり気になってしまうものの、ほかのタブレット端末より悪いわけでもない。縦横比が16:9なので映画鑑賞(そして回転させてポートレートモードにすれば読書)を最優先に設計されたことがうかがえる。

しかし、仕事にはあまり向いていない。アマゾンがFire OSをアップデートして、タブレット端末に最適化された「Android 12L」のツールの一部を使えるようになれば、仕事にも適したタブレット端末になるかもしれない。

とはいえ、そもそもFire OSのベースになっているのは旧バージョンのAndroidなので、タブレット端末に最適化された機能が一切ない。その点については、あとで説明していきたい。

本体横にある電源ボタンには、Fireシリーズとしては初めて指紋センサーが搭載された。microSDカードスロットがあるので、ストレージの保存領域を拡張できる。

キーボードはスプリングコネクター(ポゴピン)接続になったので、充電と入力を同時にこなせる。従来型のFireシリーズはキーボードがBluetooth接続だったので、調子がいい日でも接続状況が悪くて遅延があったり、個別に充電する必要もあったりした。

また、Fire Max 11はWi-Fi 6に対応しており、カメラは前面と背面ともに8メガピクセルになっている。このため、ビデオ通話にもさらに適した端末になった。

本体のスペックはRAMが4GBのRAM、ストレージは64GBか128GBのSSD(128GBモデルは50ドル、日本では5,000円高い)を搭載している。プロセッサーは8コアのメディアテック製「MT8188J」だ。

このスペックはAndroidのタブレット端末としては中間に位置する。Fireシリーズのその他のデバイスよりはパワフルだが、OnePlusの「OnePlus Pad」やグーグルの「Pixel Tablet」には遠く及ばない。しかし、その他のFireシリーズのラインナップと比較すると、アマゾンのなかではハイエンドのタブレット端末ということになる。

筐体は金属製で、ほかのどのFireよりもはるかに上質に感じられる。数週間ほど使った後、いかにもプラスチックというFire HD 10に戻ると、少し残念な気がしたほどだ。またFire Max 11の処理能力は体感でもかなり高速化しているが、パフォーマンス目当てで買い替えたくなるほどの差ではない。

買うか買わないかの判断の分かれ目になる可能性がある点として挙げられるのが、キーボードとケースが自立式ではないことだろう。純正セットを仕事に使うには、すべてを平らな面に置く必要がある。

純正キーボードは使えなくはないが、小さな部類に入る。トラックパッドはタイピング中に手のひらが少し触れるだけで勝手にクリックしてしまうことが多く、かなりトラブルの原因になった。乗り越えられない問題というわけではないが、この価格ならより快適なものを期待してしまう。

ちなみにスタイラスペンの使い勝手は、笑ってしまうほど悪い。ユーザーにとってラッキーなことに、「Amazon アプリストア」にはスタイラスペンを使いたくなるようなアプリはほとんどなかった。

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Amazonを使うためのデバイス

Fire Max 11の最大の問題は、アマゾンが設定している販売価格に見合わない点に尽きるだろう。「Amazonプライム」のコンテンツを大量に視聴する以外の目的で使うなら、330ドル(約47,000円)は必要になる。米国のAmazonで探せば、第9世代のiPadなら約279ドル(約40,000円)、さらにBluetoothキーボードは30ドル(約4,300円)で手に入る。それを考えると、そもそもFire Max 11をなぜ買う必要があるのか、わからなくなってしまう。

タブレット端末としては及第点に達しているが、最も安いモデルのiPadにさえも、Pixel Tabletにも、「OnePlus Pad」にも、レノボの第2世代の「Tab P11 Pro」にも、パワーという点ではるかに劣っている。これらのデバイスのほとんどは確かにFire Max 11より高価だが、本当にコアなAmazonファン(そのような人がいるとして)を除いては、Fire Max 11以外のほうがいいお金の使い道になるだろう。

Fire Max 11以外を買うべき理由を突き詰めれば、ソフトウェアになる。Androidの派生OSであるアマゾン独自のFire OSは、ひどいものだ。昔からずっとひどいものだったし、予想できる限り今後も永遠にひどいものであり続けるだろう。

Fire OSの唯一の目的とは、ユーザーの目をAmazonに向け続けさせることだ。その点では、とても成功している。Fire OSを使えば「Amazonプライム」のお気に入りの機能や特典を、どれも簡単に見つけられるからだ。

それ以外の何かをしようとすれば、Fire OSと格闘することになる。グーグルのアプリもなければ「Play Store」もない。そこにあるのは、アプリがあまり揃っていないAmazonアプリストアだけだ。

試しに、過去に『WIRED』US版に掲載したガイド記事に沿ってPlay Storeのインストールを試みたが、これまでのところ動作させることができていない。動作させる方法がわかれば記事を更新するが、それでもレノボのTab P11 Proのほうが、ほぼ同じ価格でよりよいお金の使い道になることに変わりはないだろう。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるアマゾンの関連記事はこちらタブレット端末の関連記事はこちら


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