エピックゲームズとの裁判でアップルが守り切ったApp Storeの“仕組み”

エピックゲームズとのApp Storeの手数料を巡る裁判を受け、アップルは開発者がアプリストア外でユーザーから支払いを受けられるようにした。しかし、新たな手数料を課したことで、開発者側の取り分はさほど増えていない。
US Supreme Court building surrounded by silhouetted trees park benches and people
米連邦最高裁判所。2024年1月5日。Photograph: Kent Nishimura/Bloomberg/Getty Images

8300万ドルもの訴訟費用を払っても、守りたいものとは? アップルの場合、それは数十億ドルにも及ぶApp Storeの収益だった。それが、つい最近まで脅威に晒されていたのだ。

「フォートナイト」で知られるエピックゲームズが始めた高額な訴訟は、正式にはまだ終わっていないが、アップルの圧勝で幕を下ろす可能性が高い。米最高裁判所が裁判の判決を不服としたエピックゲームズの上訴を1月16日(米国時間)に退けたからだ。

そうなると、これまで通り、アプリ開発者の売上の最大30%が、アップルの懐に入り続けることになる。つまり状況は、エピックゲームズが2020年に訴訟を起こす前と、何も変わらないのだ。

アップルとグーグルの不動の地位

ダウンロードや支払い、使用制限などモバイル端末アプリの世界を支配しているアップルとグーグル。エピックゲームズのような開発者、消費者、政府は、その支配力を弱めようと各地で活動を続けている。そんな彼らにとって、今回の結果は残念な内容だった。これまで、米国やオランダをはじめとするいくつかの地域で、小さな「勝利」はあった。その結果、アップルとグーグルは方針変更を余儀なくされ、いくらかの収益を損なった。しかし、結局のところ、App Storeや「Google Play」は大きな変更なく、以前と同じように運営されていて、両社はモバイル端末ユーザーにリーチしたい企業への支配力を保ったままだ。

法や規制によるプレッシャーを受けて、アップルとグーグルがそれぞれのストアに加えた微調整は、ユーザーや開発者が大満足するような内容ではなかった。アプリをダウンロードしたい、あるいは提供したいとなると、基本的には2大ストアを利用するしかないし、そのルールに従わなければならないのである。

サンフランシスコで行われている別の裁判で2023年12月、グーグルのGoogle Playが独禁法違反だという判断がなされた。しかし、おそらくグーグル側は上訴するだろうし、ストアも基本的にはこれまで通り運営されることになるだろう。

システム外の決済にも手数料の導入

最高裁が上訴を棄却したのち、App Storeには、今回の裁判で唯一認められたエピックゲームズ側の主張に対応するための調整がほどこされた。しかし、開発者はそこで得られるはずだった利益の大部分は、アップルが新たに導入した手数料で相殺されてしまう、と指摘している。アップルにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

アップルが今回実施した変更により、米国でアプリを販売する開発者は、自社ウェブサイトの決済ページへのリンクをアプリのページに設置できるようになった。いままで、このようなリンクの設置は禁止されていた。開発者はアップルの課金システムを使用し、売上の最大30%を同社に支払わなければならなかったのだ。

ただし、別の決済方法を提示する自社ウェブサイトへのリンクをアプリに設置するには、開発者はまず、アップルに許可申請をしなければならない。アップルの課金システムを通じた、アプリ内購入も提供しなければならない。さらに、請求に関する苦情を処理する仕組みをもっていること、そしてアップルが「一定の業界水準」と呼ぶ要件を満たす決済プロセッサーを使用していることも、開発者側は証明しなければならない。

また、別の購入方法へのリンクに使う文言を、アップルに承認してもらう必要もある。そして、ユーザーがこれらのリンクをクリックすると、ここから先はアップルの保護が適用されません、という全画面の警告が表示されるのだ。

勇気ある消費者が先に進んで購入したとしても、アップルはその売上の最大27%を徴収する新たな手数料を導入した。以前までアプリ内購入にのみ適用されていた、非常に嫌われている手数料の対象範囲が広がったかたちである。

また、開発者はアップルに「定期的にアプリ外での購入の会計情報」を提供し、監査することを受け入れなければならない。しかし、「実際問題として、この徴収と制度の実行は非常に困難であり、多くの場合、不可能である」と開発者らは認識している。

今回の変更によって、開発者にはアップルの課金システム外で取引を実施する「意味のある機会」が提供されると同時に、「ユーザーも(課金の)仕組みを理解したうえでの意思決定ができる」と、アップルの弁護士は裁判所の提出書類で説明している。これは、アップルがオランダや韓国で、現地政府の反発に対応して認めた代替購入手段(手数料あり)に似ている。グーグルも開発者からの苦情と規制当局の監視に対応して、数十カ国で同様の仕組みを試験的に導入している。

アップルの新規則についての訴訟も

エピックゲームズやSpotify、プライバシーに重点を置くメールサービスのプロバイダーであるProtonなど、アップルに批判的な開発者たちは、アップルにより大きな譲歩を求めている。彼らは、アップルに支払う金額が少し減ったとしても、自社の課金システムを使い、カスタマーサービスを担うコスト分で、それは相殺されてしまうと主張している。

「アプリの外にある開発者のウェブサイトでの取引に対して27%もの手数料を課すことは法外であり、競争促進とユーザーの選択肢の拡大を意図した裁判所の判断に反しています」とSpotify広報のジャンヌ・モランは話す。「アップルはまたも、アプリストアの独占状態によって開発者や消費者から得ている利益を守るためなら、何でもすることを示したのです」

エピックゲームズの最高経営責任者(CEO)であるティム・スウィーニーは、今回の裁判で最高裁が審議しなかった、このアップルの新規則についての訴訟を考えているという。

米地裁のヨボン・ゴンザレス・ロジャース裁判官がこれを受け入れるかどうかはわからない。ゴンザレス・ロジャースは当初の判決で10の訴えのうち9つにおいてアップルの主張を支持し、同社の事業をマイクロマネージすることは避けたいと話していた。エピックゲームズ側は、アップルの新ルールが、競争、透明性の確保、消費者の選択肢を増やすことに失敗していると証明しなければならない。

ヴァンダービルト法科大学院の教授で、エピックゲームズの裁判を追っているレベッカ・ホー・アレンスワースは、アップルの決済リンク掲載にまつわるルールは「不誠実だ」と言っても過言ではないと話す。その理由は、新ルールが「裁判所が反競争的だと判断したシステムを、再び導入するようなもの」だからだ。ロジャーズ判事は自らの権威を損なうような解決策は提示しないだろうが、エピックゲームズの訴えにどのように対応するかを予測するのは難しい。

大手2社の独占状態は変えられるのか

新ルールに関する訴訟が、米最高裁まで到達する可能性はある。しかし、この訴訟はカリフォルニア州の不正競争防止法に関するもので、最高裁は一般的に州の問題には介入したがらない。そうなると、エピックゲームズの訴えは期待薄だろうと、ペンシルバニア大学の法学教授であり独占禁止法の専門家であるハーバート・ホーベンカンプは話す。

さらなる訴訟を起こすとなると、エピックゲームズにとっては、その費用が大きな負担となる可能性もある。アップルは裁判所の文書で、自社が訴訟の90%を勝ち取ったのだから、8300万ドル以上に及んでいる訴訟費用についても、同じ割合でエピックゲームズ側が負担すべきだと主張している。

アップル側はその根拠について、エピックゲームズ側が当初同意し、後にアップルの支払いルールへの不履行によって違反したApp Storeの開発者向け契約に基づくもので、「エピックゲームズには支払いについて意義を唱える正当な根拠はない」と、アップルの弁護士は記している。

Spotifyやエピックゲームズを含む開発者たちは、アップルが欧州連合(EU)の「デジタル市場法(DMA)」に従い、早ければ3月初旬までに、より大きな譲歩をすることを期待している。この新法は、App Storeなどのゲートキーパーに対して、しかるべき競争が起きるように、より開かれたシステムを要求している。ただし、EU外では、DMAへの対応による変更が適用されることはほとんどないだろう。アップルとグーグルのアプリストアは、何年もの政治的、公的、法的な圧力を受けてもびくともせず、あいも変わらず膨大な利益を生み出し続けているのだ。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma, Edited by Mamiko Nakano)

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