健全な“オフライン時間”をつくれる!? スマートフォンを隠すボックス「Aro Home」の効能

ついついスマートフォンを手に取って画面を見てしまう人のために、デバイスを専用のボックスに“隠す”ことでオフラインの時間をつくれるサービスが登場した。その効果のほどは、いかなるものだったのか。
Aro Homeレビュー:スマートフォンを隠して健全なオフライン時間を
PHOTOGRAPH: ARO

最初に伝えておきたいのだが、「スマートフォン依存症になる人は自制心が欠如している」と言うつもりはない。自分自身、スマートフォンの助けがなければ、どんなささいな仕事さえ成し遂げることがほとんど不可能だとわかっているからだ。

例えば自分にとってのiPhoneは、目覚まし時計やキッチンタイマーであるだけでなく、カレンダーや買い物メモでもある。夫にメッセージを送り、自分の仕事をSlackで確認し、料理しながらレシピを探したり、ポッドキャストを再生したりしている。

だから、スマートフォンをつい使ってしまう人を責めたりはしない。わたしたちのインフラ全体が、誰もが何らかのモバイル機器を使っていることを前提に回っているのだ。

自宅にいる子どもたちが緊急サービスに連絡できるようにするために、固定電話を設置しようと考えたこともある。しかし、Apple Watchの旧モデルを子どもたちに使わせれば済むだけだと気づいた。さらに言うと、そもそもスマートフォン依存症が本当に存在するのかについては議論がある。

とはいえ、ブラックホールに吸い込まれないようにすることは、なかなか難しい。先日の朝、歯を磨きながら何気なくTikTokを開いたところ、大きなキノコ(サルノコシカケ)の上に小さな犬たちが座っている動画を夢中になって観てしまった。子どもたちを学校へ行かせる支度をする必要があるにもかかわらず、である。

いまはPCで仕事をしている間に、ウェブサイトやアプリをブロックしてくれるサービスが有料で成立する時代だ。それなら、「スマートフォンを使わないようにする」手助けをしてくれる有料サービスが生まれることも、自然な流れと言えるだろう。

PHOTOGRAPH: TARALYNN LAWTON/ARO

スマートフォンを箱に入れて“セッション”開始

そんな「スマートフォンを使わないようにする」手助けをしてくれるAroは、商品であると同時に会員制サービスでもある。月額18ドル(約2,400円)か、少し割安な1年間か2年間のサブスクリプションプランで入会できる。どのプランも家族全員が対象だ。

入会すると「Aro Home」が送られてくる。これは12.5インチ×8インチ(約32cm×20cm)と、やや大きめの白いボックスだ。金属のつまみがついた竹製の蓋を開けると、中にはスマートフォン4台が収まるスロットとワイヤレス充電器がひとつ、そしてLightningコネクターが4つある(Android版のボックスと対応アプリは近日提供される予定だ)。

このボックスはBluetooth経由でスマートフォンに接続する。ボックスにスマートフォンを入れると、スマートフォンを使わなかった期間(「セッション」と呼ばれる)の追跡が自動的に始まる。ボックスからスマートフォンを取り出した時点で、セッションは終了する。

専用アプリ「Aro」を確認するときには、セッションにラベルを付けることができる。試してみて最もよく使ったラベルは、「朝食」「仕事」「家族の時間」だ。

Aroは「1日に1時間はスマートフォンを使わない」という最初の目標から始まり、利用時間が長くなると最適化されることになっている。ただ、数週間使ってみたが、特に変化は見られなかった。

サブスクリプションではいくつかのチャレンジも用意されており、蓄積された自分のデータを確認できるようにもなっている。だが、これまでのところ、かなり基本的なものばかりだ。

例えば、このほど7日間連続とセッション10回のチャレンジバッジを達成した。グループ同士で競い合うこともできるが、ほかにAroをもっている人を知らない。

テストしたAroはキッチンに置いて使っていた。さまざまなタスクをこなす場所であり、手元にあるスマートフォンに注意を払うことが難しい場所だからだ。

ただし、Aroを寝室に置いておくほうが、一晩中などの長時間のセッションを多くこなせるかもしれない。ありがたいことに、個人的にはスマートフォンを横に置いて眠らなければならないような問題はひとつもない(みなさんより優れているというわけではなく、ただ疲れ切っているだけだ)。

目立つ場所に設置することの効能

キッチンのような目立つ場所にAro Homeを置いておくことで、すぐに現れる効果がひとつある。スマートフォンをもっていない子どもたちに、「母親がスマートフォンを使わないと決めた」ことが目に見えてわかるのだ。さらに重要なことは、約束を破ってスマートフォンを使ってしまった場合に、子どもたちがそれを奪い取って安全にしまう場所ができたことである。

みなさんが何を思っているかはわかる。きっと「1時間だって? ほんのちょっとじゃないか」と感じているだろう。しかし、2人の小学生の母親でありながら家でフルタイムで働いている立場からすると、それほど簡単な話ではない。スマートフォンをボックスに入れたあと、数分後に取り出さなければならないことは何度もあった。

夕食の間はどうだろうか? 残念ながら、子どもたちはFaceTimeで父親と会話することを望む。息子と一緒にバイオリンの練習をしている間は? 自分たちがやるべき練習を録画しているので、それを再生しなければならない。子どもたちがベッドに入ったあとの片付けの時間は? 皿を洗いながらポッドキャストを聞きたいと思ったからといって、悪い人間とは思わないでほしい。

一方で、自分はスマートフォンを使わずに時間を過ごすことが本当に嫌なのだと理解した人には、注意散漫になりにくい習慣を確立するようアプリから促される。

アプリにログインして、自分が苦労してスマートフォンをボックスに入れていた時間は、その日の20分だけだった──と知ることは、決まりが悪い。そこで、朝起きて階段を降りるとすぐにスマートフォンをAroに入れるようにして、その間に子どもたちの朝食をつくり、着替えさせ、学校に行く支度をさせるようにした。

これだけで30分ほどになる。さらに、仕事をしている間は実際にスマートフォンをもつ必要はない。SlackはPCに入っているからだ。奇妙なことだが、ベッドに入る準備をしているときにスマートフォンを見ないことで、ぜんそく用の吸入器を使ったかどうかを覚えておくことが少し楽になった。

PHOTOGRAPH: TARALYNN LAWTON/ARO

ひとつの「大きな欠点」

ただし、Aroにはひとつの大きな欠点がある。もっと安く、サブスクリプションを利用することなく、スマートフォンを使わないようにする方法があるのだ。それは段ボール箱である(なお、少し値は張るが、タイマー付きのロックがかかる製品もある)。

Aroを使う際に、スマートフォンによる通知の受信などの機能が停止されることはない。ボックスの中でバイブレーションや着信音が鳴っているのが聞こえてくるのだ。その点だけ見れば、段ボールの箱とそれほどの違いはない。

さらに段ボール箱を選んだ場合は、iPadのようなほかのモバイル機器も入れておける。娘が「マインクラフト」をいつまでもプレイしているときは、iPadを取り上げなければならないのだ。段ボール箱なら外側を自由に飾り付けて、独自の仕様にすることもできる。

段ボール箱の場合、スマートフォンなしで過ごした具体的な時間を確認することはできないし、家族で競争することもできない。しかし、うまくいけば集中力が高まるような副次的な影響に気づけるかもしれない。

それでもうまくいかなかった場合は、画面をグレースケールの設定(白黒表示)にしてスマートフォンの魅力を減らすか、オフの時間をつくるとき用の2台目として基本機能しかもたない携帯電話をもつ手もある。

実際のところ、Aroは生活をよりよいものに変える後押しをしてくれた。一方で、「スマートフォンを手離すためのアプリ」のサブスクリプションに料金を支払い、その結果をスマートフォンで確認するのはいかがなものか──と、思わざるをえない。

◎「WIRED」な点
美しいボックス。使いやすいアプリ。スマートフォンの画面を見ない時間をゲームのように仕立てたことは効果的。

△「TIRED」な点
スマートフォン格納ボックスの恩恵を得るために、月額18ドル(約2,400円)も支払う必要はないと断言できる。現時点ではAndroidに対応していない。

WIRED US/Translation by Mayumi Hirai, Galileo/Edit by Daisuke Takimoto)

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