ベートーベンは肝臓病になりやすい体質で、B型肝炎に感染していた:死後196年目のゲノム解析で明らかになったこと

作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベンの毛髪をゲノム解析した結果を、このほど英国などの国際研究チームが発表した。研究結果によると、ベートーベンは死の1カ月前にB型肝炎に感染しており、遺伝的に肝臓病になりやすい体質だったようだ。
retrato beethoven analisis
Photograph: GETTY IMAGES

ケンブリッジ大学の科学者を中心とした国際研究チームが、作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベンの毛髪を分析し、彼が人生の最後の日にどのような病気や苦悩を伴っていたのか正確に突き止めた。ゲノム解析の結果、ベートーベンは死の1カ月前にB型肝炎に感染しており、遺伝的に肝臓病になりやすい体質であったことが判明したのである。

学術誌『Cell』に掲載されたこの研究結果によると、科学者たちは生前のベートーベンの“願い”のひとつをかなえるべく、ベートーベンの毛髪を取り寄せたのだという。ベートーベンは32歳のとき、自分の死因を研究して公表することを求める遺書を残していたのだ。

56歳で亡くなったベートーベンは、生涯の大半を胃の大病や過敏性腸症候群、慢性うつ病、アルコール中毒、心気症などの疾患に悩まされ、19世紀の当時は十分な治療を受けていなかったとされる。

ベートーベンの死因は、彼が残した手紙や医師からの手紙によって、アルコール依存症による肝硬変であるとの結論に達した。これに対して科学者のトリスタン・ジェームズ・アレキサンダー・ベッグが率いる研究チームは、ベートーベンの診断に関するそれ以上の情報を明らかにしている。

ベートーベンの毛髪は、異なる所蔵品だったものを研究チームが取り寄せて検査した。

Photograph: American Beethoven Society

ケンブリッジ大学の分析によると、ベートーベンは遺伝的に肝不全になりやすい体質だった。そこに肝炎が重なり、ほかの病気の影響を抑えようと長年にわたってワインを飲んでいたことが影響して死亡したという。「彼のアルコール消費量が相応の期間にわたって十分に多かった場合、彼の遺伝的な危険因子との相互作用は、彼が肝硬変になった可能性を示している」と、ベッグは論文で説明している。

研究結果は『Cell』に掲載されたこの図にまとめられている。

Illustration: Current Biology

研究チームの科学者たちは、ベートーベンに関連するさまざまな個人と公的なコレクションから毛髪を取り寄せた。英国、欧州、米国から計8つの毛髪サンプルを入手して分析した結果、「ドイツ系の同一の男性」から採取された毛髪は5つだった。

世界の異なる地域から異なる年に採取された5つのベートーベンの毛髪のサンプルは、彼のゲノムマップを完成させるには不十分だったという。それでも、病気の傾向を明らかにするには十分なものだった。「ベートーベンのゲノムを研究者に公開し、そこにさらなる本人の毛髪の解析結果を加えることで、彼の健康と家系に関する残された疑問にいつか答えが出ることを期待している」と、ベッグは論文を結んでいる。

今回の分析では、ベートーベンの生涯における最大の謎のひとつである「なぜ若くして耳が聞こえなくなったのか」という疑問を解明することはできなかった。ベートーベンの手紙によると、難聴は20代前半に始まり、症状は悪化する一方だったという。難聴は胃腸障害や頭痛とともに始まったというが、その関連性は推測にすぎないと医師は指摘している。

ベートーベンは1827年3月26日、ウィーンで56歳の若さで亡くなった。9曲の交響曲、5曲のピアノ協奏曲、1曲のバイオリン協奏曲、32曲のソナタによって、彼は世界最高の作曲家のひとりとなったのである。

WIRED ES/Edit by Daisuke Takimoto)

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