アップルのストリーミングサービス「Apple TV+」は独自の道を着々と歩み始めている。サービスが始まった当初はApple TV+のことを、「奇妙で、苦悩していて、めちゃくちゃセクシー」なコンテンツばかりだと評しこともある。しかし、いまやそのラインナップは、ドラマやドキュメンタリー、コメディと、多様なコンテンツを取り揃えている。
また、Netflixに比べて安価である点も見逃せない。それに新しいiPhoneやiPad、Mac、Apple TVを購入すると、3カ月の無料体験が付いてくることもよくある。
気にはなっているが、何から観始めればいいかわからない人もいるだろう。そんな人たちのために、Apple TV+のおすすめ番組リストを用意した。このリストの作品をすべて観尽くしてしまったら、Amazon プライム・ビデオのおすすめ作品リストをチェックしてほしい。いい作品は多いに越したことはないだろう。
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テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく
「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」はあらすじだけ聞くと、ひどい作品のように思える。サッカーを一度も観戦したことがないアメリカンフットボールの監督が(架空の)プレミアリーグのサッカークラブに監督として招かれたという信じがたい物語なのだ。そして自身の力が及ばなければ、もち前の明るさで乗り越えようとする。
観るにたえないドラマだと思うかもしれない。だが、このドラマは等身大のキャストを起用して、圧倒的なまでに健全なメッセージを発信することで視聴者の心をわしづかみにし、その過程で数々の賞を受賞した。シーズン3の配信が始まったいま、心温まるユーモアを存分に楽しんではいかがだろうか。
シュリンキング:悩めるセラピスト
セラピストが主人公のドラマ「イン・トリートメント」は好きだが、面白さを求めてしまった人はいるだろうか。そんな人には「シュリンキング:悩めるセラピスト」をおすすめしたい。
「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」を手がけたビル・ローレンスとブレット・ゴールドスタイン、そしてジェイソン・シーゲルによってつくられた本作は、シーゲルが演じるジミーが主人公だ。セラピストであるジミーは妻の死を忘れられず、娘と患者に向き合えなくなっている。
これだけ聞くと、ダウナーな作品に聞こえるかもしれない。もちろん、番組のなかには観ていて苦しくなる場面もある。だが、ハリソン・フォードが演じるポールとジェシカ・ウィリアムズ演じるギャビー、そしてジミーによって繰り広げられる、心理療法に軸を置いた職場のコメディドラマであることには変わりはない。
「シュリンキング:悩めるセラピスト」は結局のところ、つらい現実に対応するために人々がとっている行動を描いている。一方で、夢のようなキャスト陣や一度観れば忘れないようなパーティのシーンに登場するゲロにまみれたピアノ、そして大麻でキマりきったハリソン・フォードを見られるのだ。
サーヴァント ターナー家の子守
M・ナイト・シャラマンが監督した映画は、当たり外れがやや大きい。だが、シャラマンが製作総指揮を務め、いくつかのエピソードでは監督もしている「サーヴァント ターナー家の子守」は非常に素晴らしい作品に仕上がっている。
物語の中心は、フィラデルフィア州で暮らすシェフとニュースキャスターのカップルだ。ふたりは子どもを失ったばかりだが、新しいベビーシッターがやってきたことで、子どもは不思議と息を吹き返した(らしい)。
とにかく観てもらわないことには意味がわからないと思うが、もの悲しく奇妙で、ときに笑いを誘うこの作品にきっと魅了されることだろう。現在はシーズン4まで配信されているので、長い時間楽しむことができる。
エセックスの蛇
時代劇風の衣装に身を包んだクレア・デーンズの全力でおびえる演技、町の牧師を演じるトム・ヒドルストン、伝説のヘビの噂──。このドラマに欠点はないのだろうか。答えはノーだ。
サラ・ペリーの小説を原作とするドラマ「エセックスの蛇」は、夫を亡くしたばかりのコーラ(クレア・デーンズ)が、“海のドラゴン”を調査するためにエセックスの田舎町に移り住むところから始まる。
彼女はそこで、蛇の存在に懐疑的な牧師のウィル(トム・ヒドルストン)と出会う。このドラマは、みずみずしい感性で視聴者を引きつける理想的な時代ミステリー作品だ。
セヴェランス
Apple TV+が、エッジの効いた良質なコンテンツを配信するプラットフォームという評判を築くうえでひと役買ったのは、このリストのなかだと「セヴェランス」だ。アダム・スコット演じるマークは妻の死に取り乱し、「分離(セヴェランス)」という手術を受けることを決断する。
仕事とプライベートの記憶を完全に切り離すこの処置に、マークは完全に満足していた。しかしある日、彼が働くルーモン産業の元同僚にオフィスの外で接触される。元同僚が仕掛けた一連の出来事をきっかけに、マークは分離手術だけでなく、自分の働く会社にも疑心を抱くようになっていく。
このあたりからは、時間の経過とともに奇怪かつ殺伐とした空気が濃くなる。悲痛で緊迫感のある本作を監督したのはベン・スティラーだ。このドラマを観ていると、推理と疑問が止まらなくなることだろう。
リトル・アメリカ
ドナルド・トランプがまだ米国の大統領だったころに配信が始まった「リトル・アメリカ」。このドラマは、本当に米国を偉大にするものとは何なのか、しかるべきときに視聴者に思い出させてくれる作品だ。
本作はアンソロジー形式のドラマシリーズで、各エピソードが米国で暮らす移民の異なる物語に焦点を当てている。スカッシュの才能を見いだした不法滞在の高校生の話から、ブルックリンで「ブラの達人」という呼ばれる女性まで、1話30分のエピソードに登場するキャラクターはすべて実在の人物を題材としている。観ていて刺激的で意義深い作品だ。
神話クエスト:レイヴンズ・バンケット
ゲームを題材としたドラマの成功は異例だ。「神話クエスト:レイヴンズ・バンケット」はゲームものとしても、職場を舞台としたコメディとしても近年で最高の作品のひとつとして数えられるだろう。
「World of Warcraft」のようなMMO、「神話クエスト」で有名になった架空のゲームスタジオを舞台に、クセの強い従業員が人間関係のドタバタ劇を繰り広げる1話30分の本作は、一気に観てしまいたくなる。一貫して笑えるが、予想だにしない瞬間に感動がやってくる脚本が素晴らしい。また、笑いを犠牲にすることなく業界の問題にも向き合っている。
ファウンデーション
以前のレビュー記事では、「ファウンデーション」を「欠陥のある名作」と評したことがあった。しかし、SFの古典をテレビに翻案するという複雑さを鑑みれば、これは高評価と言って差し支えない。
アイザック・アシモフによる同名の小説シリーズを原作とする本作は目がくらむほど野心的な作品で、主演の数学教授ハリ・セルダンを演じるのはジャレッド・ハリスだ。
セルダンは銀河帝国の崩壊を予測したことで、彼の忠実な支持者たちとともに追放されてしまう。その壮大なスケールに尻込みすることもあるかもしれないが、見た目が驚くほど美しい宇宙版「ゲーム・オブ・スローンズ」とも言うべき本作を、ぜひチェックしてほしい。
ザ・モーニングショー
どの動画配信サービスも、視聴者を引きつけるためにハリウッドの大物俳優を集めたド派手な大衆向けドラマが必要だ。Apple TV+の主要ドラマ枠は「ザ・モーニングショー」である。ジェニファー・アニストンとリース・ウィザースプーン、そしてスティーヴ・カレルが演じるのは、朝の大人気情報番組「ザ・モーニングショー」の出演者だ。
メインキャスターのひとりであるミッチ・ケスラー(スティーヴ・カレル)は、番組が始まった直後に性犯罪の告発を受けて解雇される。そこから番組は、いつもうまくいくとは限らないが、「#MeToo」スキャンダルによる予期せぬ影響を探っていく。非常にスリリングで、関係者の誰もがこのテーマに全力を尽くしていると感じられる。
ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜
アリーナ・スミスが製作総指揮を務める30分ドラマは、若き日の放縦なエミリー・ディキンスンをヘイリー・スタインフェルドが熱演している。Apple TV+のオリジナルドラマのひとつである本作は、19世紀マサチューセッツ州アマーストを突飛なスタイルで描き出したことで、配信が始まってからすぐに際立つ作品となった。
ディキンスンの作品に着想を得た先鋭的かつシュールなオムニバス作品のかたちをとっているシーズン1は、父親や町の社会的ルールなど、あらゆるものに反抗する詩人ディキンスンの想像上の人生を描き出す。シーズン2と3は、ディキンスンの人生だけでなく、人種やジェンダー、セクシュアリティ、米国初期の階級制度などといったテーマをさらに深掘りしていく。
ディキンスンのファン、頭のいいクィアのキャラクターが登場する悲喜こもごものドラマが好きな人、南北戦争を舞台にした作品と現代のサウンドトラックが混ざった作品にときめく人は、きっと気に入るはずだ。
フォー・オール・マンカインド
現実味に溢れている歴史改変ドラマ「フォー・オール・マンカインド」は、非常にスマートな前提から始まる。もし人類初の月面着陸で米国が遅れをとっていたらどうなっていたのだろうか。もしそうであれば、米国と旧ソ連の宇宙開発競争はどうなっていただろう。
本作は、米航空宇宙局(NASA)を中心に繰り広げられるスタイリッシュな時代劇だ。しかし、ロナルド・D・ムーアが原案を担当しているので、大勢のアンサンブルキャストによって繰り広げられる目を見張るような瞬間やエピソードがある。最高のSFドラマと言える本作は、ぜひ観ていただきたい。
(WIRED US/Translation by Taeko Adachi/Edit by Naoya Raita)
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