ビットコインの「半減期」が到来、対応を迫られる採掘事業者たち

ビットコインの採掘で得られる報酬が減少する「半減期」が、2024年4月20日にも訪れる見通しだ。この4年に1度の“ビッグイベント”に向け、採掘事業者たちは収益源の多様化や処理能力の強化などの対応を迫られている。
Photo of a Bitcoin
Photograph: Getty Images

代表的な暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)として知られるビットコインの採掘報酬が、まもなく半分になる。この「半減期」として知られる事象は約4年に1度あり、新たに生み出されたビットコインを奪い合う採掘事業者にとっては致命的になりうる

「ほかの業界では見られないことです」と、ビットコインの採掘や採掘者(マイナー)向けのサービスを提供するFoundryの戦略担当ディレクターであるチャールズ・チョンは言う。「ランニングマシンの上にいるようなものです。走り続けなければ置き去りになってしまうのですから」。唯一の“慈悲”は「準備に多くの時間があることです」と、彼は語る。

過去の半減期では、採掘コストをまかないきれなくなった採掘事業者はマシンを止めてしまった。より小規模の事業者や個人の採掘者たちは、採掘から完全に撤退している。

採算の合わないマイニング機器がネットワークから消えると、ビットコインのシステムは全体の再調整を実施し、新しいコインを獲得するために必要なコンピューティングパワー(つまり、採掘コスト)の量を減らす。やがて均衡が回復すると、最初の打撃を吸収できる採掘事業者にとっては再び採算がとれるようになるわけだ。

ところが、今回は様相が異なる。

今年3月にはビットコインの価格が1コインあたり70,000ドル(約1,100万円)を超える過去最高値にまで上昇したことから、採掘事業者にとっての危険性は低下しているのだ。この場合はマイニング収入こそ半減するものの、関連収益はハードウェアの運用コストを上回るだろうと、複数の採掘事業者が主張している。

「もしビットコインの価格が急騰していなければ、半減期以後の環境は大きく変わっていたでしょう」と、採掘を手がけるHut 8の最高経営責任者(CEO)のアッシャー・ジェヌートは言う。「いまは高値が多くの人々を“救済”しています」

対応を迫られる採掘事業者たち

過去の半減期ではビットコインの価格が上昇したことから、今回も価格上昇についての憶測が広がっている。だが、こうしたパターンが繰り返されることをシステムの経済設計そのものが保証しているわけではない

採掘者にとって問題になるのは、ビットコインの価格が逆方向に振れた場合だろう。ビットコインは従来の価値評価の手法に反することから、価格が大きく変動しやすい。それだけに、採掘事業者たちは“不意打ち”を食らわないようにしなければならないのだ。

ビットコインの価格が記録的に高騰した2021年、多くの採掘事業者はとんでもない過ちを犯した。採掘規模を拡大する資金を調達するために多額の負債を抱え、マイニング機器を担保にしたのである。

翌年になってビットコインの価格が低迷して採掘コストが上昇すると、事業者たちは債務の返済に追われ設備を格安で競売にかけ、ハードウェアを貸し手に引き渡すことを余儀なくされた。一部の事業者は破産に追い込まれたほどである。

こうした事態から身を守るべく、採掘事業者たちはさまざまな戦略をとっている。Hut 8のジェヌートによると、Hut 8は採掘したビットコインをドルに換えずに大量に保有し、さらなる価格上昇に賭けているという。

この資金は採算割れへの転落を補うための“松葉杖”ではないと、ジェヌートは言う。むしろ、経営不振に陥った競合他社からハードウェアや設備を安く買い叩くための予備の資金なのだ。

以前はビットコインの採掘に特化していたHut 8は2023年にUS Bitcoin Corporationと合併し、その施設のスペースを他の採掘事業者に貸していた。またHut 8は、クラウドコンピューティングや人工知能(AI)トレーニング用のハードウェアにも投資している。こうして収益源を多様化できたことで、採掘の収益性の低下に対応できたのだとジェヌートは言う。

「やや逆張りのアプローチを選んだのです」と、ジェヌートは言う。「わたしたちは自分たちのことを、成長の途上にある新たな用途にエネルギーを“転換”するインフラプラットフォームだと考えています」

これに対して大手採掘事業者のBitfarmsは、新しいマイニング機器への買い換えのほか、保有するマイニング機器のコンピューティングパワー(処理能力)の合計を3倍の毎秒21エクサハッシュに増やすべく多額の資金を投じた。このコンピューティングパワーは、現時点でビットコインのトランザクション(取引)を支えるネットワークのおよそ3%に相当する。

Bitfarmsの最高採掘責任者であるベン・ギャニオンによると、この処理能力の強化によってエネルギー効率が1テラハッシュあたり21Wと約40%改善し、獲得可能なコインを増やせるのだという。

「いちばんやるべきことはエネルギー価格の改善ですが、それは最も難しいことですよね」と、ギャニオンは言う。「その次にできることは、エネルギー効率を高めることなのです」

ビットコイン市場のボラティリティ(価格の変動性)に対する“盾”として、採掘事業者が施設で用いる大量のエネルギーを利用する方法もある。

例えばBitfarmsは一部の競合事業者と同様に、政府の送電網安定化制度を利用することで採掘による収入を補っている。この制度では大量の電力を消費する事業者に対し、電力需要が高い時期に電力消費を停止した場合に手数料を支払う。

こうした制度を採掘事業者が利用することについては、活動家のグループから「送電網に負荷をかけることで利益を得ている」として反発が起きている。だが、採掘事業者にしてみれば、ビットコイン価格の下落に対する貴重なリスクヘッジになっているわけだ。

例えば採掘事業者のRiotの場合、2023年8月にテキサス州を襲った猛暑で電力需要が急増した際に、この制度に参加したことで3,170万ドル(約44億円)の手数料収入を得られたという。これに対してビットコインの採掘による収益は1,000万ドル(約14億円)程度だった。

技術の進歩で対抗できるか

前回の半減期から約4年。ソフトウェア技術の進歩は、マシンをさらに細かく効率的に運用する新たな手法を採掘事業者たちにもたらした。いまではビットコインの価格が高いときに採掘用マシンのコンピューティングパワーを高めて多くのコインを獲得したり、 値動きに応じて個々のマシンの稼働を最適化したりできるようにもなったのである。

「前回の半減期より前には、こうしたツールはありませんでした。採掘用マシンの電源プラグを入れるか抜くかしかなかったのです」と、上場している採掘事業者であるMarathon Digital Holdingsの最高成長責任者のアダム・スウィックは語る。「テクノロジーに投資した人々は、いまや多様なツールの入った“工具箱”を手に入れたのです」

半減期の影響がどのようなものであれ、その影響が完全に見えるまでには数週間を要するだろうと、資産運用会社のCoinSharesでリサーチャーを務めるクリストファー・ベンディクセンは指摘する。採掘事業者は、収益に打撃があろうとなかろうと収益性を維持できることに期待しているというが、ベンディクセンは懐疑的だ。

「多くの採掘事業者にとっては大変なことになるでしょう」と、ベンディクセンは言う。「実際に半減期が訪れないことには、何が起きるかわからないのです」

(Originally published on wired.com, translated by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるビットコインの関連記事はこちら暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)の関連記事はこちら


Related Articles
The bitcoing perched on a high rock over the sea.
ビットコインの価格が過去最高値を更新し続けている。そして新たな熱狂が広がるにつれ、その価格を動かす要因をめぐる神話や誤解も広がっている。
A person standing on a lift in a Bitcoin mining facility with a red overlay effect
ビットコインの採掘業者を呼び込む施策を打ち出していた米国のテキサス州で、地元住民と事業者側との摩擦が顕在化している。電力インフラへの投資を呼び込むはずが電力価格の高騰や騒音などが問題になり、施策に暗雲が立ちこめている状況だ。
A quickly zoomed-out image of a bitcoin mining wall
ビットコインの価格低迷に加え、エネルギーコストの高騰と採掘の難易度の上昇で暗号資産業界は大打撃を受けている。2024年4月には採掘で受け取れる報酬が減少する半減期も控えるなか、採掘者たちは生き残りをかけたチキンレースに挑んでいる。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.52
「FASHION FUTURE AH!」は好評発売中!

ファッションとはつまり、服のことである。布が何からつくられるのかを知ることであり、拾ったペットボトルを糸にできる現実と、古着を繊維にする困難さについて考えることでもある。次の世代がいかに育まれるべきか、彼ら/彼女らに投げかけるべき言葉を真剣に語り合うことであり、クラフツマンシップを受け継ぐこと、モードと楽観性について洞察すること、そしてとびきりのクリエイティビティのもち主の言葉に耳を傾けることである。あるいは当然、テクノロジーが拡張する可能性を想像することでもあり、自らミシンを踏むことでもある──。およそ10年ぶりとなる『WIRED』のファッション特集。詳細はこちら