コカインを過剰摂取したクマが大暴れ! 映画『コカイン・ベア』は、バズって終わりの“駄作”に終わるのか?

コカインを過剰摂取したクマが大暴れする映画『コカイン・ベア』は、インターネット上で悪名高い存在になる運命が決まったようなものである。しかし、ネットでバズった予告編の期待通りにはならなかったかもしれない。
Promotional artwork for the movie 'Cocaine Bear' featuring a raging bear in black and white
Courtesy of Universal Pictures

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映画『コカイン・ベア』が、2023年2月24日(米国時間)に米国で公開された(日本では9月29日に公開)。この“コカイン・ベア”というタイトルは、まるで薬物をキメている最中に思いついたかのように聞こえる。

モンスター・パニック映画の『スパイダーパニック!』『スネーク・フライト』『シャークネード』といった過去の作品と同じように、この映画の前提は“エレベーターピッチ映画”(エレベーターに乗る短い時間で内容を説明できるような映画)における「動物が間違いを起こす」というサブジャンルにぴったりと収まるものだ。

そのタイトル。そして「コカインでハイになって正気を失った頂点捕食者」というキャッチフレーズから、どんな映画を観ることになるのかはチケットを買う際にわかる。それにクマが薬物漬けになって暴れる様子を見たくない人間なんているだろうか? 売りやすい映画である。

だが残念ながら、『コカイン・ベア』は駄作である。「酔っ払いながら見るにはいい映画」ですらない。この映画はとにかくウケない。バラバラにぶった切ってバイラルにさせるYouTube向けのトレーラーをつくるためだけに製作されたのではないか──と感じざるをえないのだ。

本物のコカイン・ベアの運命

この映画は「現実の出来事に着想を得た」としているが、それは映画『ゴーストバスターズ』のマシュマロマンは現実のマシュマロから着想を得た、というのと同じ意味合いでの話だろう。本物の“コカイン・ベア”は、1985年に運命の日を迎えるまでジョージア州の山をさまよっていたアメリカクロクマで、その重さは175ポンド(約79kg)だった。

本物のコカイン・ベアにまつわる話は、次のようなものである──。元警察官の麻薬密売人がコカインの入ったダッフルバッグをいくつか飛行機から落とし、自身も飛行機からパラシュートで降りようとしたところで最期を迎えてしまった。彼が投下したコカイン入りの包みのひとつを見つけたクマは、3カ月後に死亡した状態で見つかっている。

その血中のコカイン量は4g近くで、胃の中には白い粉が「ぎっしりと詰まっていた」という。このクマは事件後に剥製にされ、ケンタッキー州レキシントンにある「ケンタッキーファンモール」という素敵な名前の施設に飾られることとなった。この施設は15年、この生物を「コカイン・ベア」と名付けた。

幸いなことに、映画をつくるにあたって“創造的自由”が行使されることになった。映画のほうのクマには面白い要素がたくさん付け足されたのである。

滑稽な作品は、嫌悪感に満ちた“スプラッター”に

映画はジョージア州にあるチャタフーチーの森の上で、音を立てて飛ぶ飛行機から始まる。そこでパイロットの格好をした、どう見ても1980年代の麻薬密売人にしか見えない人間がディスコ・ダンスを踊りながら、赤いダッフルバッグをいくつも非常口の扉から投げ捨てているのだ。

この人物は、現実世界の“事件”とほぼ同じ不名誉な結末を迎える。頭を打ち付けて意識を失い、ダッフルバッグを追うように地上へと落ちていくのだ。

その後、場面は飛行機の下に見えた森へと移る。そこでは、恋愛関係にあって互いにべた惚れしている2人組のハイカーが、自分たちの結婚式や自然界との一体感について繰り返し語り合っている。つまり、ふたりが散々な結末を迎えることは決まっている、ということなのだ。

案の定、ふたりはクマを見つけて写真を撮り始める。そして観客たちは、コカインで完全にハイになって松の木に向かって揺れ動く、CGIで描かれた剛毛を身にまとった野獣の姿を初めて見ることになるのだ。

その後すぐ、血にまみれた四肢が木々の間を飛ぶことになる。事前の警告にあったように、この映画には残酷な描写が含まれるのだ。残酷さが最高潮に達するなか、映画は滑稽な作品から嫌悪感を抱かせる作品へと変わる。腸が飛び出し、頭が転がっていくのだ。

その後、風変わりなキャラクターたちが麻薬を回収しようとブラッドマウンテンを訪れることになる。登場するのは、ずる賢い麻薬密売人のシド・ホワイト(演じるのは故人となったレイ・リオッタ)、弱気でプレーンなペンネパスタを好む彼の息子(演じるのはソロを演じたオールデン・エアエンライク)、そしてオシェア・ジャクソン・ジュニアが演じるシドの副官であるダビードだ。

さらに、ドラマ「THE WIRE/ザ・ワイヤー」に出演したイザイア・ウィットロック・ジュニアが演じる刑事も登場する。彼はシドたちの追跡に情熱を注いでおり、毛並みが整えられた彼の“ファンシーな犬”であるロゼッタのことを心配している。

薬物漬けのクマによる犠牲者たちもおり、こちらの興味を引いてくる。学校をサボった2人組の子どもと彼らを心配して探している母親、パークレンジャーとスモーキー・ベアを愛する野性的な生活を送る男。そして森を巡回して人々を刺して略奪を繰り返す、カラフルな衣装をまとったチンピラの一団などだ。一部は残酷なやり方で傷つけられる一方で、そのような目には遭わない者もいる。そして、この映画は終わりを迎えるのだ。

この映画の最大の“欠点”

シニカルな見方をすると、『コカイン・ベア』はアルゴリズムによる注目を生み出すよう設計されたと言える。映画『M3GAN/ミーガン』の人形による、ものすごく編集が加えられたちょっとした踊りのようなものだ。動物と薬物というインターネットで人気の出る話題をふたつ混ぜ合わせたのだから、ミームの素材としては扱いやすくなる。

問題は、この映画はオンラインジョークを多く生み出す機構のように感じられる一方で、この映画自体に仕込まれたジョークが比較的少ないことだろう。ジャド・アパトーの映画に出てくる薬物乱用者のように、あらゆる「心得顔の目配せ」を期待しているコカイン中毒者は、誰もが落胆することだろう。その数は驚くほど少ないからだ。

さらに興味深く、そして落胆させられることがある。この映画では、ナンシー・レーガンによるドラッグ撲滅の広告キャンペーン「ただノーと言おう」や、かの有名な目玉焼きを使った「これが薬漬けになった脳です」のコマーシャルなど、80年代の定番に対する曖昧なジェスチャーがある。ところが、それらに対する調査が徹底されていなかったり、満足に当てこすることさえできていなかったりするのだ。

これらはすべて、この映画の最大の欠点を指し示している。つまり、単に面白くないのだ。

監督のエリザベス・バンクスは才能あるコメディ俳優であり、彼女が監督したことで笑いのレベルが引き上げられてはいる。だが、ずば抜けて面白いのは、子どもたちがコカインを食べるにはテーブルスプーンを使うのだと思い込むシーンであって、それ以外の部分の脚本はおおよそつまらない。

つまり、刺激を与えることが肝の映画としては、勢いが明らかに足りていない。話はまるで、シラフのクマのようにのろのろと進んでいくのだ。最も笑えたのは、クリスチャン・コンベリーが春休み中に馬鹿騒ぎをする若者特有のあり余る元気で「最悪だ!」と叫ぶ場面である。

そしてこの映画を観終わったあと、いちばんよかったのは予告編だったと気づくことになる。それ以外はすべて興ざめなのだ。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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