伐採された枝葉や人間の排泄物が、減少する都市の樹木を助ける“救世主”になる

都市部から樹木が減り続けている米国で、緑化に向けた新たな取り組みが注目されている。剪定された枝葉や人間の排泄物などの廃棄物を活用する手法だ。
伐採された枝葉や人間の排泄物が、減少する都市の樹木を助ける“救世主”になる
PHOTOGRAPH: PeskyMonkey/Getty Images

米国の木々が苦境に陥っている。最新の推定によると、米国本土の在来樹種の6種に1種が絶滅の危機に瀕しているのだ。

その要因は、侵入してきた外来種や病気、気候変動、伐採、山火事といった増え続ける脅威である。さらに都市部では、毎年3,600万本にも上る樹木が姿を消していることが、米農務省森林局(USFS)による2018年の研究で明らかになった。

都市部で木々が減少している問題は、とりわけ気がかりである。都市部に生育する木々は、米国の都市のグリーンインフラにとって欠かせない役割をもつ。生い茂る葉の冷却効果なくして、地面を覆う広大なコンクリートとアスファルトが都市を高温のヒートアイランドに変え、人命を奪ってしまう可能性があるのだ。

それに拍車をかけているのが地球温暖化である。この結果、人々が暑さにやられないよう建物を冷やそうと、さらに多くの電力を使わざるを得ない状況に陥っている。

木々は大気汚染を抑制し、炭素を吸収する役割もある。都市部における樹木の減少がもたらす年間損失を、USFSは9,600万ドルと推定している

だが、こうした問題を多角的に解決できる手段がある。剪定済みの枝葉と人間の排泄物という安価な廃棄物を活用するのだ。それらは通常、ごみとして埋立地へと送られている。

イェール大学が公表した新たな分析は、次のように提案している。米国の都市部から出る伐採済みの枝葉などの乾燥廃棄物は、多くが埋め立てられたり焼却されたりする。それらをうまく活用すれば、新たに樹木を植えて育てたり、伐採を減らしたり、炭素排出を減らしたりできるというのだ。

木々の廃棄物をリサイクル

このアイデアが実現すれば、膨大な資源になることだろう。なにしろ米国内の都市部から出される剪定枝葉などの廃棄物は、毎年4,500万トンを超えているのだ。

「こうしたアイデアは何も新しいものではありません。市当局が持続可能性を高めるために予算を出し、実行に移せばいいだけの話です」と、植林活動に取り組むNPO「Arbor Day Foundation」の都市の森林化を推進するプログラムのマネージャーを務めるピート・スミスは語る。都市部では以前から、生育している木々の再利用とリサイクルが焦点となっているという。

イェール大学産業生態学センターのヤオ・ユアンが率いる研究チームは、葉を堆肥(コンポスト)に、枝や幹をウッドチップや建材に、残りをバイオ炭に変えれば、さまざまなかたちで環境に役立てられると考えた。「そうした製品は未使用原料として肥料などの代わりになる。それが、ひいては関連する環境へのインパクトを減らすことにつながる」と、論文には書かれている。

剪定された枝や幹を建材にリサイクルすれば、炭素を長期的に蓄えられ、伐採を減らすこともできる。また、バイオ炭は土壌の通気性や保水力、栄養の保持に役立つ。

米国の都市部から出される木々の廃棄物をリサイクルすることは、埋立地から発生する温室効果ガスの大幅削減にもつながると、論文の著者たちは考えている。研究チームの試算によると、排出が抑制される温室効果ガスは、米国の農業部門が排出する総量の28%に相当するという。

堆肥づくりには人間も貢献

リサイクルによって生まれる製品には、堆肥もある。堆肥は都市部での樹木の減少という問題に特化して、都市に戻してもいいだろう。

木々の根本を資材で覆うマルチングを施したり堆肥を与えたりすれば、森林の地面と似た環境をつくり出せるので、根の周辺の土壌の保水力と栄養を保持できるようになる。都市部の木々は高温で乾燥した厳しい生育環境に晒されることがあるので、保水と栄養の保持は重要な意味をもつ。

例えば、都市部を走る高速道路沿いに街路樹を植えれば、樹木被覆率は上昇する。一方で、土木工事による土壌の圧縮や表土の流出は、道路沿いに植えられた苗木にとって耐えきれないほど過酷なストレスになる。街路樹周辺の土壌に生ごみや伐採された枝葉などの有機物でできた堆肥が25%含まれていると、生存確率が大幅に上昇することが、20年の研究で示されている。

また、こうした堆肥をつくるために活用できるのは、伐採・剪定された木々の廃棄物だけではない。生身の人間も、木々に栄養を与えるうえで少しだけ役に立つことができる。つまり、排泄物を“リサイクル”するのだ。

こうして各地の下水処理施設が続々とバイオソリッドをリサイクルし、安全な土壌改良材を生産する方法を考案している。バイオソリッドとは、下水処理の過程で出る排泄物などの有機残留物で、こちらも埋め立てられたり焼却されたりすることが多い。

ワシントンD.C.に上下水道サービスを提供するDC Waterも、熱処理と加圧処理を施したバイオソリッド製品「Bloom」を生産している。Bloomが農家や造園業者などに販売される量は、22年の1年間だけで60,000トンに上る見込みだ。

DC Waterの資源回収部門のディレクターのクリス・ペオットによると、Bloomの目的は人間が出す排泄物についての考え方を変えることだという。「人間の排泄物は、じゃまなものではありません。資産なのです」

都市での活用事例も続々

都市部での緑化を増やすために、木々の廃棄物や人間の排泄物からつくられた製品をすでに活用している街もある。

テキサス州オースティンは処理済みのバイオソリッドと、市内から収集した枝葉や落ち葉などを堆肥にして数カ月ほど乾燥させた「Dillo Dirt」という土壌用品を製造している。これは数十年前に誕生した製品で、用途はさまざまだ。植林と街路樹などのメンテナンスにも使われており、オースティンでは06年以降、樹木被覆率が20%上昇した

ワシントンD.C.では、Bloomをブレンドしたさまざまな土壌改良用の製品が誕生している。砂とブレンドしたものや鉢植え用土、古くなったハードウッドの木くずが混ざった「Woody blend」もある。

Bloomをそのまま土壌に使用すると、窒素とリンの含有量が高いせいで植物が枯れてしまうのだと、DC Waterのペオットは説明する。そこで、剪定された枝葉やハードウッドなどの有機廃棄物とBloomを混ぜると、栄養バランスがよくなるという。「自然の土壌に近いものにしようと努めています」とペオットは語る。

Bloomのマーケティングとセールスを担当するディレクターのエイプリル・トンプソンによると、ワシントンD.C.の公有地や公園の世話をする人たちからは、Bloomを用いた土壌改良用の製品がとても効果的であるとの声が寄せられている。

「大麻にホップ、マリファナ──。Bloomはどんな植物の栽培も手助けしているかもしれません」と、トンプソンは語る。通り沿いに植えられている街路樹もBloomに助けられているという。また、ワシントンD.C.の当局から委託されて緑化に取り組んでいるNPO「Casey Trees」は、造園作業にBloomを取り入れている。

ワシントンD.C.は都市部の樹木減少という流れに逆らおうと、今後10年で樹木被覆率を28%から40%に引き上げる目標を掲げている。22年初めに発表された研究によると、木々には都市部における地表温度の急上昇を抑制する力があり、その冷却効果によって人命が救われる可能性もある。

もちろん、伐採された枝葉や人間の排泄物をリサイクルしただけで、都市部に生育する木々を増やすことはできないだろう。だが、都市部の樹木被覆率が減少する流れを食い止める一助となり、大きな効果が得られる可能性がある。それだけに、定着していくことを願うばかりだ。

DC Waterは、同じように熱処理と加圧処理を施したバイオソリッドから木々の栄養材を生産する取り組みを始めたバージニア州、ケンタッキー州、テキサス州、カリフォルニア州などの下水処理施設と情報交換するなど、協議をしている。

「業者に『下水汚泥を引き取りますよ、じゃまでしょう?』と言われるんです」と、ペオットは語る。「だからこう返すんです。『いや、じゃまなんかじゃありませんよ』とね」

WIRED US/Translation by Yasuko Endo/Edit by Daisuke Takimoto)

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