自動運転タクシーに強まる逆風、GMが傘下のクルーズへの支出を大幅削減へ

ゼネラルモーターズ(GM)が、傘下で自動運転技術を開発するクルーズの2024年の事業計画を縮小する方針を明らかにした。自動運転タクシーが歩行者を引きずって重傷を負わせた事故を受けた措置で、クルーズにとっての逆風になりそうだ。
自動運転タクシーに強まる逆風、GMが傘下のクルーズへの支出を大幅削減へ
Photograph: Andrej Sokolow/picture alliance/Getty Images

ゼネラルモーターズ(GM)が、自律走行車を手がける傘下のクルーズに対する支出を削減する方針を打ち出した。自動運転タクシーが歩行者を引きずって重傷を負わせた10月の事故の影響で、規制当局がサンフランシスコでの自動運転タクシーの営業許可を停止した事態を受けた措置となる。

GMの最高経営責任者(CEO)のメアリー・バーラによると、GMは2024年にクルーズへの支出を「大幅に削減」するという。「クルーズの事業拡大のペースは、事業再開時にはより慎重なものになると予想している」と、バーラは株主宛ての書簡で説明している。

投資家向け電話会議で最高財務責任者(CFO)のポール・ジェイコブソンは、24年の支出は「数億ドル」規模で減少するとの見通しを示した。クルーズは事故が起きるまでサンフランシスコとフェニックス、オースティンの3都市で自動運転タクシーを運行しており、今後も拡大する計画だった。この10月にGMは、今後は監視を担うドライバーなしでは車両を運行しない方針を打ち出している。

「わたしたちの現在の優先事項は、安全性と透明性、説明責任にチームを集中させることです」と、バーラは29日(米国時間)に説明している。「わたしたちは地方や州、連邦レベルの規制当局のほか、クルーズが(自動運転タクシーを)運行している地域の警察や消防などの初期対応者、そして地域社会との信頼を再構築しなければなりません」

そのうえでバーラは、こう付け加えた。「これは未来にとって重要な技術です。社会的な観点からも安全性の観点からも、正しく実施されなければならなりません」

クルーズにとって大きな後退

クルーズは10月の事故を受けてCEOのカイル・ヴォグトが辞任して以来、混乱が続いている。

クルーズによると自動運転タクシーは、別の車両にはねられた歩行者を認識して急ハンドルを切ってブレーキをかけたが、それでも女性をはねてしまったという。また、車両はクルマの流れから自動的に外れようとして路肩に移動して停止する際に、女性を20フィート(約6m)引きずった。この女性はサンフランシスコの消防隊によって車両の下から救出されている。

この事故を受けてカリフォルニア州車両管理局(DMV)は、クルーズが自動運転技術の安全性に関して「虚偽の説明」をしており、「車両は一般市民の運転にとって安全ではない」として、クルーズの自動運転タクシーのサンフランシスコにおける営業許可を停止したと発表した。

その後、クルーズは保有する950台の自律走行車すべてをリコールし、オースティンとフェニックスでのサービスも停止している。事故の以前、クルーズはダラスとヒューストン、マイアミでの商用運行の開始を計画していた。

オースティン市が管理する記録によると、クルーズの自動運転タクシーが警察による手信号を理解しないことについて、地元警察が今年だけで2度にわたり苦情を申し立てたという。「わたしが見たなかで最大かつ恐らく最も危険な問題は、交通整理をしているときです」と、ある警察関係者は指摘している。警察官が信号とは異なる指示を手信号で出すと、自動運転タクシーは「加速するか、その場で停止する」と、記録には書かれていた。

GMは16年に10億ドルを投じて創業3年目のクルーズを買収した。GMの財務報告書によると、それ以降のクルーズは17年以降に82億ドルの損失を出している。GMは今年、少なくとも19億ドルをクルーズに投じていた。

GMのバーラによる発表は、米国における自動運転タクシーの主要事業者でありアルファベット傘下のウェイモと競合するクルーズにとって大きな後退となる。なお、ウェイモはサンフランシスコとフェニックスで自動運転タクシーの営業を続けている。

WIRED US/Translation by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による自動運転の関連記事はこちら


Related Articles
A self-driving car parked in front of a busy cafe
自律走行車を手がけるゼネラルモーターズ(GM)傘下のクルーズの最高経営責任者(CEO)であるカイル・ヴォグトが辞任した。自動運転タクシーが歩行者を引きずった事故に関連して批判に晒されるなか、その戦略はどこへ向かうことになるのか。
article image
自動運転タクシーの人身事故の影響で営業停止となったゼネラルモーターズ(GM)傘下のクルーズ。カリフォルニア州での有料運行の営業停止を経て、人員削減などの戦略変更を迫られている。
Cruise autonomous vehicle in San Francisco
ゼネラルモーターズ(GM)傘下で自動運転技術を手がけるクルーズが有料運行を始めたばかりの自動運転タクシーについて、カリフォルニア州が営業許可を停止すると発表した。別のクルマにはねられた女性を引きずった事故によるもので、今回の営業停止は業界にとって深刻な痛手になりそうだ。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.50
「Next Mid-Century:2050年、多元的な未来へ」発売中!

『WIRED』US版の創刊から30周年という節目のタイミングとなる今号では、「30年後の未来」の様相を空想する。ちなみに、30年後は2050年代──つまりはミッドセンチュリーとなる。“前回”のミッドセンチュリーはパックスアメリカーナ(米国の覇権による平和)を背景に欧米的な価値観や未来像が前景化した時代だったとすれば、“次”のミッドセンチュリーに人類は、多様な文化や社会や技術、さらにはロボットやAIエージェントを含むマルチスピーシーズが織りなす多元的な未来へとたどり着くことができるだろうか? 空想の泰斗・SF作家たちとともに「Next Mid-Century」を総力特集する。詳細はこちら