ドナルド・トランプの逮捕写真は“永遠のミーム”として歴史に残る

米国の元大統領であるドナルド・トランプは、常に視覚メディアを通して人々とコミュニケーションし続けてきた。このほど公開された公式なマグショット(逮捕後に撮影される顔写真)は、“永遠のミーム”として歴史に残るかもしれない。
Former U.S. President Donald Trump mug shot
Photograph: Fulton County Sheriff's Office/Getty Images

初めてドナルド・トランプという人物を目にしたのは、1994年のテレビ番組でのことだった。ウィル・スミス扮するキャラクターが上流階級になじもうとする姿を描いた番組で、NBCで6シーズンにわたって放送された人気連続青春コメディードラマ『ベルエアのフレッシュ・プリンス』のあるエピソードである。

このエピソードにもトランプの出演部分にも、特に記憶に残るような要素はない。トランプは本人役で出演しており、自身を少し“丸く”したような役柄だった。

しかし、昔はこれこそが「トランプ本人」であると思っていた。トランプは本物の不動産取引のプロであり、リアリティー番組のスターであり、そして最終的に米国の第45代大統領になった人物だと認識していたのだ。そして昔もいまも、トランプは視覚メディアを通して人々に訴えかけることに長けている。

そのトランプが、またもや視覚メディアを通して訴えかけている。米国東部時間で8月24日午後8時というゴールデンタイムを少し過ぎたタイミングで、ジョージア州フルトン郡の拘置所が撮影したトランプのマグショット(逮捕後に撮影される顔写真)が公開され、インターネット上で大きく拡散され始めたのだ。

それからというもの、このマグショットは現代で最も歴史に残る画像のひとつであるとまで評されている。そして、そう評されても何らおかしくない画像である。このような画像は、誰も見たことがない。まさに「トランプ・オリジナル」とでも呼ぶべき写真なのだ。

発揮された“トランプ・マジック”

トランプはジョージア州で2020年の大統領選挙の結果を覆そうと結託し、その主導的役割を果たした疑いで18人とともに起訴されている。その18人とは、トランプ政権の時代に大統領首席補佐官を務めたマーク・メドウズ、米司法省の高官、数多くの弁護士、広報担当者、そして牧師などだ。

ジョージア州では、重罪の場合にマグショットの撮影が法律で義務づけられている。トランプの多くの画像と同じくマグショットのトランプは、険しい表情を少しでも柔らかくしようとはしていない。怒りそのものをむき出しにした、毒々しく脅すような表情なのだ。

ただ、この写真1枚だけなら誰も大騒ぎしない(実際のところトランプの写真は大統領時代にいろいろと話題になっていたので、いまでは多少のものでは誰も驚かない。トランプが光る球体と写っている写真を覚えているだろうか?)。なぜ騒がれているかといえば、大統領経験者がマグショットを撮影された初めての例であるなど、この写真には大きな意味があるからだ。

それでもこの写真が醸し出す雰囲気は、おなじみのトランプといった感じだ。眉間にしわを寄せたしかめっ面。輝くふんわりとした髪。見る者を射抜くような、標的を探すような厳しい眼差し──。カメラは明るさの調整が甘いが、それもこの写真の雰囲気をより厳しくしている。トランプの影の部分がはっきりと見てとれるのだ。

トランプは視聴率を獲得する戦略に長けた人物であり、政治的なリブランディングを好むショーマンである。だからこそ、画像は人々の心に残ること、そして時には無言の画像こそ最も雄弁に語るということを、トランプは理解している。ひょっとすると、トランプほどそれを理解している人物は少ないかもしれない。

実際にトランプのこの理解は極めて本能的なもので、トランプはこのマグショットを当日夜に「X」(旧Twitter)に投稿して、資金集めの道具にまでしていた。トランプは「決して降伏(surrender)しない!」と投稿していたが、その投稿が出頭(surrender)後のタイミングだったとは皮肉な話だ。

政治ニュースメディア「POLITICO」によると、この写真によって先週から700万ドル(約10億2,000万円)超が集まっているという。これはまさに“トランプ・マジック”のなせる技だ。トランプはソーシャルメディアという戦場で卓越した能力を発揮し、時にはミームとして、時には救世主として大拡散されていくのだ。

避けられない議論

メディアやオンラインでのトランプ像をかたちづくっているのは、型破りのインタビュー映像、「Photoshop」で加工された画像、そして敵意むき出しの音声クリップなど、論争を呼ぶような上品を装わないトランプの姿だ。ドナルド・トランプを語る上では、その姿を捉えた写真について語らないわけにはいかない。生意気な表情でいつ何をしでかすかわからず、頑固で予測不能な姿が、その写真を通して提示されている。

トランプが共和党の大統領候補者の指名争いで先頭を走っていることを考えれば、このマグショットについて議論しないわけにはいかないだろう。わたしたちはこの写真から目を背けるべきではないし、今回こそはトランプが現実というレンズを通した追求をこれまで通りやすやすと逃れることを許すべきではない。

まさにそのことを、このマグショットははっきりと伝えている。ジョージア州のファニ・ウィリス地区検事長がトランプの有罪を立証できるかどうかにかかわらず、このマグショットには犯罪者の雰囲気が漂っているのだ。

そう言ってしまえば、反論もあるだろう。その意見はフェアではないという人々もいるはずだ。その意見は「魔女狩り」だと、おなじみの反論をする人々もいるかもしれない。

だが、2020年の大統領選でジョー・バイデンに敗れたトランプが、その結果を覆そうと結託したことは事実であり、仮に事実でないならトランプは裁判でそれを証明しなければならない──と考えている人々にとっては、今回のマグショットはその考えの裏付けになったことだろう。来週にはトランプや同時に起訴された被告たちの罪状認否が予定されている。その行方を「世論」という法廷が注視しているのだ。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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