映画監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが語る『デューン 砂の惑星PART2』の制作意図

前作の公開から約3年。ついに日本でも公開となった『デューン 砂の惑星PART2』。全編IMAXカメラで撮影された本編には、いかなるこだわりが込められているのか。制作の背景を、映画監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが語る。
映画監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが語る『デューン 砂の惑星PART2』の制作意図
Photograph: Robert Okine/Getty Images

前作を凌ぐ高評価を得たPART2

現在公開中の『デューン 砂の惑星PART2』。先見性に満ちた伝説的な「生態系SF」であるフランク・ハーバートの小説を原作とする本作は、2021年に公開された『DUNE/デューン 砂の惑星』の待望の続編だ。

コロナ禍で制作され、当初は2023年秋に公開が決まっていたが、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキの影響を受け公開は延期。ひと足先に公開された米国では、第96回アカデミー賞で10部門にノミネートされ6部門で受賞を果たした前作を凌ぐ、最上級の評価を得ている。

前作では、西暦10190年、皇帝の命令で砂漠の惑星アラキス、通称デューン(砂の惑星)を統治することになったレト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)が、対立関係にあるハルコンネン家の陰謀によってこの世を去った後、アトレイデス家の後継者である息子のポール(ティモシー・シャラメ)とその母レディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)が砂漠へ逃れ、“砂漠の民”フレメンと出会うまでが描かれた。

前作の数時間後から始まるPART2は、運命を背負って生まれたポールが、フレメンの文化や生きる術を学び成長、“救世主”となり、やがて一族を破滅させた者たちへの復讐を果たすために残忍な敵と対峙することになる。

広大な砂漠を舞台に移した本作は、いよいよ、ヴィジュアリストであるヴィルヌーヴの真価が発揮される。

「白い大きなスクリーンの力によって、その世界に没頭できる映画。それこそが、わたしの好きな映画なんです。そう、わたしはとにかく劇場体験が大好きで、劇場でのその威力を存分に味わえる映画をつくることに全力を尽くしています。つまり、常に大きい白いスクリーンのことを考えて、脚本、デザイン、撮影、編集といった作業を行なっているわけです。もちろん、サウンドデザインも重要です。

将来、VR技術が発達し、視界を埋め尽くすようなスクリーンが登場するかもしれません。しかし、それでも巨大なスクリーンで目にする精細さにはかなわないし、音響にしても劇場で体験するレベルにはならないでしょう。湧き上がったビジョンを、よりインパクトのあるかたちで具現化するためには空間が必要です」

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Courtesy of Warner Bros. Pictures

そう語るヴィルヌーヴは、撮影監督や美術デザイナーなど、自身の美意識や映画的なボキャブラリーを共有している前作とほぼ同じスタッフを再び呼び集め、さらなる高みを目指した。

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「大規模なセットであっても細部に至るまで非常に精緻で、目を見張りました。例えば大聖堂は、巨大な教会の中に入っていくような気分にさせられましたし、壁に近づけば、美術担当のパトリス・ヴァーメットと言語学者デイヴィッド・J・ピーターソンが取り組んできた"本物の言語"であるフレメン語の予言が書かれていました。ディテールに至るまで非常にレベルが高いプロダクションデザインは、とても印象的でした。

特にわたしのお気に入りのセットは、鳥の洞窟です。パトリスがブタペストの屋外に再現した自然の地層のようなものです。とても詩的で、巨大な動物の骨格の中にいるような感覚になりました」

エネルギッシュな“撮影言語”が不可欠だった

スタッフのなかでも特に、撮影監督のグリーグ・フレイザーの貢献は特筆に値するだろう。マット・リーブス監督の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(22年)、ギャレス・エドワーズ監督の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16年)や『ザ・クリエイター/創造者』(23年)でも知られる彼は、米国アカデミー賞、英国アカデミー賞(BAFTA)、全米撮影監督協会(ASC)賞を受賞している前作『DUNE/デューン 砂の惑星』(21年)では、自然や宇宙、砂漠のシーンでIMAXカメラを使用した。そして惑星アラキスの砂漠でのシーンが多かった今回のPART2では、そのダイナミズムを表現するために、全編IMAXカメラによる撮影を敢行した。

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「技術的に、この映画が(前作と比べて)より野心的なものになることは、ふたりともわかっていました。前作は、新しい惑星と文化を発見し、陰謀の犠牲者となって生き延びる少年を追ういわば瞑想的なストーリーでした。2作目では、その少年は立ち上がり、成長し、戦士になる。この映画が戦争映画であることはおわかりいただけると思いますが、前作とは明らかに違ったリズムがあり、主人公のポールはより男性的になるのです。

それを表現するためには、よりエネルギッシュな『撮影言語』が必要でした。例えば今回、わたしたちは自然光だけを使って撮影しました。それは、わたしにとってとても重要なことだったんです。実際、グリーグに撮影を頼んだのは、彼の太陽光の使い方が大好きだったからなんです。そして彼は、ビジュアル面において絶対に妥協をしません。それが、わたしがグリーグを絶対的に尊敬している理由です。

とはいえ、自然光で撮影するために、わたしたちはとても複雑な撮影スケジュールを組む必要がありました。砂漠のシーンのほとんどは、太陽や風景に応じていろいろな場所で撮影しました。前作でも、同じシーンを異なる場所で撮影しましたが、本作では12〜14の異なる場所で撮影したこともありました。

とてもチャレンジングなことでしたが、わたしは現実を裏切るというか、つくり出すのが大好きなんです。編集室でその最終的な結果を見たときは、非常に手応えを感じました。グリーグとわたしが妥協しなくてよかったと思えました。彼は、太陽の方向を予測するためにソフトウェアを使うんです。

例えば、岩の周りで戦闘シーンの撮影がある場合、グリーグは岩とその周りの地形をコンピューターに取り込み、撮影日に合わせて太陽の角度を計算し、『11月3日なら、太陽の位置的に9時45分が最適な時間だ』と割り出す。だから、正しい位置にカメラを設置するためには9時13 分には現地に到着し、設定を完了していなければならない……と、そんな感じでした。とても遊び心があり、とても濃密な時間でしたね」

PART2ではモノクローム映像も使用される。ハルコンネン家の本拠地である惑星ジェディ・プライムのパートである。“独裁がはびこり、繊細さやニュアンスは存在しない厳格な世界”をモノクロームで撮影することで、その冷徹さ、残虐さが強調された。

特に、今作で最大のヴィランとなるサイコパス、フェイド=ラウサ・ハルコンネン(オースティン・バトラー)の闘技場での剣闘シーンは、本作において最も印象に残るシーンのひとつだ。また、ポールがサンドワーム(砂蟲)を颯爽と乗りこなすシーンは、原作ファンにとってもまさに夢の実現といえるだろう。

「このシーンを実現できたことに、わたしは深く純粋な喜びを感じています。まさにわたしが夢見ていたシーンだからです。このシーンを撮ることは、わたしがこれまでに試みたことのなかでも、圧倒的に複雑なものだった気がします。多くの労力を要しましたが、『サンドワームに乗ることは可能だ』と、観客には心の底から信じてほしかったんです。だから、エレガントで、危険で、エッジの効いたエキサイティングなシーンにしたいと思いました。幸い、スタジオはこのシーンの重要性を認めてくれ、思う存分撮影ができる技術や機材を与えてくれました」

ヒロインのキャラクター性に込めたもの

原作からの変更という点でいえば、ゼンデイヤ演じるチャニのキャラクターだろう。前作において、ポールの夢に登場する謎の女性として登場したチャニは、本作ではポールと恋人関係となり、同時に、彼に砂漠を生き抜く術を教えるよき戦友となる。ふたりの関係は、この壮大なスペクタクル巨編において、エモーショナルな旅を牽引することになる。

「ポールとチャニの親密な関係に焦点を当てることは、とても重要でした。それがこの映画の心臓の鼓動であり、ふたりの関係こそが、この作品におけるドラマの要となるからです。チャニとポールの目を通して、わたしたちは政治的圧力や文化的圧力を感じる。なのでわたしは、ふたりの間にある緊張感に焦点を当てて本作を構成しました。スタッフには『彼らの関係を信じなければ、映画は成立しない』と言い続けましたね」

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Photograph: Niko Tavernise

壮大なスペクタクルで復讐劇を描き切ったPART2だが、“救世主”として力を得た彼の行く手には宇宙全体を巻き込む戦いが控えている。新たなる紛争と戦争の時代に、60年代のSF世界観は、どれほど今日を反映しているのだろうか。

「少年が最終的に故郷を見つけ、異文化のなかで自分のアイデンティティを確立する。それはとても美しく、感動的なことだと思います。またフランク・ハーバートによる原作は、『人間の精神』というものに多くの希望をもたらす小説でもあります。

人間の精神が勝利するために人工知能(AI)を禁止し、機械を改良する代わりに人類を改良するという考え方は、非常に力強いメッセージだと思います。また、生態系が人間に与える影響や、人間が生態系とどのような関係にあるのか、自然との関係における神聖な性質をどのように再構築すべきか、といったことの探求も、本作の大きなテーマです。自然を支配しようとするのではなく、フレメンのように自然と調和し、自然を尊重することもできるのですから。

わたしは、スクリーンに何らかのニュアンスをもたらすことが好きです。ゼロかイチかでも、白か黒かでもなく、もっとニュアンスのあるものであってほしい。純粋な悪は存在するが、それは稀です。つまり、たいていの場合は見方の問題なんです。

もちろん、ハルコンネン男爵が悪であることに疑問をもつ人はいないでしょう。しかし、皇帝であるシャッダム四世(クリストファー・ウォーケン)はどうでしょう。政治的な駆け引きに搾り取られ、悪辣な決断を下した人物ではあるけれど、純粋な悪かどうかは疑問です。そして重要なのは、フランク・ハーバートが小説を書いたとき、彼には明確な意図があったという点です。

ハーバートはこの作品を訓話として、具体的には『メシア的人物に対する警告』として受け取ってほしいと思っていましたが、実際には逆の受け止められ方をしました。ハーバートはポールをアンチヒーローとして描いたつもりだったのに、読者の多くはポールを英雄だととらえたのです。そこで彼はその認識を正すべく、続編『デューン 砂漠の救世主』を書きました。わたしは今回の映画化において、フランク・ハーバートの最初の意図に近づけようとしているのです。つまりこの映画は警鐘であり、世界には、ゼロかイチかではないニュアンスがあることを示しているのです」

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