大量の「電子廃棄物」がグローバル危機をもたらしている:国連レポート

国連の最新レポートによると、世界中で生み出される年間620億kgの電子廃棄物のうち、リサイクルされるのはわずか4分の1だという。同時に、電子機器が修理できることの重要性も指摘されている。
Closeup of a large number of broken cellphones including cracked cellphone screens with exposed wiring
Photograph: Smith Collection/Gado/Getty Images

スマートフォンやコンピューターは永遠に生き続けるわけではない。水に落としてしまうかもしれないし、犬がおもちゃにしてしまうかもしれない。もちろん、そのうち時代遅れにもなるだろう。修理ができず廃棄することになった場合、そのデバイスは電子廃棄物となり、お役ごめんになったテレビ、冷蔵庫、洗濯機、カメラ、ルーター、電動歯ブラシ、ヘッドフォンなどでできた巨大な山に仲間入りすることになる。これらは「electrical and electronic equipment(電子電気機器)」、略してEEEと呼ばれ、プラグもしくはバッテリーを備えたあらゆる製品がそこに含まれる。そしていま、EEEが制御不能になりつつある。

経済が発展し、大量消費文化が全世界に拡がるにつれ、電子廃棄物が環境に対する深刻な脅威となり始めている。高所得国に住む人々はひとり当たり平均して109台のEEEを所有している。その一方で、低所得国ではわずか4台に過ぎない。国連が3月に発表したレポートによると、2022年時点で、人類は約620億kgの電子廃棄物を生み出している(地球上の全人口を基準にすると、ひとり当たり7.7kg以上を廃棄していることになる)。リサイクルされている量はその4分の1にも満たない。

廃棄物には、鉄、銅、金など、再利用可能な素材がおよそ620億ドル(約10兆円)分含まれている。それだけの価値が、毎年ゴミ廃棄場に捨てられるのだ。このペースでいけば、電子廃棄物は2030年までに33%増加し、リサイクル率は20%にまで低下すると考えられる(それを図示したのが下のグラフで、ピンクは市場にあるEEE、黒は電子廃棄物、緑はリサイクルされる廃棄物を表している)。

Courtesy of UN Global E-waste Statistics Partnership

回収、再利用されるより速く増加

「本当に気がかりなのは、電子廃棄物が回収および再利用されるよりも圧倒的に速いペースで増加しているという事実です」と語るのは、国連訓練調査研究所の上級調査員で、同レポートの筆頭著者でもあるキース・バルデだ。「わたしたちは消費しすぎ、そして、あまりにも早く捨てすぎなのです。安いからというだけの理由で、必要ないものまで買っています。しかも、そうした製品は修理できるように設計されていません」

人類はリサイクル率をすみやかに高める必要があるとレポートは主張している。下のグラフを見れば、かなりの量の金属を節約できることがわかる。その大半は鉄(化学記号はFe、色は明るいグレー)で、ほかにアルミニウム(Al、濃いグレー)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)も多い。EEE金属には、亜鉛、スズ、アンチモンなども含まれている。同レポートの調べでは、すべてをひっくるめると、22年に生み出された電子廃棄物には308億kgほどの金属が含まれていた。

Courtesy of UN Global E-waste Statistics Partnership

リサイクル作業に伴う危険

電子廃棄物は分解するのが難しい。洗濯機はテレビとはまったく違う部品でできている。また、同じ製品カテゴリーであっても、各ブランドによって製造過程が異なるのはもちろんのこと、同じブランド内でさえ、モデルによってつくり方がまったく違うこともある。30年前の洗濯機と違って、新しい洗濯機には数多くのセンサーや電子部品が使われている。

さらに厄介なことに、コバルト、難燃剤、鉛などといった有害物質を含む電子廃棄物も多い。レポートによると、不適切に処理された電子廃棄物から、毎年約57,000kgもの水銀が流出し、人間や動物の健康を危険にさらしている。「電子廃棄物の流れは極めて複雑です」と、ヴァネッサ・グレイは説明する。国連機関である国際電気通信連合(ITU)の環境および緊急通信部門の長として、今回のレポートの作成に携わった人物だ。「電子廃棄物には多くの価値が含まれていますが、同時に環境を危険に晒す有害物質も多く含まれているのです」

そのため、電子廃棄物のリサイクルは危険な作業となる。低所得国や中所得国では、リサイクル業者が電子廃棄物を回収するために、各家庭を訪問することもある。そして再利用価値のある金属を取り出すために、適切な安全設備のないまま部品を溶かし、自らと環境を汚染している。レポートでは、全世界で約33億kgの電子廃棄物が適切な監視を受けずに取引されていると指摘されている。つまり、それだけの量で、どう処理されているかがわかっていないのだ。環境に優しい方法で処理されているとはとても考えられない。そうこうしているうち、22年に高所得国が低所得国もしくは中所得国に輸出した電子廃棄物の量は8億kgを超えた。そうやって、危険物質を他国に押しつけたのだ。

高所得国は電子廃棄物の一部を非公式なかたちでリサイクルしているが、自国内にも電子廃棄物を分類して安全に解体するための施設を有している。例えば欧州の電子廃棄物のリサイクル率はかなり高く、およそ43%と推測されている。しかし世界的に見ると、電子廃棄物の年間増加量に、リサイクル率の増加がまったく追いついていない。人類は、適切な手段を用いてEEEから金属を取り出そうとせずに、地中から新たに採掘し続けている。

だが、現在リサイクルされている微々たる量の電子廃棄物でさえ、22年には、1兆kg近くの新規金属鉱石の採掘を避ける役に立ったとレポートでは指摘されている(ほんの少しの金属を得るために、大量の鉱石を採掘する必要がある)。電子廃棄物から再利用する金属を増やせば増やすほど、ガジェットの普及に必要な金属の採掘量は減ることになる。その結果、採掘で生じる温室効果ガスが減り、生物多様性の損失も回避できるだろう。

Courtesy of UN Global E-waste Statistics Partnership

修理ができることの重要性

しかし、電子廃棄物は複雑であるため、処理にはコストがかかる。上のグラフが示すように、野心的なシナリオを想定しても、2030年における電子廃棄物の回収率は44%でしかない。「電子廃棄物の回収をし、持続可能なやり方で収益を上げられたビジネス実例は成立しません」とバルデは言う。「法が整備され、補償がされない限りは無理でしょう」

現在、81の国が電子廃棄物に関する政策を制定していて、そのうちの67カ国が拡大生産者責任(EPR)に関する規定を設けているとレポートでは指摘されている。例えば、EEE製造業者が電子廃棄物の処理費用を負担する規定などだ。

もちろん、一般の消費者が多くのデバイスを捨てるのをやめるのが、いちばんの対策だろう。修理する権利を求める人たちが何年も前から要求してきたことだ。例えばバッテリーは、充電サイクルが一定回数に達すると容量が減ってくる。スマートフォンが1回の充電で1日もたなくなったら、ユーザーが自分で新しいバッテリーに交換できるような状況をつくるべきなのだ。「修理ができないわけではないのに、そこに人為的に制限をかける権限を、メーカーがもつべきではありません」と、修理用のガイドやツールを提供するiFixitで持続可能性部門を率いるエリザベス・チェンバレンは言う。部品や資料の入手制限もこれに含まれる。「修理とは、危害を減らす手段なのです。修理ですべての問題がなくなるわけではありませんが、地球というひとつの社会に生きるわたしたちが、地球を使い尽くすペースを落とすために欠かせない行動のひとつです」

電子廃棄物がもたらす危機の根底には需要がある。地球の人口は増え続け、誰もが通信のために電話を、食べ物を腐らせないために冷蔵庫を、屋内で快適に過ごすためにヒートポンプを必要としている。だからこそ、何よりもまず、簡単には壊れない高品質な製品が必要なのだ。それに加えて、壊れたときに修理する権利も求められている。修理できなくなったものだけを、安全で確実なリサイクルシステムに回すのだ。「わたしたちはあまりにも大量に消費しています」とバルデは言う。「本当にリサイクルだけでは問題を解決できません」

(Originally published on wired.com, translated by Kei Hasegawa, LIBER, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』による電子廃棄物の関連記事はこちら


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