生まれ変わったサッカーゲーム「EA SPORTS FC 24」の中身は、よくも悪くも“FIFA 24”と変わりない

世界で最も人気のサッカーゲームが「EA SPORTS FC 24」として生まれ変わり、その名称からは「FIFA」のブランドが姿を消した。しかし、その中身は非常になじみのあるものになっている。
Soccer players on the field in a game still from EA Sports FC
Courtesy of EA

別離とは、つらいものだ。しかし、それが「自由」を意味する場合もある。「EA SPORTS FC 24」のプロデューサーに聞いてみるといいだろう。

長きにわたって愛されてきた人気のサッカーゲーム「FIFA」シリーズが、“泥沼”ともいえる離婚劇の末にリブランドされた。30年も続いた関係に終止符が打たれたのである。

「値上げしたライセンス料を支払わなければ、『FIFA』の名称をEA SPORTSが使用し続けることを拒否する」──。国際サッカー連盟(FIFA)がそう発表したのは、2021年のことだった。これに対してエレクトロニック・アーツ(EA)側は、「相次ぐスキャンダルに揺れるFIFAとの提携に価値はあるのか」と疑問に感じていた。こうして9月29日に発売された「EA SPORTS FC 24」により、この“離婚”は決定的となったのだ。

全世界で何億本も売れたFIFAシリーズは名称も見た目も新しくなり、別離後の輝きを放っている。再び世界で、今度は自力で成功しようとしているのだ。

その変貌ぶりは、タイトル画面からも一目瞭然である。メニューは数年ぶりに刷新された。ボックス型アイコンは白地に黒のテキストに置き換えられ、高級カクテルのメニュー(あるいは中年離婚した男性の家)を連想させる。そして二の腕のタトゥーにしてもよさそうな新しいスタイルのロゴが追加された。

実際にゲームが発売されてユーザーが楽しみ始めるころまでには、おおむね問題は解消されている。それでも、このゲームを短時間だけプレイした範囲で言えることは、従来のFIFAシリーズがリリースされたばかりの時点での印象と比べても、明らかによくなっているということだろう。

通常なら最初の数カ月は、ゲームプレイをスムーズにするために何度も修正プログラム(パッチ)がリリースされ、落ち着くまでに少し時間がかかるものだ。しかし、すでにパス回しも(特に新しい「プレシジョンパス」では)サクサク動き、選手の動きも十分に滑らかだ。クロスパスも、まっすぐ場外へと飛んでいったのは1回だけだった。

表現のリアルさが正常進化

これらの要素は、FIFAシリーズでも採用されていた「HyperMotion」テクノロジーの最新版「HyperMotion V」や、選手の筋肉や体型の特徴を細かく再現するモデル「SAPIEN」、進化したゲームエンジン「Frostbite」など、スポーツゲームにありがちな用語で飾り立てられている。だが、要するに「ユニフォームの生地の波打ち具合」「髪の跳ね具合」「ディフェンスとオフェンスのフィジカルなぶつかり合い」といったリアルさが正常進化したのだ。

体積データが人工知能(AI)によって解析され、お気に入りの選手は手や指に至るまで本物そっくりに動くようになった(ただし、ひとつだけおかしな点がある。ゲームをロードした際の標準設定のカメラが、超ズームアウトの戦術カメラなのだ。これだとピッチはよく見えるが、細部がまったくわからない。このため、1試合目の途中でもっと近い視点のカメラに変更した。単に年をとっただけなのかもしれないが)。

「キャリアモード」も微調整された。監督が選べる戦術哲学は、練習場から偵察行動に至るまでクラブ全体に波及する。選手のキャリアに関しては、大金での移籍を斡旋してくれるエージェントが追加された。EAはチャンピオンズリーグを含む全主要リーグとライセンス契約を結んだので、すべてのクラブと選手たちが登場し、内容も正確だ。

最大の変更点は、おそらくプレイスタイルだろう。スポーツの統計データを提供するOpta Sportsのサッカーのデータを活用することで、キリアン・エムバペの足の速さ、キーラン・トリッピアーの鋭いクロス、カイ・ハフェルツの強烈なだけではなく足側面で蹴る奇妙なパスショットなど、現実世界の選手と同じような能力を各選手に付与している。また、サウジ・プロフェッショナルリーグも含まれているので、ネイマールやクリスティアーノ・ロナウドのファンも心配無用だ。

見えづらい大きな変化

問題のあるコンテンツでいえば、EAのトレーディングカードにインスパイアされたドル箱コンテンツ「Ultimate Team」モードが過去にないレベルでパワーアップして戻ってきた。よかった点は、男女のサッカー選手が初めて一緒にプレーできるようになったことだろう。

また、EAが「生活の質の向上」と呼ぶところの微調整もいくつかあった。しかし実際には、このモードは「批判を避けながら、もっと多くの“ガチャ”を引かせる手段」のように思える(そして興味深いことに、サウジ・プロフェッショナルリーグにスター選手が多く移籍していることと、サウジのリーグに在籍する選手を選ぶとパフォーマンスが上がるという「Ultimate Team」のシステムのせいで、子どもたちの間に「サウジアラビアのサッカー」が急速に浸透しつつある。まるで「金で買えるソフトパワー」のようだ)。

「このゲームはよくない」と言っているわけではない。2010年ごろから毎年そうだったように、「EA SPORTS FC 24」は史上最高のサッカーシミュレーションゲームだ。しかし、大幅な変更を期待していたファンはがっかりするかもしれない。

これがEAの抱える問題点だ。新バージョンが出るたびに直前のバージョンとだけ比較されるので、長い時間軸のなかで少しずつ生じた大きな変化が見えづらくなっている。

EAは10年前に完璧なサッカーゲームを完成させた。それ以来、プレーヤーがより多く課金するように段階的な改善を加えてきた。

FIFAとの提携解消による最大の長期的な影響は、以下の通りかもしれない。FIFAとの提携でEAはブランド名の権利と選手のライセンスを得たが、開発者としてゲームから収益を得る方法は制限された。『ニューヨーク・タイムズ』が報じたところによると、EA SPORTSはもっと多くの企業やブランドとの提携を望んでおり(FIFAと提携しているときは不可能だったことだ)、「チームジャージやその他の商品を顧客に直接販売する方式をつくりたい」と考えている。

現在の「EA SPORTS FC 24」は、よくも悪くもFIFAによく似ている。ゲームプレイには変化の兆しが見られ、最終的にシリーズがワクワクする新たな方向へと向かう可能性はあるものの、多くの若い観客から収益を得る新たな方式への可能性も残したままだからだ。

別離は自由を意味する場合もある。ただし、常にいい意味であるとは限らない。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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