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イーロン・マスクが買収したTwitterに、“大変革の時代”がやってくる

イーロン・マスクがツイッターを買収したことで、大変革の時代がやってくる。Twitterを「デジタル世界における街の広場」にしたいと考えているというマスクによって、そのあり方は大きく変わることが予想される。
elon musk
Photograph: CARINA JOHANSEN/REUTERS/Aflo

テスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクが、とうとうツイッターのオーナーになった。自ら始めたツイッター買収計画を取りやめようと、数カ月にわたって奔走したにもかかわらずである。

そしてマスクは、ただちに大きな改革を始めたようだ。『ワシントン・ポスト』の10月27日の報道によると、ツイッターCEOのパラグ・アグラワル、最高財務責任者(CFO)のネッド・シーガル、相談役のショーン・エッジット、そして法務ポリシー・信頼・安全責任者のヴィジャヤ・ガデが解雇された。シーガルはその後、自身のプロフィールをツイッターの「前CFOで現在はファン」に更新している。

こうした大改革は、これで終わりではなさそうだ。ツイッターが買収に合意したと4月に発表した際、マスクは「Twitterに新機能を追加したり、アルゴリズムをオープンソース化してさらに信頼されるプラットフォームに育てたり、スパムボットを撲滅したり、すべての人を認証したりすることでTwitterを強化し、これまでになくいいものにする」ことを望んでいると語っていたのである。

実業家であるマスクのその後のツイートや公的な発言内容、そしてツイッターがマスクに今回の買収を契約通りに進めるよう求めた裁判で明らかになったプライベートのテキストメッセージを読み解くと、そこからはマスクがツイッターを全面的に改革していこうと意気込んでいるものの、その内容にはときに矛盾が見られることがわかる。

こうした改革の多くについては、TwitterのユーザーやTwitterを研究する人々、それにツイッターで働く人々から懸念の声が上がっている。欠点がないわけではないにせよ、他に類を見ないオープンなオンライン空間を世界が失ってしまうのではないかという懸念だ。

マスクが自身の構想を部分的にでも進めれば、TwitterのユーザーはTwitterというプラットフォームの機能や、そこで展開される社会的力学が大きく変容するさまを目の当たりにする。そして混乱することになるかもしれない。

Twitterは「危険な場所」になるのか

マスクが自身の構想するTwitterについて最も一貫して語ってきた目標とは、Twitterを「デジタル世界における街の広場」のように機能する場にして、あらゆる人が自由に発言できる場にするというものだ。

多くの人にとっては、立派な目標のように聞こえるかもしれない。しかし、ツイッターは現在、その他の大きなソーシャルプラットフォームと同様に、ハラスメントなどの不快なコンテンツの削除を試みている。こうしたなかマスクは、「法律を大きく超えるような検閲」にはどのようなものであれ反対であり、Twitterの「著しい左寄りのバイアス」を是正したいと考えていると説明している。

米国でそのようなことをすれば、Twitterはほぼ何を書き込んでも許される場になるだろう。4月末にツイッターがマスクによる買収を受け入れると、新たに右寄りのアカウントが多く登録されており、かつて投稿やアカウントがモデレーターによって何度も削除されたことでTwitterを使わなくなっていた人々がマスク時代を見据えてTwitterに戻ってきていると、ボットウォッチャーたちは警告している。

こうした状況から、ツイッターのオンライン安全顧問に名を連ねている複数の人物を含むオンラインでのコンテンツモデレーションの専門家たちは、マスクによってTwitterでは“荒らしの新時代”が幕を開けるのではないかと懸念している。

「マスクがオーナーになれば、Twitterは女性や少数派コミュニティにとって極めて危険な場所になるかもしれません。こうした人々は、すでにTwitterで罵りや標的を絞ったハラスメントの被害を受けています」と、人気のボット検知システムを提供するBot Sentinelのクリストファー・ブージーは指摘する。

マスクが目指す「オープンソース化」の意味

マスクは22年5月に開催された『フィナンシャル・タイムズ』のイベントで、21年1月6日に起きた議事堂襲撃事件を受けて永久凍結されたドナルド・トランプのTwitterアカウントを復活させると語っている。永久凍結の決定は「道徳的に誤っており、完全にばかげたこと」だというのだ。

一方で、あるプライベートのテキストメッセージでマスクは「もちろんTwitterが右派がたむろするような場になることはない」とも主張しており、「可能な限り広くインクルーシブな場にすることが目標」としている。

マスクはツイートのランク付けに使われているアルゴリズムをオープンソース化することで、Twitterで何らかの特定の見解が優遇されているのではないかとの懸念を払拭できるだろうと示唆している。マスクのテキストメッセージからは、マスクがこの構想に関心をもつようになったきっかけは、ツイッターの共同創業者のジャック・ドーシーがTwitterについて、セキュアなメッセージ送受信サービスのSignalのように「オープンソースのプロトコルでなければならない」と書き送ったことである可能性が浮上している。

ソーシャルメディアを調査する研究者たちからは、Twitterのコードを大幅に透明化するという構想を歓迎する声が上がっている。一方で、バイアスはその他の原因で発生する可能性もあるので、バイアスに関する論争を解決することにはつながらないだろうと警告する声も出ている。

バイアスのその他の原因には、Twitter上でのデータや社会的な力学などが挙げられるという(ツイッターに勤務する複数の研究者によると、昨年米国やその他いくつかの国では、右寄りのアカウントのほうが左寄りのアカウントよりTwitterのアルゴリズムでより幅広く拡散されていた)。同様にボットトラッキングの複数の専門家も、マスクなら自動的にツイートをするアカウントすべてをTwitterから排除できるだろうという考えに水を差している。

広告依存からの脱却を目指す?

マスクは広告に大きく依存しているツイッターのビジネスモデルについても、大改革すると語っている。『ニューヨーク・タイムズ』の5月の報道によると、マスクは投資家向けのプレゼンテーションで、広告収入がツイッターの収入に占める割合を現在の約90%から50%未満に下げると主張したという。この転換の大部分は、サブスクリプション収入に頼るモデルへの大転換を通して実現すると想定されている。

オーストラリアのクイーンズランド工科大学のデジタルメディアの教授で、Twitterについての書籍の共著者にも名を連ねているジーン・バージェスは、マスクは「Twitter Blue」での実験的試みの拡張を目指すだろうと考えている。Twitter Blueとは、月額3ドル(約442円)かかる有料版だが、ユーザーはツイートの編集や取り消しなどの機能を利用できる。

しかし、これはTwitterの事業を後押しすることにはつながるかもしれないが、バージェスは議論を交わせるデジタルな“公議の広場”としてのTwitterの役割を損ねる可能性があるとみている。なぜなら、料金を払える人しか全面的には参加できないことになるからだ。

マスクはすべてのTwitterユーザーを登録認証すべきとも提案しており、これについても同様の懸念が広がっている。安全上の理由からオンラインで身元を明かせない人も多いからだ。

急減する従業員数

マスクのツイッターの事業計画には、コスト削減や従業員数の削減も盛り込まれているようだ。マスクは複数のテキストメッセージで、ツイッターでは経費がかかりすぎていて、その他のソーシャルメディア企業と比べて従業員数も「不健全に多い」との懸念を示している。

マスクは投資家たちに対し、ツイッターの従業員数を現在の7,500人強から75%も削減すると語ったと、『ワシントン・ポスト』は報じている。この動きを受けて従業員は抗議活動を起こした上に、そうした措置は「向こう見ずであり、Twitterはユーザーとお客さまからの信頼を失うことになり、さらに白昼堂々と従業員を脅迫していることにもなる」と警告する公開書簡も出している。

実際にマスクが引き起こした騒動により、すでにツイッターでは従業員数が減っている。ツイッターの従業員と元従業員によると、買収騒動を通じてマスクの計画に不確実性や懸念を感じた多くの従業員が退社しているという。「Business Insider」が示したLinkedInのデータの分析によると、過去90日で500人を超える従業員がツイッターを離れているのだ。

「わたしも皆さんと同じようにマスクのテキストメッセージを読みました。マスクはツイッターにとってとても重要であると思われる点を矢継ぎ早に変えていこうとしているようです」と、ツイッターの元従業員は語る。この人物は買収手続きが進められるなか退職しており、マスクはツイッターを「めちゃくちゃにしたい」と考えていると感じているという。

マスクは投資家のスティーヴ・ジャーヴェソンとのプライベートなテキストメッセージのやり取りで、最高レベルの取締役を解雇してツイッターでのソフトウェア開発を自身で指揮したいと語っている。エンジニアリングチームが大量に人員を失えば、Twitterの未来にどのような影響が出るのかについては、従業員や元従業員の間でも見解が分かれている。

マスクによるツイッターの構想が実現すれば、マスクはツイッターのオーナーとしてとても多忙になるはずだ。マスクはツイートで、自身がツイッターを買収したことで「『X』、つまりすべてが完結するアプリの誕生がさらに近づいた」と発言している。

「WeChat」を意識した動き

どうやらこれは「WeChat(微信)」を意識した動きのようだ。WeChatは中国のスーパーアプリで、チャットとビデオ通話のほかに、決済やゲームの機能まである。ツイッターがマスクによる買収を受け入れた後に収録された5月のポッドキャストで、マスクはWeChatを高く評価している。

「WeChatではすべてができます」と、マスクは言う。「Twitterのような機能に加えて、PayPalのような機能、それにそのほかにも多数の機能があり、それがひとつのアプリにまとめられています。インターフェースも素晴らしいです。まさに完璧なアプリで、類似のものは中国の国外には存在しません」

ツイッターはすでに、短文メッセージ以外の分野にも進出しようと試みており、音声サービスの「Twitterスペース」やニュースレタープラットフォームの「Revue」を展開している。しかし、WeChatの幅広いサービス内容を真似するとなると、それはマスクがTwitterに対して実施する最も野心的な変革ということになるだろう。

これらは全面的に歓迎できる変革ではない。マスクがツイッターのトップの座につくなかで、乗り換えを考えているのは従業員だけではない。Twitterはユーザーがいなければ、公議の広場になれるはずはなく、そのため収益性のある事業になれるはずもない。

それなのにユーザーの間では、Twitterを使うのは今週が最後、という声が聞かれるのだ。こうした脅しめいた声が本気なのであれば、それがTwitterに巻き起きる最大の変化になるのかもしれない。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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