決して“スマート”ではないスマートホームという現実と、標準規格という「希望の光」

便利なはずのスマートホーム対応機器は設定が煩雑で、さまざまな規格やアプリが混乱に拍車をかけている。そんな現実を、2022年に登場するスマートホームの標準規格「Matter」は、果たして解消してくれるのか。
Pattern of yellow and white light bulbs
PHOTOGRAPH: TANJA IVANOVA/GETTY IMAGES

スマートホームは、暮らす人のニーズに応じて住環境をきめ細かに自動でコントロールする。朝には静かな目覚めを演出し、夜には眠りへと誘い、人々が快適に暮らせるようと1日中休むことなく勤勉に働く。さまざまな機器が日常の雑事から人を解放し、やるべき仕事や予定があるときはそれをリマインドする。不法侵入者がいれば、しっかり守ってくれる。スマートホームは、暮らしをラクなものにしてくれるはずだ。

ところが、現実はそうしたイメージをことごとく裏切っている。「パパ! ライトがつかないよ!」「Googleが今日もカーテンを開けてくれないんだけど!」「テレビでYouTubeを観るにはどうしたらいいの?」「ガーデンライトをつけるアプリはどれだった?」

スマート電球にロボット掃除機、スマートスピーカーをはじめとする驚くべきデバイスを自宅に導入してみてほしい。その欠点が見えてくるまで、さほど時間はかからないだろう。

スマートホームが順調に機能しているときは、快適さや便利さがわからないでもない。ところが、いったん問題が発生すると(しかもしょっちゅうだ)自力で解決するという責任がのしかかる。

セキュリティカメラの設定に午前中いっぱいかかったり、新しいメッシュWi-Fiにライトパネルを接続するために午後がまるまるつぶれたり、前日まで問題なく動いていたロボット掃除機が目の前でぐるぐる回り出して頭を抱えたりしたことがあるなら、こうした苦しみが理解できるだろう。

大混乱なスマートホームという現実

家庭内でのいちばんの問題は、使い方の周知徹底だ。スマート電球を例にとろう。うまく機能させるには、これまで使っていたライトのスイッチを触らないよう家族全員に念を押しておかなければならない。そうしなければ、周到に調整したリモコンや音声コマンド、時間設定がすべて水の泡になってしまう。

スマートスイッチは役に立つが、混乱に拍車をかけるだけにもなりかねない。家族全員にしっかり言って聞かせたところで、来客が無邪気にスイッチに触れたが最後、スマート電球は無用の長物に逆戻りなのだ。

そんな混乱に輪をかけるのがスマートホームのアプリである。どのデバイスにも専用のアプリがついてきて、とにかく数が多すぎる。スマートホーム用の機器を追加するたびに、スマートフォンの画面はどんどん混雑していく。どのアプリがどのデバイスを制御するのか、把握するだけでもひと苦労だ。

おまけに、そうしたたくさんのアプリを家族全員のスマートフォンにもインストールし、使い方を教え込まなくてはならない。そうしなければ、スマートホームの設定から管理まですべてを担う役目を引き受けることになる。

Google アシスタントやAlexa、Siriに聞けば済むのではないか、なんて思っているなら大間違いだ。以下のようなことが普通に起きてしまう。セキュリティーカメラはGoogleと連動しているが、玄関のチャイムはSiriを使わなくてはならない。ダイニングルームで音楽をかけてくれるのはGoogleだが、寝室ではAlexa──といった具合である。

しかも、スマートスピーカーに「わたしの寝室のライトをつけて」と言ってはならない。「エイミーの寝室のライトをつけて」といった呼び方が正解なのだ。

スムーズに機能しているときでも、頼んだスマートアシスタントがライトを消してくれるまで数秒かかることがある。スイッチを触ったり手でカーテンを閉めたりしないように妻に頼んだそばから、音声コマンドを繰り返したり、スマートフォンの画面をタップしたりしていると、自分でもどことなくばかばかしく思えてくる。「本当にそっちのほうが便利なの?」とたずねる妻は困惑顔だ。

自分がどうにかこうにか使っているのだから、家族が苦労するのも無理はない。Googleアシスタントに「何かが故障しました」と言われてばかりいると、SF映画『2001年宇宙の旅』で、人工知能HALにポッド格納庫の扉を開けろと命令しても開けてもらえない船長のような気持ちになることがある。

登場した標準規格という“希望の光”

ありがたいことに、希望の光は遠くに見えている。スマートホームの標準規格「Matter」の認証開始が2022年の秋に迫っているのだ。

デバイスが相互運用可能になれば、音声アシスタントが統合され、問題に対処してくれるだろう。設定が簡略化され、好きなスマートアシスタントを使えるようになる。そして遅延が改善され、デバイスがこれまでより素早くコマンドに反応するようにもなる。

とはいえ、あまり期待しすぎてはならない。グーグルのスマートホーム・エコシステムを担当するディレクターのミシェル・ターナーから聞いたところによると、Matterは堅牢で信頼性のある基盤になるが、個別のデバイスそのものにはまだ多くの課題があるようだ。

わたしたちに必要なのは、ライトのスイッチが「オン」になった状態を維持するにはどうすればいいのか、といった問題を解消してくれる革新的な方法である。そして文脈を推測したり、ウェイクワード(起動ワード)を言わなくても、文法が正確でなくても音声コマンドを理解できるスマートアシスタントなのだ。

スマートホームが安全でプライバシーにも配慮した方法でユーザーを追跡できる方法も必要だろう。そうすれば、先読みして動くという約束が果たされ、頼まれなくても人の望むことをやってくれるかもしれない。

プログラム可能なスマートボタン「Flic」や、Google アシスタントの新しい自然なボイス機能など、希望のもてる兆しはある。人の動きを検知するメッシュWi-Fi「Plume」や、運用は始まったもののまださほど普及していない超広帯域無線(UWB)のロケーション技術は、さらに多くのデバイスに実装される可能性がある。新しい基盤が完成すれば、そこを土台に優れた最新の機器が次々と実装されていくことだろう。

そうすれば、本当に“スマート”なスマートホームが実現するかもしれない。正直なところ、個人的には玄関に自動で鍵がかかってもさほどわくわくするわけではない。だが、人の接近を検知して点灯・消灯するライトにとどまらず、スマートホームはより賢くエネルギーを制御し、異常が発生したときには家族を守ってくれそうだ。

とはいえ、それまでの道のりは遠く、スマートホームがその名にふさわしいレベルに達するのはまだまだ先の話である。それまではとりあえず、妻や子どもに代わってカーテンを開ける必要がないことだけで満足しておこう。

WIRED US/Translation by Yasuko Endo/Edit by Daisuke Takimoto)

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