自動運転技術の独自開発を“断念”したフォードとVWが進む道

自動運転技術の分野で大手の一角だったアルゴAI(Argo AI)の事業清算が、このほど発表された。フォードとフォルクスワーゲンが出資する“血統書つき”の企業だったはずが、なぜここにきて研究開発を断念したのか。
ARGO AI Vehicle parked in Miami
Photograph: Jeffrey Greenberg/Education Images/Universal Images Group/Getty Images

自動運転技術を開発するアルゴAI(Argo AI)の事業清算が、2022年10月26日(米国時間)に突如として発表された。今夏のレイオフ(一時解雇)によって約1,800人になっていた従業員の一部については、「フォードまたはフォルクスワーゲン(VW)における自動化技術に関連する職務」を提示することになると、アルゴAIの広報担当者はコメントしている。

フォードVWはアルゴAIに総額約36億ドル(約5,300億円)を投資し、その株式の大半を保有してきた。そしていま、撤退を決意したのである。

アルゴAIの閉鎖は、自動運転に向けた世界的な取り組みが困難に陥っていること、少なくともかつての想定より手ごわいものであることを物語る最新の兆候にすぎない。投資家のなかには不況の可能性を懸念する人々がいれば、電気自動車(EV)という革命に備える人たちもおり、自律走行車に関する一般的な考えの方向性は二極化している。

ゼネラルモーターズ(GM)の傘下で自動運転技術を開発するクルーズやアルファベット傘下のウェイモなど、自動運転への取り組みを続けている企業もある。そうした企業は、機能を限定したロボットタクシー(自動運転タクシー)のサービスをいくつかの場所で展開し始めており、何十億ドル(数千億円)を投じている。5年ほど前に大きく謳われていたスケジュールからは確かに遅れているものの、地に足をつけながら問題に対処していると言えるだろう。

一方で、フォードやVWといった企業は路線を変更しつつある。自動運転が実現する“遠い未来”に巨額の回収を期待して莫大な額を投じることは終わりにして、現在の顧客に販売できるテクノロジーにつぎ込んだほうがいい、という考えだ。

“血統書つき”の企業

自動運転の世界においてアルゴAIは決して小さな存在ではなく、それどころか一目置かれる王道を行く企業だった。創業から間もない17年に、フォードから10憶ドル近くの出資を受けていたのだ。

当時のフォードは、自動運転技術の開発で競争を繰り広げていたグーグルUber、GM、VWといった他社に追いつこうと必死だった。こうしたなかアルゴAIは経験豊富な人材を経営幹部に登用するなど、いわば“血統書つき”の企業だった。

社長に迎えたピーター・ランダーは、Uberが国立ロボット工学センターから引き抜いた人材のひとりで、Uberが終了した自動運転プロジェクトにも携わっていた。最高経営責任者(CEO)としては、自動運転技術の開発ラッシュの先頭を走っていた米国防総省高等研究計画局(DARPA)で豊富な経験をもつブライアン・セイルスキーを迎えていたほどである。

アルゴAIは、本拠地であるピッツバーグなど米国とドイツの少なくとも8都市でテスト走行を実施していた。とはいえ、公道での自動運転のテストという危険なプロジェクトに対し、より安全なアプローチをとっているとして業界内でも評価を得ていた。フォードやVWといった大企業の支援に加え、ライドシェア業界でUberと競合するリフト(Lyft)とも提携し、資金提供も受けていたのだ。

「道のりは非常に長い」という学び

いったい何を間違ってしまったのだろうか。これについてはフォードの幹部らが、10月下旬に開かれた投資家との電話会議で単刀直入に語っている。いまのところ、自動運転にそれほど「意味を感じない」のだという。

挙げられた理由からは、黎明期にある自動運転の業界全体にとっての大きな問題が示唆されている。アルゴAIを通してフォードは、完全な自律走行車に至るまでの「道のりは非常に長い」ことを学んだのだと、フォードのCEOのジム・ファーリーは説明している。自動運転技術につぎ込んだ総額は約1,000憶ドル(約14兆7,000億円)であるとした上で、「それにもかかわらず、いまだに利益につながる大規模なビジネスモデルを誰も定義できていません」と言う。

大手自動車メーカーであるフォードの財務担当にとって、その短い歴史において30憶ドル(約4,400憶円)以上を消費したアルゴAIの収支は、納得いかないものだった。「ビジネスとして意味をもつものを実際に始められる」まで5年以上かかる計算になったのだと、フォードの最高財務責任者(CFO)のジョン・ローラーは指摘する。フォードは今四半期、アルゴAIを清算する費用として27憶ドル(約4,000億円)を計上し、8,270万ドル(約121憶9,000万円)の損失を出したことを明らかにした。

これによりフォードは、より確かなテクノロジーに目を向け、そちらに集中するという。アルゴAIの従業員たちは、フォードで運転支援の自動化システムを担当させることになるという。これは渋滞中のノロノロ運転でドライバーに安全な運転を提供するテクノロジーではあるが、運転そのものをクルマに任せるものではない。

VWは、ある形態での自動運転に引き続きこだわっており、2025年までにドイツ国内で限定的な自動運転タクシーのサービスを立ち上げようとしている。しかし、同社が資金をつぎ込んでいる技術も自動運転にはほど遠い。記者会見での説明によると、「状況によってはドライバーがハンドルから完全に手を放せる」ことを目標とするもので、クルマに運転を完全に任せて居眠りできるという夢のような体験とはかけ離れている。

「完全な自動運転」への道のりは遠い?

さらに10月下旬には、業界の注目が部分的な自動化のほうに向いていることを証明する新たな出来事があった。数年前からインテル傘下であるイスラエルの自動車部品メーカーのモービルアイが、株式上場して力強い復帰を果たしたのだ。

モービルアイは自動運転ではなく、主に先進的な運転支援技術に注力している。同社からカメラ、半導体、ソフトウェアなどを調達している自動車メーカーは、約50社にのぼる。

アルゴAIの閉鎖が発表された直後、ロイターは「完全な自動運転」はいまだ遠いというメッセージを改めて強調するかのような記事を出しているテスラが「完全自動運転」を謳って販売しているアップグレード機能の宣伝について、違法である可能性を踏まえて米司法省から捜査を受けているというのだ。

有名な「オートパイロット」を含むテスラが提供する機能は、多くの人々が理解しているような「自動運転」ではなく、ドライバーがいつでもハンドルを握って制御できる態勢でいることを前提としている。しかし、テスラとCEOのイーロン・マスクは、自動運転がどのようなものでありうるかという定義を不明瞭にしているとして、安全関連の専門家らから非難されてきた。テスラは広報部門を廃止しており、今回の報道に関するコメントには応じていない。

イーロン・マスクは、独立路線を歩む人物であると自ら思いたいのかもしれない。だが、その路線にとどまって「自動運転こそ進むべき道」と声高に主張する人物は、必ずしも彼だけではない。「自動運転タクシーの商用サービスを提供する企業と、いまだに(ハイプ・サイクルの)幻滅期にはまり込んでいる企業との間で二極化が進んでいます」と、GMの子会社であるクルーズのCEOのカイル・ヴォグトが、投資家との電話会議で10月下旬に語っている。

クルーズは22年春からサンフランシスコで自動運転タクシーのサービスを展開している。ただし、運行は夜間の晴天時のみで、交通を遮断させる不規則な停電にも見舞われてきた。このプロジェクトは22年の最初の9カ月だけで14億ドル(約2,064億円)近くを費やしている。

すでにアリゾナ州で有料の自動運転タクシーのサービスを展開しているウェイモは10月、自社の自動運転タクシーをロサンゼルスにも拡大すると発表した。ただし、このサービスを一般に公開するスケジュールについては明言していない。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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