電気自動車は本当に「寒さに弱い」のか? 氷点下の冬をEVで過ごして見えた現実:連載・フューチャーモビリティの現在地(7)

電気自動車(EV)は冬の寒さに弱いとされるが、実際のところ積雪するような寒さでEVを普段使いすると、どんな不便なことが起こりうるのか。次世代のモビリティについて考察する連載「フューチャーモビリティの現在地」の第7回は、テスラ「モデル3」で氷点下の冬を過ごして気付いたことについて。
電気自動車は本当に「寒さに弱い」のか? 氷点下の冬をEVで過ごして見えた現実:連載・フューチャーモビリティの現在地(7)
Photograph: Aleksandr Zubkov/Getty Images

冬は電気自動車(EV)が苦手とする季節だ。気温が極端に下がるとバッテリーの充電性能は下がり、放電時に得られる電力は通常より少なくなってしまう。つまり、そのままでは充電が遅くなり、走れる距離が短くなり、バッテリーの劣化にもつながる。

そこで、冬場はバッテリーの性能を維持するために温める必要があるわけだが、そのためには電力を消費してヒーターで加熱しなければならない。さらに、車内の暖房に使うヒーターにも相応の電力を使う。エンジン車とは異なり、燃料を燃やしたあとの熱を暖房に使うようなことができないからだ。つまり、冬は走行していないときでも貴重な電力を消費する可能性があり、走行中は暖房にも電力を追加で消費する。

これらの特性を踏まえ、積雪するような寒さをEVで日常的に過ごしてみたら、どんな不都合が起こりうるのだろうか。まもなく購入から丸2年になるテスラ「モデル3」で、冬の気温が日常的に氷点下になる環境に乗り込んでみた。

関連記事:テスラのEV「モデル3」で3,000kmを旅して見えた、電気自動車の充電を巡る理想と現実:連載・フューチャーモビリティの現在地(3)

日常的に気温が氷点下になる地域で過ごすべく、初めてスタッドレスタイヤを装着した。選んだのは凍結路面でのブレーキング性能とコーナリング性能の高さを訴求しているグッドイヤーの「ICE NAVI8」。テスラ車の取り扱いに慣れている「A PIT オートバックス東雲」で交換作業してもらい、夏用タイヤはタイヤ保管サービスを利用して預かってもらった。

白銀の世界で実感した「バッテリー問題」

半年ほど前から、週末になると北関東にある小さな小屋で過ごす機会が増えている。知人が所有しているログハウスを、縁あってお借りすることになったからだ。

標高500m以上の山間部なので、夏場は涼しくてエアコンいらずだが、秋も深まってくると一気に冷え込む。そして冬になると積雪することも多く、高速道路ではチェーン規制が実施されることも少なくない。

そこで人生で初めて、自分のクルマにスタッドレスタイヤを装着した。選んだのは、テスラ「モデル3」の夏用タイヤと同じサイズ(235/45/R18)のグッドイヤー「ICE NAVI8」である。氷上などの凍結路面でのブレーキング性能とコーナリング性能の高さが売りで、もともと高性能なタイヤ(ミシュラン「Pilot Sport 4」)を装着していたモデル3との相性もいい。

豪雪に見舞われている日本海側とは異なり、今シーズンの北関東の積雪はそこまで多くはない。それでも1月に入ると10cm以上の積雪が何度かあり、2月中旬には30cm近く積もった。雪が降りしきる夜間に山越えをすることもあるので、積雪したり凍結したりした路面でも「きちんと止まれる」というスタッドレスタイヤのありがたみを、ことさら実感できている。その差は夏用タイヤと比べると歴然だ。

そんな積雪も伴う環境でEVを普段使いしてみて最初に気付いたことは、思った以上にヒーターに電力を消費することだった。冒頭で説明したように、冬場はバッテリーを保護するためにもヒーターに電力を使う。このバッテリーヒーターを使う場面が、気温が低いとかなり増えてくる。

テスラのアプリで充電中の状況を見ると「理想的な性能のためのバッテリー加熱」と表示されており、ヒーターが動作していることがわかる。

例えば、EVで長距離移動する際には、どうしても途中で急速充電する必要が生じる。このときバッテリーが十分に温まっていないと、充電スピードが上がらないのだ。つまり、充電に時間がかかってしまう。EVの充電施設は時間課金であることが一般的なので、充電コストにも響く。

高速道路のサービスエリアに多い30分の時間制限がある充電器だと、同じ時間で充電できる電力の量が少なくなってしまう。これは死活問題にもなりうる。

テスラ車の場合、車載カーナビの目的地にテスラ専用充電ステーション「スーパーチャージャー」を設定すると、到着時にバッテリーが最適な温度になるよう逆算して加熱してくれる機能がある。この「プレコンディショニング」機能はアプリからも出発時刻に合わせて設定できるので大変ありがたいのだが、電力の消費がそれなりに多い。

さらに走行中には車内の暖房にもヒーターを使い、バッテリーが十分に温まっていないと回生ブレーキで回収できる電力も少なくなる。こうした“問題”が積み重なると、実感として走行可能距離が暖かい季節と比べて2〜3割ほど減ってしまう印象だ。

所有しているテスラ「モデル3」(2021年モデルの「スタンダードレンジ プラス」)は現時点での走行可能距離が最大410km弱(新車時と比べて10kmほど減った)だが、冬場はヒーターなどの影響で“電費”が悪化し、実質300km程度にまで落ち込む計算になる。テスラのウェブサイトにも「温度が低下すると航続距離が短くなる」と明確に書かれているが、思った以上の落ち込みである。冬場に電費の落ち込みを抑えるなら、暖房の設定温度を下げたり、シートヒーターを活用したり、高速道路での運転速度を落としたりする対策が有効だろう。

また、フロントガラスが霜で凍結している場合には温風と電熱線で霜を溶かすデフロスター機能が便利だが、これも思った以上に電力を消費する。ヒーターを強にしてフロントガラスを温めるので当然ではあるが、みるみるうちにバッテリー残量が減っていく。霜だけなら10分程度で溶かせるのだが、走行可能距離にして約10km相当が失われてしまったのだ。とにかく冬場は電力を消費する場面が多いことが、おわかりいただけるだろう。

氷点下で充電されない?

もうひとつバッテリー関連で気になったことがある。家庭用電源で充電する際に気温が氷点下だと、かなり充電効率が落ちてしまうのだ。

EVのオーナーなら、旅先での充電用に普通充電アダプターを常備しているかもしれない。テスラ車には家庭用電源の100Vと200Vに対応した「モバイルコネクター」という充電アダプターが用意されている。

この充電アダプターを使って家庭用電源につなぐと、100Vでもひと晩で数十キロメートル分は充電される(住宅の電力契約と充電に利用する出力の設定によって変わる)。決して多くはないが、ただでさえ電費が悪化する冬場のEVにとっては極めて貴重だ。

ところが、低温時にはバッテリーを保護するためにヒーターが起動するので、充電出力が低いとほとんど充電されない事態が起こりうる。普段は100Vでの充電が安定するように出力を抑えた設定にしていることもあってか、これまでの経験では気温がマイナス5℃を下回ると、家庭用電源からとった電力がバッテリーを温めるためにほとんど使われてしまうようだった。

このため、朝起きるとまったく充電されていなかったり、むしろ残量が減ってしまっている事態も経験した。寒冷地で目的地に到着してから家庭用電源で充電して乗り切るつもりでいるなら、原則として普通充電には200Vを選ぶか、100Vなら充電に利用できる容量を確認して(可能な範囲で)出力を高めておく必要がある。そして、途中で急速充電を忘れないようにして“余力”を残しておきたい。

気温が氷点下になると充電効率が一気に低下するので、状況によっては100Vの普通充電でほとんど充電されない事態も起こりうる。

冬場のEVには地味に不便なこともある

冬になると不都合を感じる点はバッテリー関連だけではない。高速道路での長距離移動には半自動運転機能「オートパイロット」が欠かせないのだが、カメラなどのセンサーに雪が付着すると使えなくなってしまう。

もちろん完全に“手動”で運転するか、途中停車して雪を取り除けば問題なく動作する。だが、将来的に完全自動運転が実用化される時代には、センサーまわりにヒーターは必須の装備になることだろう。ちなみにエンジン車と違ってボンネットは温まらないので、ボンネットの雪が解けづらい点にも注意が必要である。

それと地味に不便に感じるのが、冬になるとタイヤの空気圧が下がってしまうことだ。気温が低下してタイヤ内の空気が収縮することが原因だが、エンジン車ならガソリンスタンドで給油する際に空気を入れることもできる。だが、EVではガソリンスタンドに立ち寄る機会が基本的にないので、自分で電動空気ポンプを用意しておくと便利だろう。

このように寒い時期に快適にEVに乗るためには、特に電力消費や充電に関してユーザーが意識すべきことは多い。EVがモビリティの“主役”になっていくのだとすれば、外気温に左右されずにEVが効率よく快適に走れるシステムやインフラの構築は課題になっていくだろう。とはいえ、それもEV用バッテリーの性能が向上したり技術革新が起きたりして走行可能距離がガソリン車並みになるまでは、根本的な解決が難しい問題とも言えそうだ。

※『WIRED』による電気自動車(EV)の関連記事はこちら連載「フューチャーモビリティの現在地」はこちら


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