GMの社長、EVの普及と自律走行車の未来について語る

電気自動車(EV)の普及と自律走行車の実現が近づいている。サプライチェーンの見直しや販売方法の転換など、その現在地から未来まで、ゼネラルモーターズ(GM)社長のマーク・ロイスが語った。
ゼネラルモーターズ(GM)社長のマーク・ロイス。
ゼネラルモーターズ(GM)社長のマーク・ロイス。Photograph: Bill Pugliano/Getty Images

自動車メーカーの経営陣にとって、これほど大変な時代はない。自動車産業に電動化を推進するよう求める動きが世界中で加速するなか、米国企業はこれを競合国(主に中国)の成長の糧にすることなく実現しなければならない。数十年にわたって進化してきた内燃機関を中心とする技術、ビジネスモデル、サプライチェーンの再構築が簡単であるはずはないのだ。

さらに並行して、自律走行車という別の革命的な技術の実現も近づいている。自動車メーカーやテック企業は“ロボットカー”の実現に向け、何千億ドルもの資金を投入している。この投資に対する商業的な成果はまだ得られていないが、自動車産業から街並み、労働市場まで、あらゆるものを再構築すると考えられている。

ゼネラルモーターズ(GM)の社長であるマーク・ロイスは、デトロイトに拠点を置く同社に数十年にわたり勤務するなかで足元の大きな変化を感じている。

GMは「キャデラック」ブランドの電気自動車(EV)である「LYRIQ(リリック)」や「シボレー」ブランドの「Silverado(シルバラード)EV」といった新しいEVの生産を拡大し、LGとの合弁会社で独自のバッテリーパックを生産している。また、自律走行車を開発する子会社であるクルーズの成長を後押ししているが、深刻な衝突事故と道路でクルマが立ち往生した問題により、サンフランシスコでの運用は中断してしまっている。

自動車の再発明と自動車メーカーの未来について、ロイスは楽観的に捉えているとインタビューで語っている。

EVの現在地

──まず、バッテリーの部品を米国内で生産するという厳しい条件付きでEVに税額控除をする「インフレ抑制法」について考えをお聞かせください。サプライチェーンに対する考えはどのように変わりましたか?

サプライチェーンに対する考えは、残念ながら新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)と、半導体のサプライチェーンの状況を見たことで変わりました。業界全体が台湾やその周辺地域で半導体を調達しようとしています。この状況は健全ではありません。

わたしたちはEVのサプライチェーンを本格的に見直し、世界にあるものを利用するのではなく、国内で生産できるようにしました。また、バッテリーのプラットフォームとセルの化学技術に関する垂直統合についても、多くの決断を下しました。

これはとてもいい結果になりました。シボレーのEV「ボルトEV(Bolt EV)」と比べると、これから提供するEVのバッテリーのコバルト使用量を70%も削減できたのです。

──半導体不足はどのくらい深刻なのでしょうか。新車のEVの供給が少ないので、買ったときよりも高い値段でEVを売りに出している人もいるという話を聞きます。この状態はいつごろ正常に戻るのでしょうか?

“ニューノーマル”が具体的にどのようなものになるかはわかりません。ただ、わたしたちは年末までにはもち直せると考えています。供給を待っている車両が約95,000台ありましたが、この状況は現在は解消されつつあります。価格についてもできる限り対応しています。そうした状況があることをインターネットで把握してますが、悲しい気持ちになりますね。

ディーラーのネットワークと全車両のデータを見ると、現在は希望小売価格を少し上回っている状態です。ディーラーは自分たちのブランドも、わたしたちのブランドも壊れてしまうとわかっているので、本当に質のいい店舗は価格を上げません。

また、これから「デジタル・リテール・プラットフォーム」と呼ぶシステムの提供を開始する予定です。これはオンラインからでもディーラーからでも、製造パイプラインからでも、顧客が好きな方法でクルマを購入できるようにするものです。

──ディーラーといえば、EVの販売台数が増えるにつれ、どのように変化しているのでしょうか?

まずはポートフォリオを整えるところから始めました。これまではEVを1台つくってから次の1台をつくるという方式でしたが、これではディーラーが求めるモデル数に届きません。また、研修も必要です。EVとは何か。どう違うのか。どのような顧客体験を提供するのか。メンテナンスはどうするのか。ガレージに揃えておくべきものは何か。こうしたことを知る必要があります。

また、わたしたちはディーラー周辺の自治体に40,000基の充電スタンドを設置しました。EVを見に行ったら、試乗したいと思うでしょう。まだ多くの人はEVに乗ったことがないのです。現地に充電器がなければ意味がありません。

──米国はEVの普及において野心的な目標を掲げています。大統領のジョー・バイデンは、2030年までに自動車販売の半数をゼロ・エミッションのクルマにすると発言しています。また、カリフォルニア州は35年までにガソリン車の販売を禁止するとしています。GMはこれらの目標を達成できそうでしょうか?

かなりいい感触をもっています。ほかのメーカーのバッテリー工場の多くは、2025年に稼働を開始する予定です。わたしたちの工場は、いま稼働しています。バッテリーセルを生産し、人々が求めるセグメントと価格帯のEVを提供します。

わたしたちは、やると言ったことはたいていやり遂げますし、積極的にやっていないことを宣伝することはありません。その点では、かなりいい実績があります。

──シボレーのEV「ボルト」シリーズの生産と販売は計画通りに進んだわけではありませんでした。GMは14万1,000個のバッテリーパックをすべてリコールし、交換しています。ここから学んだことはありますか?

問題が発生したときは「Red X」と呼ぶチームを毎回結成しています。この件に関するチームの働きぶりを誇りに思います。バッテリーセルの取り扱いと製造に関する取り組みに満足しています。取り組みの多くはボルトのリコールで、サプライチェーン全体について学んだことが土台にあるのです。

自律走行車の時代に向けて

──GMは自律走行車の時代に向けて大きな転換を図ろうとしています。GMは自動運転技術の開発とテストを手がける子会社のクルーズと、より綿密な連携を図ろうとしているという話を昨年末にしていました

わたしたちは自律走行において、世界で最も重要な開発の問題に取り組んでいます。わたしたちの手法は最難関の問題から取り組むというもので、それをサンフランシスコで実践しています。

2週間前にクルーズの取締役会に出席しましたが、自律走行車や個人用自律走行車(Personal Autonomous Vehicle、PAV)がもたらす可能性について共に考え、連携も深まっています。クルーズが開発したクルマの走行距離は総計3,400万マイル(約5,440万キロメートル)に達しました。

また、GMのハンズフリーの運転機能である「スーパークルーズ」の動きを毎日監視しています。EV工場「ファクトリー・ゼロ」では、「ハマー」や「シルバラード」のEVと並んで、「Origin」(GMの配車サービス向けの自律走行車両)を生産しています。とてもうまくいっていますよ。

──市の職員や高官から、自律走行車が都市に与える影響を心配しているという話をよく聞きます。個人用自律走行車が普及することで人々はより遠くまで移動するようになり、都市が無秩序に広がるスプロール現象が発生してしまうのではないかという懸念です。運転する必要がなければ車内でテレビを観たり、本を読んだり、会議に出席したりできます。自律走行車がもたらす影響について考えることもGMの責任なのでしょうか?

人々がハンドルもペダルもないクルマをいきなり所有することになるかはわかりませんが、こうした問題について考えています。わたしたちにも責任がありますから。

とはいえ、自律走行車が現在のクルマにとって代わることで、人の分布が大きく変わるとは考えていません。自律走行車は先に安全や渋滞、排ガスの問題を解決するものだと捉えています。そのあとに、いつかそうしたことが起きるかもしれません。

ただし、都市は人々が住み、働く場所を中心に発展します。それが一夜にして変わるとは思えません。そこを変えるには、かなりのコストがかかりますから。

──クルーズは現在、サンフランシスコでドライバー不在の配車サービスを展開しています。22年の夏に事故があり、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が調査中です。クルーズでは、どのようにして安全を守る前向きな文化を築いているのでしょうか。

第一に、すべてを監視しています。そこで何が起きているのか、わからないことはありません。事故の詳細には触れませんが、あらゆることに改善の余地があると考えています。人がこうしたクルマを運転していて、このクルマは人がつくった環境で自律的に運転しているのです。

苦情に関しては、「別の状況で運転するより少し時間は長くかかったかもしれないけれど、最も安全な経路を選び、思っていたより人間のドライバーとのインターフェースをうまく扱っていた」といった具合に受け止めています。

また、GMの安全に対する文化は、5年前、10年前から大きく変わったと言えるでしょう。車種を問わず、保有車両のデータを毎日確認するシステムを導入しています。今後も発生する可能性があることなら、何が問題で、どのような周辺環境や状況だったのかに関する統計的な調査を包括的に実施します。

さらに正式な会議を毎週開催し、そこで判断しています。わたしはこれまでの実績と、問題が起きたときの対応に誇りをもっています。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

※『WIRED』による電気自動車 (EV)の関連記事はこちらゼネラルモーターズ(GM)の関連記事はこちら


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