折り畳みスマートフォン「Pixel Fold」が大ヒットしなくても、グーグルにとって問題ではない

グーグルが発表した折り畳みスマートフォン「Pixel Fold」は、おそらく大ヒットすることはないだろう。しかし、それはグーグルにとっては問題ではない。真の狙いは別にあるからだ。
Human hands holding the Google Pixel Fold smartphone
David Paul Morris/Bloomberg/Getty Images

グーグルが5月上旬に発表した折り畳みスマートフォン「Pixel Fold」は、1,800ドル(約25万円)する。この高価なスマートフォンをじっくり眺めたとき、恐らく「いいんだけど、こんな変わったデバイスにそこまで払いたくない」と思ったのではないだろうか。

実のところ、折り畳みスマートフォンの購入意欲の低さは顕著に表れている。折り畳み型デバイスはスマートフォン市場の2%も占めておらず、まだまだニッチな存在のままなのだ。

しかし、この購買意欲の低さはグーグルにとって問題ではない。グーグルはまず間違いなく、Pixel Foldが大量に売れることを期待していない。グーグルが期待していることは、人々が折り畳みスマートフォンをどのように使うのか、また成長を遂げる多画面デバイス市場でAndroidが最も価値を発揮するにはどのように適応することが求められるかについて、Pixel Foldを通じてデザイナーが多くの情報を得られることにある。

Moor Insights & Strategyのアナリストのアンシェル・サグは、Pixel Foldの高い価格設定にグーグルの意図が表れていると指摘する。Pixel Foldの価格はサムスンの「Galaxy Z Fold4」と同程度で、サムスンの「Galaxy Z Flip4」より約800ドル(約11万円)も高い。もしグーグルが本当にもっと多くの台数を売りたいと思うなら、Pixel Foldより大きなサムスンの競合モデルより安い価格設定にするか、あるいはお金に何千ドルもの余裕がなくて折り畳みスマートフォンを検討したことがない層を引き付ける努力をしたかもしれない。

現状の価格では、Pixel Foldが次の大ヒットになることは期待できない。これは大ヒットを狙うものではなく、グーグルが折り畳みスマートフォン用ソフトウェアの未来を完璧に仕上げるための手段になることを意図したものなのだ。

「ソフトウェアがどのように使われるか理解するためには、ハードウェアをつくる必要があります」と、アナリストのサグは語る。「折り畳みスマートフォンにまつわる課題のほとんどはすでに解決済みですが、ソフトウェアについては未解決のまま残っています。グーグルはエクスペリエンスを改善し、またより重要なこととしてデベロッパーが折り畳みスマートフォンを最大限に活用できるようにしなければなりません」

グーグルが「Pixel Watch」をつくった理由

比較のため、グーグルのスマートウォッチ「Pixel Watch」について考えてみよう。サムスンやガーミンに支配されて成熟市場となっているApple Watch以外のスマートウォッチ市場に最近投入されたAndroidウェアラブル端末だ。

何年も遅れてスタートを切ったPixel Watchはスムーズで美しいデバイスとして登場した一方で、パワー不足で不具合を起こしやすかった。それでも競合にはるかに及ばないものの、それなりに売れた。それなら、あえてPixel Watchをつくる理由はどこにあるのだろうか?

それは、グーグルが押さえておかねばならないものと自らが理解している「Wear OS」デバイス向けソフトウェアの大きなエコシステムがあるからだ。そしてグーグルはハードウェアとソフトウェアの両方をつくる立場にあることから、Pixel Watchを使って新しいインタラクションやアプリ、エクスペリエンスを実験できるからである。

グーグルは再び独自の折り畳みデバイスを開発することで、新しい種類のガジェット用のハードウェアとソフトウェアを完全に支配できるようになる。自社の折り畳みスマートフォンなら、マルチタスクや画面切り替え、大画面特有のアプリの動きなどを調整しやすくなるわけだ。

こうしたものがどう動くべきか理解するのに、何百万台も売り上げる必要はない。Pixel Foldを手にした人たちが実際にどのように使うのかをざっくりと理解できる程度の台数が売れれば、それで十分なのである。

「ほぼ第1世代製品のようなものです」と、サグは言う。「これは他の製品には見られないいくつかの独自の機能をもちながら、販売台数の少ないデバイスになります」

タブレット端末の盛り上がりにも貢献?

またPixel Foldは、グーグルの幅広いラインナップに以前から存在する別のデバイスであるタブレット端末の刷新も導くかもしれない。

Androidのタブレット端末はアップルの「iPad」の陰におり、もう何年にもわたって低迷している。Androidのタブレット端末が人々の生活にどうフィットすべきものなのか、消費者もグーグル自身も見えていないようだ。

グーグルは新たに発表した「Pixel Tablet」を、生産性やクリエイティビティを高めるための道具ではなく、スマートホームの制御とエンタテインメントのためのカジュアルなデバイスとして売り込んでいる。この戦略を強調するためPixel Tabletには、スピーカーを内蔵した充電ドックが付属する。タブレット端末をドックにセットすると、スマートホームのコントローラーにもなる1台2役のフォトフレームに変身する仕組みだ。

「グーグルが認識していることのひとつに、タブレット端末がそれほど家の外に持ち出されないということが挙げられます」と、調査会社のIDCのリサーチマネージャーのジテッシュ・ウブラニは語る。

グーグルはPixel Foldの大画面から得られた知見を、座って使用するタブレット端末のアプリの動作の改善に用いるかもしれない。常に画面を閉じたり開いたり回転させたりして使うデバイスのアプリには、そうした動きに対応できるダイナミックさが必要だ。Pixel Foldは、こうした動きに対してよりうまく反応してシームレスに回転し、あらゆる方向にスケールするアプリのエコシステムの実験場なのかもしれない。

そしてもちろん、グーグルはそれぞれの新製品を同社の人工知能(AI)の取り組みの実験場としても見ている。グーグルのサービスの多くがユーザーの動きを追跡し、行動態度を研究し、データを収集する機械学習アリゴリズムを搭載するための手段であることが透けて見えると、サグは指摘する。

実際に開発者カンファレンス「Google I/O」の基調講演でグーグルの幹部たちは、まず生成AI(generative AI)の話に延々80分も費やしてから、ようやくAndroidデバイスの発表に入った。ところが発表が始まると、その内容には華々しいAIの話が散りばめられていたのである。

AndroidスマートフォンにはAIが生成した壁紙、AI写真編集ツール、AIが文章作成をアシストするメッセージアプリなどが搭載され始めた。グーグルはAIをあらゆる状況に応じて、あらゆるモバイルデバイスに搭載している。Pixel FoldとPixel Tabletは変わった存在ながらも、これらが可能にする新しいインタラクションのかたちがわたしたちの生活にどのようにフィットするのか、グーグルの学びを助けることになるのだ。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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