グーグルの「Stadia」という“ゲームの未来”は終わるが、その技術は生き続ける

グーグルがクラウドゲームサービス「Google Stadia」を2023年1月で終了すると発表した。かつて“ゲームの未来”と喧伝されていたサービスはわずか3年程度で終了することになるが、その裏側を支えた技術は生き残るかもしれない。
グーグルの「Stadia」という“ゲームの未来”は終わるが、その技術は生き続ける
Photograph: Drew Angerer/Getty Images

グーグルがクラウドゲームサービス「Google Stadia」を終了する。サービス開始からわずか3年を経て、クラウドゲームに対すグーグルの大きな“賭け”が、2023年1月18日に終わることになった。

あまりにも早い終わりは、決して完全な「衝撃」というわけでもない。グーグルはStadiaを「ゲームの未来」と喧伝していたが、この壮大な計画には常にひとつの重要な要素が欠けていた。それはビデオゲームだ。

ブルームバーグの報道によると、グーグルはStadia向けにオリジナルタイトルをリリースせず、プレイヤーの獲得はサードパーティーのゲームに頼っていた。また、グーグルはゲームの移植1回につき数千万ドルを費やしていた一方で、目を引くタイトルのリリースがなかった。このためフィットネスバイクで知られるPelotonやゲーム大手のBungieのような企業から、ストリーミング技術のホワイトレーベル契約(OEMのような仕組み)をもちかけられたという。

Stadiaのサービス終了は7月ごろから噂されていた。すでに停止されているTwitterアカウント「Killed By Google」が、Stadiaは夏の終わりまでに終了するだろうと推測していたのである。当時、Stadiaの公式Twitterアカウントは「Stadiaはサービス終了しない」として反論していた。それから2カ月が経ち、まさにその通りのことが起きている。

Stadiaのサービスが終了するというニュースが流れたとき、どれだけの従業員やパートナーが事前に知っていたのかは不明だった。「わたしたちはStadiaが終わることを知ったばかりで、プレイヤーのための次のステップについて話し始めました」と、「Destiny」のオンライン掲示板にBungieのモデレーターが書き込んでいる

オンライン掲示板のRedditでは、Stadiaの新しいユーザーインターフェースが「ゆっくりと提供開始されつつある」という投稿にStadiaのコミュニティマネージャーが反応しており、サービス終了を知った人たちを困惑させていた。グーグルのクラウドゲーミング部門を率いるバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのフィル・ハリソンは、公式ブログで「Stadiaのチームのメンバーの多くは、この仕事を社内のほかの部署で進めていくことになります」と説明しているが、詳細は明らかにされていない。

大物プロデューサーの参画も続かず

Stadiaのサービスが始まったとき、グーグルは同社がほとんど経験のない業界において「革命」を起こせると確信していた。グーグルがオリジナルプロジェクトに取り組む自社スタジオを設立すると発表したのは、2019年3月のことである。

この取り組みを主導したのは、業界の“大物”として知られるジェイド・レイモンドだった。当時はグーグルのバイスプレジデントだったレイモンドは、ユービーアイソフト・トロントやエレクトロニック・アーツ(EA)のMotive Studioの創設者として知られる人物だが、グーグルでの取り組みは長くは続かなかった。

こうしてグーグルは21年2月までに複数のプロジェクトを中止した。さらにモントリオールとロサンゼルスの2つのスタジオを閉鎖し、およそ150人をレイオフしたと伝えられている。この過程でレイモンドはグーグルを去り、新しいゲームスタジオであるHaven Entertainment Studiosを立ち上げた[編註:22年に入ってソニー・インタラクティブエンタテインメントが買収した]。少なくとも6人の社員がレイモンドの新しいプロジェクトに加わったという。

結局のところ、Stadiaは“復活”を遂げることはできなかった。サービス終了を発表したグーグルのハリソンは、Stadiaが「強力な技術基盤」の上に構築されていたものの、「ユーザーからの支持を得ることができなかった」と語っている。

これはグーグルにとって手痛い出費であり、きまりが悪い失敗と言えるだろう。すでに購入されたStadiaのハードウェアやゲームなどについて、グーグルはすべて払い戻すことになる。ハリソンによると、これらの払い戻しの「大部分」は、1月中旬までに完了するという。

それでも技術は生き続ける

現在のグーグルが注力している対象はゲームそのものではなく、Stadiaの裏側にある技術のようだ。

ハリソンはStadiaの技術について、グーグルが「社内のほかの部分において(Stadiaの)技術を応用する明確な機会」を見出していると説明している。具体的には、YouTubeやGoogle Play、拡張現実(AR)のプロジェクトなどだ。ハリソンはStadiaを支える技術は「業界のパートナー」に提供されるだろうとも語っており、彼はクラウドゲームこそ“ゲームの未来”であるといまも信じているという。

「わたしたちは今後もゲームに注力していきます」と、ハリソンはStadiaの終了に際してコメントしている。信じがたい約束だ。確かにStadiaは、かつては“ゲームの未来”だった。しかし、いまとなっては“過去のもの”なのである。

WIRED US/Translation by Daisuke Takimoto)

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