オミクロン株対応の「2価ワクチン」は、新型コロナウイルスの変異株にどこまで対抗できるのか

新型コロナウイルスのオミクロン株の変異株「BA.4」と「BA.5」にも対応した2価ワクチンのブースター接種が米国で始まり、日本でもまもなく開始が見込まれている。新しいワクチンの基礎となるmRNA技術は従来のワクチンと同じだが、変異を続けるウイルスにどこまで対抗できるのか。
オミクロン株対応の「2価ワクチン」は、新型コロナウイルスの変異株にどこまで対抗できるのか
PHOTOGRAPH: ANDREY RUDAKOV/GETTY IMAGES

新型コロナウイルスのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの改良が進んでいる。米国と欧州で2022年9月に入ってブースター接種が始まった新しいワクチンは、いま感染が広がっているオミクロン株に対応したものだ。この改良ワクチンについて保健当局は、19年後半に初めて検出された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に合わせて設計された以前のワクチンと比べて、オミクロン株などの最近の変異株に対して効果が高いと考えている。

新型コロナウイルスは出現以来、絶えず変化してきた。その変異によってウイルスの感染力は高まり、最初に提供されたワクチン接種やブースター接種で得られた免疫反応を回避できるようにもなっている。このようにオミクロン株とその亜種はこれまでで最も感染力が強くなった一方で、ワクチンはこれまでと変わらなかった。

「わたしたちは基本的に、進化し続けるウイルスに追いつこうとしている状況にあります」と、アメリカ医科大学協会(AAMC)の最高科学責任者のロス・マッキニーは言う。「将来のことは予測できませんが、次の変異株はBA.4やBA.5から派生したものになることが見込まれています。ですから、それらから守ってくれる抗体をもっていれば役に立つはずです」

「BA.4」と「BA.5」は、どちらもオミクロン株の亜種だ。米疾病管理予防センター(CDC)によると、9月3日の時点でBA.5は米国における新型コロナウイルス感染者数の88.6%、BA.4は2.8%を占めると推定されている。BA.4から新たに派生した「BA.4.6」は、感染者数の約8.4%を占めるようになっている。

モデルナとファイザーがそれぞれ製造した新しいワクチンは、新型コロナウイルスの起源株だけでなく、オミクロン株のBA.4/BA.5系統にも対応している。2種類のmRNAを含むこのワクチンは、「2価ワクチン」と呼ばれるものだ。

この2価ワクチンが含む2種類のmRNAは、従来株と2種類の亜種であるBA.4とBA.5に特徴的なスパイクタンパク質をそれぞれつくるように指示を出す。BA.4とBA.5のスパイクタンパク質は同じだが、スパイクタンパク質の何十種類もの変異によって従来のワクチン接種や感染で得た病気と闘う抗体を回避しやすくなり、人間の細胞に容易に侵入できるようになった。

「時間の経過と共に新型コロナウイルスは徐々に進化し、人間に感染し始めた当初のウイルスとは似て非なるものになってきています」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の感染症学教授のロバート・スクーリーは説明する。「もしワクチンが以前のウイルス株に似た姿のままなら、新しい変異株ではなく、以前の株を認識させるように免疫系を刺激することになります」

米国では変異株対応のワクチン接種が開始

特定の変異株に対応したモデルナ製とファイザー・ビオンテック製のブースター接種用ワクチンの緊急使用を米食品医薬品局(FDA)が許可したのは、8月31日のことだ。その直後にCDCは、このワクチンの接種を米国の居住者に推奨すると発表している[編註:日本でも10月に承認と接種の開始が見込まれている]。一方、欧州医薬品庁と英国の保健当局は、従来株と昨冬に流行したオミクロン株「BA.1」に対応する2価ワクチンを承認した。

米国では、これまでのワクチンによるブースター接種か初回接種(つまり、モデルナかファイザー、アストラゼネカ、ノババックスのワクチンの2回接種か、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを1回接種)を受けたことがある人は、12歳以上なら新しい2価ワクチンのブースター接種を受けることができる。

この新しいブースター接種についてCDCは、前回のワクチン接種から2カ月以上の間隔を空けて受けることを推奨している。CDCによると、最近になって新型コロナウイルスに感染した人は、ブースター接種を発症から3カ月後に遅らせることができるという。

一方で、BA.4とBA.5に対応した新しいワクチンのブースター接種がどれだけ効果的であるかは、まだわかっていない。この特定の変異株に対応したワクチンのブースター接種について、FDAは大規模な臨床試験は必要ないとしている。代わりにワクチンメーカーは、毎年のインフルエンザワクチンと同じように、新たに調整したワクチンが人々に免疫反応を引き起こすことを確認するために、小規模の試験を実施できる。

モデルナとファイザーは当初、従来株とBA.1に対応する2価ワクチンを試験していた。その後、BA.4とBA.5がBA.1に置き換わったことから、FDAは両社にこの2つの新しい亜種に対応するワクチン開発に方針転換するよう求めた経緯がある。

BA.4とBA.5の2価ワクチンの有効性を評価する研究は、いまも進行中だ。したがって規制当局は、動物実験のデータとBA.1の2価ワクチンの臨床試験に基づいて、BA.4とBA.5の2価ワクチンを承認している。

600人近くを対象とした(未査読の)研究によると、モデルナのBA.1対応2価ワクチンがオミクロン株に対し、従来株対応ワクチンより高いレベルの抗体を誘発することが示された。モデルナとファイザーの両社が実施したBA.4とBA.5対応ワクチンに関するマウス試験でも、BA.4とBA.5に対してより高い免疫反応が示されたという。

理想的な状況は訪れるか

改良ワクチン開発の基礎となったmRNA技術は、従来のワクチンと同じものだ。従来のワクチンの安全性が示されていることから、科学者は改良ワクチンのブースター接種で新たな問題が発生することはないと考えている。

「この改良ワクチンをできるだけ早く提供しようとしている理由のひとつは、秋が近づいているからです」と、ミシガン大学公衆衛生大学院の疫学准教授のオーブリー・ゴードンは説明する。21年と20年には、冬になってから新型コロナウイルスの感染者数と入院者数が激増したのだ。

保健当局は、今年は同じような急増を食い止めたいと考えている。「感染率をどうにか低下させたいと考えています。流行している変異株に対して免疫反応を起こすワクチンの提供は、その実現に役立ちますから」と、ゴードンは言う。

この新しい2価ワクチンのブースター接種は、おそらくこの種のものとしては初の年1回の予防接種となる。

「毎年のインフルエンザワクチン接種と同様の接種サイクルになる可能性が高く、大多数の国民が流行中の変異株に対応する最新のワクチンを年1回接種するようになるでしょう」と、ホワイトハウスで9月6日(米国時間)に開かれた記者会見で、大統領首席医療顧問で米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチは語っている。ただし、特に重症化しやすい人は、より頻繁な接種が必要かもしれないという。

今後のブースター接種用のワクチンが従来株に対応し続けるべきかどうかは、まだ不明である。「新しい混合ワクチンで、より高い効果が現れるかどうかを見守ることになるでしょう」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクーリーは言う。「(いまのところは)新しいワクチンが期待通りに機能することを確認できるまで、うまく作用することがわかっているワクチンをキープしておくことになります」

理想的な状況は、すべてのコロナウイルスやSARS系統のコロナウイルスに対して、さらに幅広い免疫反応を引き起こすワクチンが開発され、将来的に出現する新たなウイルスから身を守れるようになることだ。そうなれば、定期的なブースター接種は不要になる。

「その可能性は十分にあると思います」と、ミシガン大学のゴードンは言う。「ただ、その段階に到達するには数年かかると思います」

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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新型コロナウイルスのオミクロン株の亜種「BA.5」などの変異株が猛威を振るうなか、メーカーはmRNAなどの技術を用いて新しいワクチンの開発を急ピッチで進めている。まだ“先回り”まではできていないが、長期的な解決策を打ち立てるべく試行錯誤が続く。

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