Web3の鍵となる「DAO(分散型自律組織)」とは? 実際に構築してみた結果

Web3の分野で最もよく耳にする概念が「分散型自律組織(DAO)」だ。実際のところ、DAOはどのように構築・運営されているのだろうか?エンジニアたちの力を借りて、実際にDAOをつくってみた。
ETHDenver
PHOTOGRAPH: MICHAEL CIAGLO/GETTY IMAGES

Web3をテーマとするカンファレンス「ETHDenver」に出席するために、今年2月にコロラドに行ったときのことだ。Web3とは、ブロックチェーン技術に基づく新しい分散型のウェブを構築するというムーブメントである。

カンファレンスの会場で10,000人ほどの暗号資産(仮想通貨、暗号通貨)の愛好家たちと交流するうちに、Web3の世界にどっぷり浸かってみたくなった。そこで、実際に「DAO」をつくってみることにしたのである。

そもそもDAOで何ができる?

DAOとは「分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)」の略で、Web3にまつわるバズワードのなかで最も世間をにぎわせている言葉のひとつである。具体的には、人々が組織のように集合体をつくれるという概念だ。

DAOに参加するには特別なトークン(暗号資産)を購入するか、すでに参加しているメンバーから受け取らなくてはならない。そのトークンにはDAOのメンバーであることの証明と、DAO内での投票権が付与されている。

DAOに参加して何ができるのかというと、暗号通貨を使うことだ。これまでDAOは、「銀行口座を共有するインターネットコミュニティ」と表現されてきた。理論的には個人またはグループが管理するわけではなく、運営の権利は分散されている。

DAOの構成員は過半数のメンバーから承認を得ることで、自動的に実行される「スマートコントラクト」のかたちでリソースの使い道を提案できる。考え方としては、ブロックチェーン上のクラウドファンディングといったところだろうか。

しかし、これまでのDAOの道のりは必ずしもスムーズではなかった。「The DAO」と呼ばれる元祖DAOはコードに脆弱性が見つかり、何者かによって5,000万ドル(約61億3,500万円)の資金が吸い上げられている。

最近では「Constitution DAO」と呼ばれるグループが、アメリカ合衆国憲法の原本をオークションで購入する目的で、イーサリアム(Ethereum)で4,000万ドル(約49億円)以上もの資金を集めていた。ところが、オークションで億万長者に競り負けてしまったことで、新たな問題に直面している。イーサリアムのネットワーク上の取り引きに付随するガス代(手数料)が非常に高いことから、ほとんどの寄付者は払い戻しを受ける際に資金の大部分を失ってしまうことになるのだ。

大喜利で競うDAOをつくってみた

こうした話を聞くうちにDAOにまつわる知識を深めたくなり、友人のジャクソン・スミスに相談してみた。ブロックチェーンの利用を含む教育基盤の改善に注力する非営利団体「Learning Economy Foundation」に所属しているスミスは、同僚と一緒にETHDenverに出席していたのである。こうして、明るく好奇心旺盛な20代の白人男性といった感じの典型的なWeb3のエンジニアである彼らが、DAOの構築を快く手伝ってくれることになったのだ。

そこでETHDenverのメイン会場の近くにあるバーの2階に彼らと集まり、アイデアを出し合った(彼らのことを「開発の中核を担うデベロッパー」と呼ぶと、ETHDenverの参加者は驚いていた)。

まず最初に、DAOの目的を決める必要がある。スミスの提案は、ユーモアに特化したDAOというものだった。そこでは「最も面白い人」が大きな統治力をもつことになる。

そこで、この新しいDAOを「lmaoDAO(lmao=laughing my ass off、日本語では「大草原不可避」といった意味)」と名付けることにした。次に決める必要があるのは「メンバーの面白さ」を判定する基準である。そこでバックパックから『ニューヨーカー』誌を取り出し、同誌が毎週開催しているキャプションコンテスト(1コマ漫画の大喜利コンテスト)での優勝を目標にしてはどうかと提案してみた。

DAOのメンバーはそれぞれが作品を投稿し、面白いと思ったキャプションに投票できる。そして、DAOでの優勝作品を毎週、『ニューヨーカー』に投稿する。DAO内で開かれるコンテストの優勝者にはLMAOトークンを付与し、優勝回数が多い人ほど投票力が高くなるように設定した。

こうしたアイデアができたところで、実際にDAOを構築する必要がある。そこで、さまざまな疑問が生まれてきた。まず、参加者を集める方法である。

開発者のひとりであるネイサンが巧妙なアイデアを思いついた。カンファレンスに登録した人は、全員がトークンの形式で食事券を受け取っている。その食事券を保有しているウォレットをブロックチェーン上から探し出し、そのウォレットにLMAOトークンを送ってアクセス権を付与するというのだ。

といっても、何に対するアクセス権を付与するのだろうか。DAOを組織するための最も一般的なツールは、ディスカッションに用いられるチャットプラットフォームの「Discord」である。そこで、Discordのサーバーにウォレットを接続してきたユーザーがLMAOトークンを保有しているかどうか確認するボットを設定し、認証できるようにした。

メンバーとして認証されると、キャプションコンテストなどのチャンネルにアクセスできるようになるというわけだ。ちなみに自分はライターであって技術力は皆無なので、参加方法やコンテストのルールなどの下書きを担当した。

会場のほかの場所を回っている間も、スミスを始めとする開発者たちはDAOの設定を進めていた。カンファレンスにはイーサリアムの生みの親であるヴィタリック・ブテリンも登壇していたが、その講演も聴きに行かなかったようだ。

こうして翌日の午後には、DAOをローンチする準備が整った。カンファレンスの食事用トークンを保有している全員に合計100個のLMAOトークンを送ると、カンファレンスの主催者は親切にもTwitterの公式アカウントでlmaoDAOのことを宣伝してくれた。

無事にlmaoDAOがスタートしてから1カ月が経ったが、いまも順調に運営できている。70人のメンバーが参加しているが、実際のところあまりアクティブではない。

キャプションコンテストのほうはと言えば、1コマ漫画ひとつにつき5〜12個のキャプションが投稿されている。『ニューヨーカー』で開催されている公式のコンテストでは、まだ優勝したことはない(正直なところ、あと一歩のところにすら達していない)。

それでも毎週、コンテストを実施している。メンバーはDiscord経由でキャプションを提出し、「Snapshot」というWeb3のプラットフォームを用いて投票する。そして毎週日曜の夜に勝者が発表されたあと、手作業で『ニューヨーカー』に投稿している。

新たなコモンズとしてのDAO

実際のところ、どれだけ分散化されているのだろうか。また、キャプションコンテストの運営には、どの程度の暗号通貨が必要なのだろうか。どちらの質問に対しても、答えは「まったく」である。より分散化された管理を構築するための漠然とした計画はあるが、いまのところ立ち上げたメンバーですべてを管理している。

ブロックチェーン上での取り引きは履歴として残り、誰でも閲覧できるので仲介者を必要としていない。極論を言ってしまうと、ブロックチェーンは“信頼”を必要としない技術なのだ。

しかし、DAOのメンバーはわたしたちの運営方針を信頼する必要がある。なぜなら、わたしたちがDiscordの管理者権限をもち、『ニューヨーカー』のアカウントにログインすることができ、LMAOトークンを管理する唯一の存在だからだ。わたしたちがつくったDAOは、特定のトークンの所有を会員資格の条件とするクラブ活動の延長にすぎない。

しかし、これはどうやら一般的なことらしい。暗号通貨を使う以外に何かをしようとするDAOは、現実世界と相互作用しなければならないと、DAOをつくるためのツールを手がけているスペンサー・グラハムは説明する(うれしいことに、彼はlmaoDAOのメンバーでもある)。つまり、すべてをブロックチェーン上で分散化し、コードで管理することはできないのだ。

「6カ月から9カ月前に、Web3コミュニティが爆発的に増えたのです」と、グラハムは語る。それだけ大勢の人たちがDAOごとにカスタマイズされたトークンを保有してDiscordに参加し、何かしらに投票しているわけだ。

「わたしたち(DAOの)創設者は投票の結果を受け止め、それを実行します。言い方を変えれば、わたしたちが実行することを投票者たちは信頼しているのです」と、あるDAOの創設者は説明する。この言葉はまさしく、lmaoDAOを的確に説明してくれている。

ただし、lmaoDAOの場合は金が絡まないので、こうした類の「信頼」にまつわるリスクは低いのだとグラハムは指摘する。なにしろ、わたしたちは何もないところからLMAOトークンを生み出し、それを無料で提供しているのだ。一方、実際に暗号資産を使うことになるDAOでは、透明性と民主主義的な管理の確立が重要になってくる。

それでは、もしわたしたちがDAO上で金を使わず、しかも個人がDAOを管理しているなら、DAO運営する意味はあるのだろうか。答えるなら、「ただ楽しい」としか言いようがない。

DAOを始めとするWeb3アプリケーションをつくることは、ゲームのデザインと同義である。どういったルールをつくり、どんなインセンティブを与え、どうすれば人々が遊び続けたくなるのかを決める必要があるのだ。Learning Economyのスミスのような人々が、DAOの作成と運営に喜んで時間を割く理由は、ゲーム理論と新たな技術の組み合わせによって説明がつきそうである。

そんなわけで、読者の皆さんにもlmaoDAOにぜひ参加していただきたい。必要なのはウォレットだけだ。ここをクリックしてウォレットのアドレスを提出した先着100名には、100LMAOトークンとコンテストへのアクセス権が付与される。

Web3は、いまや単なる冗談ではなくなってきているのだ。

WIRED US/Translation by Naoya Raita)

※『WIRED』によるDAOの関連記事はこちらWeb3の関連記事はこちら


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