あるスマート照明メーカーの“死”と、置き去りにされたユーザーたち

ある米国のスマート照明メーカーが、突如として運営を終了したことが波紋を呼んでいる。ユーザーは自宅の照明機器を操作できなくなり、住宅の機器類をIoT企業に委ねることの重みが改めて浮き彫りになった。
window
PHOTOGRAPH: MIKE_KIEV/GETTY IMAGES

あるスマート照明メーカーが2022年4月中旬、ユーザーに何の通告もなく運営を終了した。このInsteonというメーカーの照明スイッチや調光器、壁のスイッチ類、スマートホームセンサーといった数々のコネクテッド製品が、一夜にしてサーバーに接続できなくなったのである。

そしてユーザーフォーラムが閉鎖され、Insteonのウェブサイトからは経営幹部の自己紹介ページが削除された。同社はコメントの求めに応じていない。LinkedInのメッセージ機能を利用してInsteonの元最高経営責任者(CEO)のロブ・リレネスに連絡をとってみたところ、彼は何も知らされていない様子で、もうInsteonとの関わりはないと語っている。

自宅の照明が制御不能に

この突然の展開にInsteonのユーザーたちは憤った。なにしろ、Insteonのモバイルアプリで自宅の照明を制御できない状態に陥ったのである。

Insteonのスマートスイッチの一部は、現在もオンとオフを切り替える通常の照明スイッチとして機能するが、多くのモデルは操作不能になっている。反応しないデバイスをデフォルト設定にリセットしようと試みたユーザーは、リセット後にデバイスがまったく機能しなくなったことに気付いたという。

「今回の件は、クラウドプラットフォームを必要とするソリューションに自宅を制御する権限を引き渡すことの危険性を示しています。軽々しくすべき決断ではありません」と、調査会社であるCCS Insightのチーフアナリストのベン・ウッドは語る。

オンラインサービスの停止はわずらわしいが、スマートホーム技術の利用にはクラウドの利用がつきものだ。モノのインターネット(IoT)市場に確たる実績を残していない中小企業が提供する技術の場合は、なおさらである。そうした企業は、何年にもわたるサービスの継続を必要とする製品のサポートに、四苦八苦するかもしれない。

突然の運営終了が提起した問題

Insteonは、そうした小規模なIoTメーカーのひとつだった。調査会社Omdiaでスマートホーム関連の主席アナリストを務めるブレイク・コザックは、Insteonに約130万人のユーザーがいたと見積もっている。

とはいえ、この数字はスマートホーム市場のごく一部だ。スウェーデンの調査会社Berg Insightによると、米国では5,000万を超える世帯がコネクテッド照明や室温を自動調整するサーモスタットなどの技術に依存している。

こうしたなかInsteonは、最近あまり活動的ではなかったようだ。同社が発表した最後のプレスリリースは18年のものである。

今回の突然の業務停止は、会社の規模や実績に関係なくある問題を提起している。何らかの変更について事前に警告するという観点から、Insteonの技術に投資した人々に対して同社がどのような責任を負っていたのかという問題だ。

「ほかのブランドは、はるかにうまくやってきました。前もって顧客に説明することで、ある種の橋渡しができていたのです」と、コザックは言う。「以前にもこのようなことは起きましたが、今回は次元が違いました」

避けられない現実

今回のInsteonの問題は、ドアロックや防犯カメラ、電球など自宅のいたる所でコネクテッド製品に依存しているユーザーにとって、クラウド時代にデバイスを完全制御することが不可能かもしれないという現実を再認識させるものだ。しかし、Insteonの混乱はスマートホーム業界にとっては確かに痛手ではあるが、注意すれば避けられたことだとコザックは指摘する。

「この一件をもって『スマートホーム市場は破綻する』と考えるのは早計です」と、コザックは言う。「各ブランドが生み出している製品に目を向けると、スマートホーム業界は前向きな勢いと活気に溢れていますから」

確かに業界は前向きな勢いと活気に溢れている。消費者のデータを分析しているStatistaによると、米国のスマートホーム市場の収益は伸びており、今年は337億ドル(約4.3兆円)に達する予想だという。

新たな相互運用規格も登場しており、これによりスマートホーム技術の採用が促進される可能性がある。なかでも特筆すべきは、さまざまなメーカーのデバイス間のシームレスな連携を目指すオープンソースの共通規格「Matter」で、グーグルやアマゾン、アップルが賛同している。

それでも市場の活況が続く限り、つまずき、失敗し、姿を消すスマートホーム企業が出てくる。そうなると、これらの企業の機器やプラットフォーム、アプリが機能しなくなり、ユーザーは暗闇の中に置き去りにされる可能性があるだろう。

関連記事:そのスマート家電は、来年も“スマート”なのか? IoT機器に常在する「サポート終了」というリスク

「このように消費者を見捨てることはビジネスのあるべき姿ではありません」と、とコザックは言う。「しかし、一部のブランドが競争に敗れることは避けられないのです」

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるスマートホームの関連記事はこちら


Related Articles

毎週のイベントに無料参加できる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。毎週開催のイベントに無料で参加可能な刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら