劇的な“復活”を目指すインテルは、AI開発競争で急増する半導体需要にこう応える:CEOインタビュー

インテルは他社が設計した半導体を受託生産する「ファウンドリー事業」を復活させ、製造の最新技術に投資することを発表している。一度は遅れをとった分野で主力メーカーの座を取り返すための戦略について、CEOのパット・ゲルシンガーに話を訊いた。
Person speaking on stage with a large screen displaying silicon wafers behind them
2023年11月7日、台湾で開催されたテクノロジーフォーラム「Intel Innovation Taipei」でスピーチをする、インテルDEOののパット・ゲルシンガー。Photograph: I-Hwa Cheng/Bloomberg/Getty Images

経験豊富な元エンジニアで経営者のパット・ゲルシンガーが最高経営責任者(CEO)としてインテルに戻った2021年、かつては業界のトップに君臨していた半導体メーカーは低迷していた。モバイル時代に適応することに失敗し、最先端の半導体の製造プロセスで戦略を間違え、さらにはテック業界での人工知能(AI)開発で高まる半導体の需要を満たす上でも遅れをとった。

無謀な楽観主義とも思えるかもしれないが、インテルは劇的な“復活”を遂げるとゲルシンガーは約束する。動きが鈍い企業文化を変え、同社の根幹をなす開発に焦点を戻し、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)やサムスンを警戒させるような製造を活性化させる計画を打ち出すと誓ったのだ。

ゲルシンガーは2月上旬、インテルの復活計画は順調かつ確実に進んでいると宣言した。他社が設計した半導体を生産する「ファウンドリー事業」のリブランドに加え、新たに導入する最新の製造プロセスは今年後半にはTSMCのものと同じくらい効率的かつ、性能の高いシリコンチップを生産できるようになると主張したのである。この新しい半導体製造技術を最初に活用することになる顧客はマイクロソフトだ。AI時代に適した競争力のある製品を提供できると業界を説得したいインテルにとって、これは重要な取引となる。

パット・ゲルシンガーは、カリフォルニア州サンタクララの自宅からZoomで、インテルのAI事業の活性化計画について『WIRED』に語った。

生成AIの勢いを予期しなかった

──ほかの企業の委託を受けて半導体を製造する事業を「AI時代のシステム・ファウンドリー」として復活させると発表しましたが、これはどういう意味ですか?

2年以上前からインテルの戦略を進めてきましたが、会社にとって、生成AIがここまでの勢いになるとは予期していませんでした。NVIDIA(エヌビディア)がこの分野の主力メーカーですが、わたしたちはAI市場に全面的に参入できる唯一の会社です。ネットワークやメモリをつないだり、サプライチェーンを用意したりといった顧客が活用したいと熱望する要素を提供できる方法をわかっているからです。

──AIの台頭に関してですが、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンはAIの進化に必要な半導体の開発と製造に充てるために、7兆ドルを調達する考えがあるという報道がありました。あなたはこれをどのように捉えていますか?

信じられないほど大きな金額だというのが、最初の感想です。そこから計算をしました。いまある最大のAIモデルはGPUを約10,000個使ってつくられています。今後つくられる最大のAIモデルには、1,000万個のGPUが必要だと考えられています。

いまでも最も先進的なモデルの訓練には数十億ドルがかかるという話があります。この7兆ドルには、電力とデータセンターにかかるコストも含まれているのでしょう。

新たな製造プロセスで半導体を生産へ

──インテルは新しい「18Aプロセス」で半導体を生産する予定であり、それはTSMCと肩を並べるものになると発表しています。競争力を取り戻すためにほかに何をしていますか?

業界全体で、わたしたちが「ribbonFET」と呼ぶ次世代トランジスタの開発を進めています。地球上で次に最高のトランジスタを生産する企業はどこになるかという点を人々は気にしています。

人々が評価しているインテルの技術は、デバイスに電力を供給する「裏側電源」と呼ばれるものです。これは、電流抵抗の性能を改善するだけでなく、半導体の密度も向上させます。つまり、従来なら100個の半導体をつくれたウエハーで120個生産できるようになります。これは非常に大きな提供価値です。

──マイクロソフトがファウンドリーの顧客になると発表していました。しかし、インテルは以前、この市場で遅れをとっています。今回はそうならないと、顧客をどのように説得しますか?

どの企業の要望にも応えられるファウンドリー事業にしたいと本気で考えています。ジェンスン・フアン(エヌビディアのCEO)、最高のAIチップをつくりたいならインテルを利用してください。スンダー・ピチャイ(アルファベットのCEO)も最高のTPUをつくりたいなら、インテルを利用してください。

ファウンドリーの潜在的な顧客に対しては、インテルの収益の数十億ドルを18Aプロセス(最新の製造プロセス)に投資する計画であることを伝えています。インテルのためにも、これを成功させなければなりません。わたしの人生は、収益性と性能が高い製品を実現することにかかっています。わたしたちの工場に足を踏み入れれば、確実に半導体を大量生産できると確信がもてるでしょう。次の四半期からファウンドリー事業の財務状況はほかと分けて開示する予定です。

──より洗練されたチップを製造するためにインテルはほかの企業に先駆けて、まだ登場してまもない最先端の露光技術である極端紫外線リソグラフィ(EUVリソグラフィ)を採用した機器を導入するということでした。これは、オランダの半導体製造装置メーカーASMLが製造しているものです。TSMCに対する競争力を獲得する上で、これはどれほど重要なのでしょうか。

リソグラフィー技術は、半導体の製造プロセスの根幹をなしてきました。インテルは過去にEUVを採用せず、大きな損失を被りました。そこでこの技術を採用し、二度と遅れをとらないと誓ったのです。次世代マシンを真っ先に取り入れることは、競争において非常に有利になると考えています。

関連記事:「ムーアの法則」を“延命”させる巨大なマシンが、いま動き始めようとしている

インテルが半導体の製造技術で遅れをとったとき、もはや追い付くことは不可能だと多くの人は言いました。そこでわたしは、インテルの技術開発の責任者に白紙小切手を渡し、市場での優位性を取り戻すために、決死の覚悟で進み始めたのです。まだ終着点ではありませんが、トンネルの先に光が見えています。

建設プロジェクトの進行が最大の障害

──米国の半導体製造を再活性化するために、米国政府は大規模な取り組みである「CHIPS法」を制定しました。インテルはこの制度の下、多額の資金を受け取ることになります。一方で、米国の産業は人材不足に直面しています。これに対処するには何が必要でしょうか。

すでに反響が寄せられており、大変喜ばしく思っています。「CHIPS法」の一環として、労働力の開発のためだけに数十億ドルが割り当てられています。わたしたちにとって最大の制約は職人の不足です。建設労働者、精密配管工や溶接工などが不足しています。建設プロジェクトの進行がいまある最大の障害なのです。製品の開発能力ではありません。数年内にこの問題が顕著になるでしょう。

──あなたの隣にかなりクールな半導体の図面が飾られているのが見えます。それはあなたが設計し、初期の個人向けコンピュータに使われていたマイクロプロセッサ「Intel 486」ですか?

そうです、その図面です。ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも飾られているものです。MoMAはチップアートの展示をしていて、わたしはそこに“アーティスト”として参加しました。それはわたしの人生において最も奇妙な出来事でした。人々がなぜこの部分に青色を選んだのかと聞くのです。赤の対比となる色にしようとしただけで、それ以上の理由はありません。わたしにとってはかなり非現実的なひとときでした。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma, Edit by Mamiko Nakano)

※『WIRED』によるインテルの関連記事はこちら半導体の関連記事はこちら


Related Articles
DMX pick-and-place tool for the stacking of Foveros packaging technology at an Intel fab in Oregon.
米国最大の半導体メーカーであるインテルが、他社向けのチップを受託生産するファウンドリー事業を再開・拡大すると発表した。マイクロソフトを顧客に迎えることになるインテルは、台湾のTSMCなどを前に再び存在感を強めることはできるのか。
article image
米国が中国に対する先端半導体などの電子機器輸出規制を強化するなか、中国は自国での開発体制を推進しつつ、米国に代わる貿易パートナーをヨーロッパに求めることになるだろう。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.51
「THE WORLD IN 2024」は好評発売中!

アイデアとイノベーションの源泉であり、常に未来を実装するメディアである『WIRED』のエッセンスが詰まった年末恒例の「THE WORLD IN」シリーズ。加速し続けるAIの能力がわたしたちのカルチャーやビジネス、セキュリティから政治まで広範に及ぼすインパクトのゆくえを探るほか、環境危機に対峙するテクノロジーの現在地、サイエンスや医療でいよいよ訪れる注目のブレイクスルーなど、全10分野にわたり、2024年の最重要パラダイムを読み解く総力特集。詳細はこちら