イランで激化する抗議活動と、政府がインターネットの遮断で覆い隠したい真実

髪を覆うヒジャブの着用が「不適切」とされて警察に拘束された女性が死亡した事件を巡り、激しい抗議活動が巻き起こっているイラン。政府側はインターネットやSNSの遮断で対抗しているが、そこには覆い隠したい「真実」が存在している。
A city street in Iran filled with protestors and cars. Fire and smoke can be seen in the distance.
Photograph: AP/Aflo

イラン北部の都市エマームルード(旧称シャールード)で数百人のデモ参加者が集まるなか、2人の女性が壇上に登って挑むようにヒジャブを頭上で振り回し、公然と抗議している──。この光景は、Instagramのアカウント「@1500tasvir」から動画として投稿されたものだ。

このアカウントは、2022年9月中旬に「道徳警察」に逮捕されて勾留中に死亡したマフサ・アミニ(22)の死を巡り、数千人規模の抗議活動が起きているイラン各地の都市や町の様子を映した数十本の動画を、過去数日にわたって公開している。@1500tasvirがシェアした別の動画では、女性たちが自由を求めるスローガンを唱えながら、頭髪を覆うヘッドスカーフを燃やしている。抗議者が警察官と対峙している様子を映した動画もある。

また、抗議活動がイラン全土の80を超える都市に拡大するなか、治安部隊との激しい衝突によって人々が出血し、傷つけられ、死亡したと主張する動画も複数ある。「抗議者たちは武装した治安部隊と対峙し、叫んでいるだけだ」と、@1500tasvirを運営するメンバーのひとりは言う(メンバーの安全のために名前は明記しない)。

@1500tasvirは、2019年にイラン各地に広まった抗議活動を受けて開設された。19年の抗議活動では、治安部隊の攻撃によって数百人が死亡している。その抗議活動の間、イラン当局はインターネットを全面的に遮断し、市民による抗議活動の組織を阻止し、イランに出入りする情報を制限したのだ。

そしていま、同じことが再び繰り返されている。ただし今回は、より多くの人が見守っている。

激しさを増すインターネットの遮断と検閲

アミニの死に抗議するために何千人もの人々が9月下旬になって街頭に繰り出すと、イラン当局はモバイルインターネット接続を繰り返し遮断し、国内で最も人気のあるソーシャルメディアであるInstagramとWhatsAppのサービスを妨害した。

今回のインターネット遮断は19年11月以降では最大規模となり、さらなる残虐行為への懸念が高まっている。これまでに30人以上が死亡したと報じられており、イラン政府は17人の死亡を認めている。

「モバイルインターネットサービスの遮断は、イラン政府が市民運動に対処する際の常套手段になっています」と、ネットワーク監視を手がけるKentikのインターネット分析ディレクターであるダグ・マドリーは言う。「人々はモバイルインターネットサービスを使って抗議活動や政府による弾圧の動画を共有していたので、政府による検閲の標的になったのです」

アミニの死を巡る抗議活動が活発化したことで、イラン政府はインターネットの遮断を9月19日に開始した。それ以来、Kentik、NetblocksCloudflareOpen Observatory of Network Interferenceなど複数の企業や組織が、インターネットの遮断を確認している。イランの最大手プロバイダーであるIrancell、Rightel、MCIを含むモバイルネットワーク事業者は、計画停電に直面したという。

複数のモバイルネットワーク事業者が一度に約12時間にわたってインターネットへの接続を喪失しており、Netblocksは「外出禁止令のようなパターンのインターネット遮断」が見られたと発表している。非営利団体「Access Now」でインターネットの遮断との闘いを率いているフェリシア・アントニオは、アミニの名を含むテキストメッセージがブロックされたとの報告を団体のパートナーから受けたという。「アミニの名前を含むメッセージを送信しようとしても、送信できないのです」

抗議活動に「大きな影響」を及ぼす可能性も

InstagramとWhatsAppに対する規制は9月21日に始まった。モバイル接続の遮断は大きな混乱を招くが、WhatsAppとInstagramへのアクセスの制限は、イランに残されている数少ないソーシャルメディアの一部を遮断することになる。FacebookやTwitter、YouTubeは何年も前から禁止されているのだ。

イランの国営メディアは、InstagramとWhatsAppのブロックがいつまで続くかは不明だが、この措置は「国家安全保障」を目的としていると報道している。オックスフォード大学インターネット研究所の研究者でデジタル著作権団体「ARTICLE 19」の上級研究員でもあり、イランのインターネットの遮断と規制について幅広く研究しているマーサ・アリマルダニは、「抗議活動の維持に必要な情報とコミュニケーションの生命線であるこれらのプラットフォームが標的とされているようです」と語る。

@1500tasvirの運営メンバーによると、このアカウントはイラン国内外から集まった約10人が中心となって運営されており、抗議デモを記録するために動画を投稿している。地域によってはところどころでモバイル接続が利用可能で、固定回線とのWi-Fi接続がまだ機能しているところもあるとされる。

このため現地にいる人たちが動画を送り、@1500tasvirのメンバーが内容をチェックした上で投稿しているという。@1500tasvirによると、1日に1,000本以上の動画が送られてきており、Instagramアカウントには45万人以上のフォロワーがいる。

@1500tasvirのメンバーは、インターネットの遮断が抗議活動に「大きな影響」を与える可能性があると指摘している。なぜならイランの人々は、ほかの人々が抗議している様子を見ることができなくなると、自分たちもやめてしまう可能性が高いからだ。

「ほかの人たちが同じように感じている様子を目にすると勇気が湧いてきて、何かしようという気になるのです」と、@1500tasvirのメンバーは言う。「インターネットが遮断されると......孤独を感じてしまいます」

WhatsAppのブロックは、イラン国外の人々にも影響を与えているようだ。イランの国番号「+98」の電話番号を使っている人々は、WhatsAppの動作が遅い、またはまったく機能していないと不満を漏らしている。なお、WhatsApp側はイランの電話番号をブロックするようなことはしていないと否定している

一方で、Facebookと同じくメタ・プラットフォームが運営するWhatsApp側は、イラン国外の「+98」の番号で登録されたアカウントに問題が発生した理由について、詳しい情報を提供することを拒否した。「何か奇妙なことが起きています。少し標的が絞られているようなので、イランによるこれらのさまざまなプラットフォームの検閲の実施方法に関係している可能性が高いでしょうね」と、オックスフォード大学のアリマルダニは言う。

当局による残虐行為の“隠れみの”に

国民を黙らせたり行動をコントロールしたりしたい政府は、このところ弾圧の道具としてインターネットの強権的な遮断にますます力を注ぐようになっている。2021年にはキューバからバングラデシュまで23カ国が、合計182回にわたってインターネットを遮断していた。

イランの当局者も、このやり方には慣れている。Access Nowのアントニオによると、イランによる最新のインターネットの遮断は、過去12カ月で3度目だという。「インターネットの遮断は、抗議活動中の人々に対する残虐行為を当局が隠す“隠れみの”にもなっていることを、引き続き確認しています」と、アントニオは説明する。

イランの現在のインターネットの遮断は、燃料価格の大幅な値上げを巡って人々が街頭に繰り出した19年11月の抗議デモ以降で最大のものだ。20万人以上のデモ参加者が治安部隊による残忍な対応に直面しており、国際人権NGOの「アムネスティ・インターナショナル」は、この抗議活動中に死亡した321人の名前を記録している。一方で、その数ははるかに大きい可能性が高いと、アムネスティは指摘している(これまでの推定では死者1,500人、負傷者4,800人とされている)。

19年の抗議の際、イラン当局はインターネットを完全に遮断した。すべてのインターネット接続がブロックされ、人々は何が起きているのかを世界に伝えることができなくなったのである(イラン独自の厳しく検閲された“イントラネット”は引き続き利用可能だった)。

これまでのところ、アミニの死を受けて実施されたインターネットの遮断は、この当時と同じ規模には達していない。しかし、抗議活動が長引けば長引くほどインターネットの遮断が拡大し続けるのではないかと、専門家は懸念している。

それはまた、警察の暴力が増加することを意味するかもしれない。イラン人権センター(CHRI)によると、抗議活動に関連した死者はすでに36人が確認されており、なかには15歳や16歳の少年も含まれているという。

インターネットが遮断されているにもかかわらず、抗議デモの映像はなんとか世に出ている。それも、いまのところはだ。

「19年11月に起きた抗議活動のときよりも、今回の抗議活動のコンテンツや映像のほうが多いですね」と、オックスフォード大学のアリマルダニは言う。ただし、インターネットが遮断されると、すべてが「沈黙」してしまうことになる。

「この1時間は何のメッセージも届きません。インターネットが遮断されたのです」と、イラン国外に拠点を置く@1500tasvirメンバーは電話で語っている。「イラン当局は、自分たちの残酷さを世界に知られたくないのです」

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるイランの関連記事はこちら検閲の関連記事はこちら


Related Articles
Russian President Vladimir Putin
ロシアがウクライナに侵攻したことで、“鎖国”状態になったロシアのインターネット。人々が国外のウェブサイトに接続するために欠かせないVPNの規制を政府は強化しているが、あらゆる策を講じてプロバイダーはサービスの提供を続けている。

毎週のイベントに無料参加できる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。毎週開催のイベントに無料で参加可能な刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら