『ジョン・ウィック』は映画における“シリーズもの”の概念を一変させた

殺し屋が愛犬の仇を討つ──。そんなストーリーから生まれた映画『ジョン・ウィック』シリーズは、映画における“シリーズもの”が形成してきた世界観の常識を一変させようとしている。
Keanu Reeves as John Wick in John Wick Chapter 4
Murray Close/Lionsgate

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引退した伝説の殺し屋が愛犬を殺され、復讐すべく再び殺しに手を染める──。そんな映画『ジョン・ウィック』の物語の前提は、病的に思えると同時に収益にはつながらないようにも思える。

キアヌ・リーヴスが最初に『ジョン・ウィック』に興味を示し始めたとき、関係者の多くは「子イヌを殺すなんてやりすぎだ」と神経質になっていた。それでもリーヴスは、実行に移すためにチャド・スタエルスキとデヴィッド・リーチを監督に起用した。

こうして『ジョン・ウィック』と最新作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(日本では2023年9月公開)を含む3本の続編は、そんな前提がどれだけ人気になりうるのかを証明することになった。また、ゼロからまったく新しいシリーズをつくり上げることが、いかに可能であるかも証明したのである。

熱狂的な映画ファンのためのシリーズ作品

“予備のパーツ”があるとはいえ、ゼロからつくり上げた映画『ジョン・ウィック』シリーズが派生作品であることを非難する人はいないだろう。だが、その魅力の多くは影響を受けた作品の融合から生まれている。これはジャンル映画をこよなく愛し、真夜中に映画鑑賞を楽しむ熱狂的な映画ファンのためにつくられたシリーズ作品なのだ。

マカロニ・ウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネ、韓国映画、カーチェイスが有名な1968年のアクション映画『ブリット』、ウォシャウスキー姉弟監督(作品リーヴスとスタエルスキは映画『マトリックス』で俳優とそのスタントダブルとして初めてチームを組んだ)──。こうしたインスピレーションの源を、4作品すべてで監督を務めたリーヴスとスタエルスキは、ボーイ・スカウトのメリットバッジのように身につけている。

このような要素を『ジョン・ウィック』シリーズでは、裏社会の陰謀、見事な演出の格闘シーン、オマージュの融合へと昇華させ、ケーブルテレビやストリーミングサービスの主力作品となった(実際のところ日時にかかわらずケーブルテレビの「ガイド」ボタンを押せば、ドラマ「フレンズ」でカフェに集まる6人を目にするのと同じくらいの頻度で、黒いスーツ姿のリーヴスが人を撃つシーンを目にすることになる)。

このような世界観の構築によって『ジョン・ウィック』シリーズの独創性は、いくつかの競合シリーズ作品から頭ひとつ抜けている。そのアクションシーンは、例えば『ボーン』シリーズと互角に渡り合えるだろう。

しかし、『ボーン』シリーズがCIAの世界を舞台にした政治スパイスリラーである一方で、『ジョン・ウィック』シリーズの主人公である暗殺者は、犯罪組織が独自の通貨(象徴的な金貨)、規則、電話交換台、統治機関(別名・主席連合ことハイテーブル)をもつ架空の世界で活動している。ジョン・ウィックの世界は現実の世界と似ているが、彼は異次元に存在しているのだ。

ファンに望まれて生まれた新しい“正典”

一方で『ジョン・ウィック』シリーズは、スーパーヒーロー映画に代わる、より大人向けの映画でもある。スーパーヒーロー映画は最高に楽しいが、そのアクションはあまり血なまぐさいものではなく、CGIがふんだんに使われ、最終的にはコミックのお決まりパターンに従っている。『ジョン・ウィック』シリーズは、そうではない。

リーヴスとスタエルスキにインタビューしたとき、スタエルスキは「バットマンのような60年間の歴史」をもたないことについて、『ジョン・ウィック』シリーズはそのような大きな基盤がないことで、自分のヒーローを思い通りに描くことを阻むものが何もないことを意味していた、と語っていた。リーヴスが言うところの「ウィックの遊び場」は、ストーリーテリングのツールとして、キャラクターを構築するツールとして、アクションを中心につくり上げられている。「それがそもそもの土台でした」と、リーブスは言う。

そうした意図は、斬新でユニークな“何か”の基礎であることが証明された。完全に新しい“正典”である。

『ボーン』シリーズでさえも小説を原作としていた。『ジョン・ウィック』シリーズは、キアヌ・リーヴスが戦い、銃を撃ち、カーチェイスをするところを視聴者が観ることが好きであるという事実に基づいているだけで、それで十分なのである。

シリーズ第1作の『ジョン・ウィック』は、興行的に大成功を収めたわけではない。米国での興行収入は1,400万ドル(約18億円)にとどまった。しかし、一部の映画ファンの間では、続編の制作が決まるほど愛されていたのである。そして、第2弾第3弾と続いた。

3作目の『ジョン・ウィック:パラベラム』は、北米で19年に公開されると5,600万ドル(約74億円)を売り上げた(3作目のラストでジョン・ウィックの首にかけられた1,400万ドルの懸賞金は、第1作のオープニング興行収入を意識しているように感じられる。「ウィックにはどれだけの価値があるのか?」と問いかけているようだ)。

シリーズ4作目となる『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は米国で23年3月24日公開だが、オープニング興行収入は7,000万ドル(約93億円)近くになると予想されていた。新型コロナウイルスによる劇場閉鎖後のこの時期としては、かなり高い評価である。さらに、アナ・デ・アルマス演じるバレリーナの暗殺者を主人公にしたスピンオフ映画『Ballerina』と、コンチネンタル・ホテルのオーナーであるウィンストンの若き日を描いたドラマシリーズ「The Continental」の制作も進んでいる。

成功とは、オープニング興行収入やスピンオフ作品で評価されるべきものではない。しかし、シリーズ作品とはより多くの収益と付随属性をかき集める目的でのみ存在するという観点から、興行収入やスピンオフ作品について語られることがあまりに多い。

これに対して『ジョン・ウィック』は、ファンがそれを望み、評価するからこそ派生作品をつくり続けているのだ。これは殺し屋の愛犬の死から生まれたシリーズとしては悪くない。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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