透明なテレビが大人気だった「CES 2024」から約1カ月を経たいま、わたしたちは“透明なノートPC”を初めて目にすることになった。バルセロナで開催されている世界最大のモバイル機器見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」において、このほどレノボが披露したノートPC「Project Crystal」のことである。
あくまで概念実証を目的としたコンセプト機なので、現実の製品として日の目を見ることはないだろう。しかし、このマシンは、ポータブルPCに搭載される“シースルー技術”がどのようなものになるのかを実際に示している。
このずっしりとしたWindows 11マシンは画面サイズが17.3インチで、マイクロLEDを用いた透明なディスプレイを搭載している。この技術は、今年になってサムスンが披露した透明なテレビのコンセプト機で使用されているのと同じだ。しかし、このProject Crystalに搭載されているディスプレイの製造元を、レノボは明らかにしていない。
色彩は印象的なほど鮮やか
このコンセプト機のディスプレイには枠がなく、前面と背面が高強度のゴリラガラスで保護されている。ガラスのエッジが少しくっきりしているが、少なくともこの技術のビジョンは実現されている。また同時に、レノボは透明なデジタルキーボードがどのようにものになるのかも、このコンセプト機で披露することにした。
残念ながら、このノートPCの内部の部品などは見ることができない。確認できるのは、ディスプレイの下に巨大なタッチスクリーン式のキーボードがあることくらいだ。
ところが、このキーボードはあまり気に入らなかった。タイピングしにくいと感じたからである。それに言うまでもないかもしれないが、レノボによると、現在はまだバーチャルなキーをタップしても触覚フィードバックのようなものは得られないという。あくまでコンセプト機なのだ。
このディスプレイは焼けそうに感じるほど明るくなることがある。ウェブブラウザーの全画面モードで『WIRED』のページを開いたときには、自分が天国に直行してしまったのかと思うほどのまぶしさを感じたほどだ。
レノボによると、このディスプレイの輝度は最大で1,000ニトに達するという。コンテンツの最大輝度に関していえば、アップルの最新の「MacBook Air」は500ニトである。
一方で、ディスプレイの色は黄色がかっていた。レノボによると、ディスプレイの光透過率が55%であることが原因のひとつだという。技術の向上に伴って色の精度も改善されることを期待したい。それでも色彩は印象的なほど鮮やかだった。掲載した写真では、その鮮やかさをまったく正当に伝えられていない。
AR技術にも対応
それにしても、なぜ透明なノートPCが必要なのだろうか? どうやら、レノボでさえいい答えをもち合わせていないようだ。
レノボが提案した使用例のひとつは、会議中にほかの人が自分の話についてきているかどうかを確認できる、というものだった。それは個人的には最もどうでもいいことである。
だが、このノートPCが生み出す開放感は気に入った。座っているデスクがより広く感じられ、ノートPCの後ろに置いてあるコーヒーカップを見ることができたのだ。このノートPCを持って歩けば、とてもかっこいいだろう。実際にカンファレンスやイベントで定期的にノートPCを持ち歩いているのだから。
しかし、(失礼ながら)明らかな問題点は、ディスプレイが完全に透明であるという事実だった。つまり、自分がPCで何をしているのか、向かい側の席の人に丸見えなのである。
レノボによると、MWCには不透明なプライバシーレイヤーを備えるバージョンのデバイスを用意したかったというが、間に合わなかったらしい。このプライバシーレイヤーは、プライバシーを強化したいときにディスプレイの透過率を調整して切り替えることができるというものだ。
いまどき何らかのかたちで人工知能(AI)への言及がなければ、“新製品”の発表とは言えないだろう。このノートPCに関していえば、背面に外向きのカメラがついている。ノートPCではあまり見かけない機能だが、このカメラでとらえた画像をレノボが「AI生成コンテンツ(AIGC)」と呼ぶものに利用できるという。
この機能は、透明なディスプレイを通じて現実世界のオブジェクトにデジタル情報を重ねて表示するというアイデアだ。ちなみに今回の展示でProject Crystalを見学したときには、残念ながらこの拡張現実(AR)技術のデモはなかった。
レノボによると、Project Crystalのように画面が透明なノートPCが市場に登場する時期は、まだ数年先になる可能性が高いという。これが透明テレビのようにトレンドとして定着するかどうか、興味深く見守ることになるだろう。もしかしたら、次は映画『アイアンマン2』に出てきたような透明なスマートフォンが登場するかもしれない。
(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)
※『WIRED』によるディスプレイの関連記事はこちら。レノボの関連記事はこちら。
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