ChatGPTと検索を融合、マイクロソフトは会話型AIによる新しい「Bing」でグーグルに対抗する

業界2位の検索エンジンであるマイクロソフトの「Bing」に、高精度な会話型AI「ChatGPT」を組み込んだ新バージョンを同社が発表した。これにより圧倒的な首位を誇ってきたGoogle 検索に対抗する狙いだが、まだ解決すべき重要な課題も残されている。
An illuminated Microsoft sign outside a building at night
Photograph: Fabrice Coffrini/Getty Images

マイクロソフトの検索エンジン「Bing」が、人工知能(AI)によって刷新される。AIのスタートアップであるOpenAIの高精度な会話型AI「ChatGPT」の基盤技術を組み込んだBingの新バージョンを、2023年2月7日(米国時間)にワシントン州レドモンドのマイクロソフト本社キャンパスで発表したのだ。

このアップデートによりBingの検索結果には、ウェブで見つけた情報を要約したクエリに対する滑らかな文章による回答が含まれるようになり、複雑なクエリには新しいチャットボットのインターフェイスが追加される。

マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)のサティア・ナデラは、この新機能は検索のパラダイムシフトを意味すると主張しており、「実際に新しいレースが今日から始まる」と語っている。その通りだろう。グーグルは2月6日(米国時間)に、当初は「Google 検索」の一部にはならないものの、競合するチャットボット(会話型AI)として「Bard」を展開すると発表したのだ。

マイクロソフト幹部によると、AIで強化されたBingの限定版が今日から展開される。ただし、一部の初期テスターは、フィードバックを集めるためにより強力なバージョンにアクセスできるようにするという。マイクロソフトはユーザーに対し、今後数週間のうちにリリース予定の拡大版に登録するよう求めている。

従来の検索とは一線を画するインターフェイス

Bingの新バージョンは、OpenAIが開発した言語機能を利用して通常のリンク一覧にサイドバーを追加し、クエリ(問いかけ)に対する回答を文章で提供するものだ。

デモでは「イケアの2人がけソファ『KLIPPAN』は、2019年モデルのホンダ・オデッセイのシートを倒せば収まる?」というクエリに対し、ウェブページから引き出したソファの寸法とオデッセイの荷室の詳細を用いて、家具は「2列目か3列目のシートを倒せば入るかもしれない」と推定したAIによる回答が得られた。この回答には、「ただし、これは決定的な答えではないので、運搬を試みる前に必ず実物を測定してください」という免責事項も含まれている。

各回答の上部にある「フィードバックボックス」では、ユーザーが親指を立てるか立てないかでフィードバックできるようになっており、マイクロソフトのアルゴリズムの訓練に貢献できる仕組みだ。グーグルはBardを発表した際に、異なる視点から検索結果を要約することで検索結果を向上させる目的で、テキスト生成技術を応用するデモを実施している。

マイクロソフトの「Bing」のチャットボットを用いた新しいインターフェース。オンラインで見つけた情報を合成することで、複雑なクエリに回答する。

Courtesy of Microsoft

Bingの新しいチャットスタイルのインターフェイスは、従来の検索ボックスとは一線を画している。

マイクロソフトの検索・デバイス担当バイスプレジデントのユセフ・メーディはチャットボットに対し、メキシコシティへの5日間の旅の作成し、それを家族に送るメールに変換するよう依頼するデモを実施した。このボットの回答では、長い回答の末尾に旅行サイトへの一連のリンクが表示されている。

「わたしたちはコンテンツをコンテンツ制作者に還元することを重視しています」と、メーディは語る。「人々がクリックすることで、それらのサイトに簡単にアクセスできるようにしているのです」

“流暢なデタラメ”を生み出す危険性も

マイクロソフトはChatGPTの基礎となる技術の要素を、同社のブラウザー「Microsoft Edge」の新しいサイドバーに組み込んでいる。ユーザーは長くて複雑な財務文書を要約したり、別の文書と比較したりするために、このツールを利用できる仕組みだ。

また、そこから得られた内容をメールで送ったり、リスト化したり、ソーシャルメディアの投稿に変換したりもできる。投稿用の文章には「専門的に」「面白い感じで」といったトーンを指示することも可能だ。マイクロソフトのメーディはデモで、同社傘下のソーシャルメディア「LinkedIn」のプロフィールに投稿する「熱狂的な感じ」の新しい投稿を作成するようボットに指示していた。

ChatGPTは22年11月に発表されて以降、文章による指示や質問に対する滑らかで明確な応答によってユーザーを驚かせ、感動させてきた。このチャットボットは「GPT-3」というOpenAIのアルゴリズムに基づいており、ウェブやその他の情報源から大量のテキストを学習し、そこから見つけ出したパターンに基づいて独自のテキストを生成する。投資家や起業家のなかには、この技術は革命であり、あらゆる産業を根底から覆す可能性があると警鐘を鳴らしている人もいる。

これに対してAIの専門家のなかには、ChatGPTの技術は虚実の区別がつかず、情報を細かく、ときに説得力のあるかたちでつくり上げてしまう「錯覚」に陥りやすいと警告する人もいる。またテキスト生成技術は、学習データに含まれる不快な言葉を再現することも可能であることが示されている。

Microsoftの「責任あるAI」部門の責任者であるサラ・バードは、初期のテストでは誰かが「学校を攻撃する」ような計画を立てる支援もできてしまったが、いまではその種の有害な問いかけへのチャットボットの利用を「識別して防御」できると説明している。人間のテスターとOpenAIの技術が連携し、素早くテストと分析、サービスの改善を進めているという。

一方でバードは、マイクロソフトが“錯覚”の問題を完全に解決したわけではないことを認めている。「わたしたちはスタート地点からとてつもなく改善しましたが、そこにはまだやることがあります」

もともとOpenAIは、AIを有益なものにすることに焦点を当てた非営利団体としてスタートした。19年にはマイクロソフトからの多額の投資を受け、営利目的のスタートアップになっている。さらに最近、マイクロソフトが新たに約100億ドル相当を投資する計画であることも明らかになった。

マイクロソフトはChatGPT内のテキスト生成技術について、プログラムのコードを生成して開発者を支援するツール「GitHub Copilot」として商用化している。マイクロソフトの実験によると、Copilotはコーディング作業の完了に必要な時間を40%短縮できるという。

WIRED US/Additional reporting by Will Knight/Translation by Daisuke Takimoto)

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