「何を使うか」以上に、技術や製品を“どのように”使うかが問われている:『WIRED』日本版が振り返る2022年(プロダクト編)

ときにたったひとつの新商品が、生活を劇的に変容させる。2022年にWIRED.jpで人気だったガジェットやツールの記事を振り返ると、そのようなメジャーアップデート的動向を見出すのは難しかった。では、不毛な一年だったかといえば、そうではない。わたしたちの生活とプロダクトとの関係性を問い直すような記事に、多くの注目が集まっていることが明らかで、それはつまり来たるべきライフスタイルの地殻変動の予兆かもしれない。
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PHOTOGRAPH: MIKE_KIEV/GETTY IMAGES

これまでにないアイデアを形にして、人を引きつけるデザインや美しさや質感を備え、社会を変えてしまうようなパワーとクオリティを宿す。生活を一新してしまうようなプロダクトの多くは少なくとも、これら3つの条件をクリアしてきた。例えば、電気自動車(EV)やロボット掃除機、ドローンなどがイメージしやすい。

無論、そのような真の意味でのイノベーティブなプロダクトが毎年開発されるはずもなく(生活様式がコロコロ変わるのも考えものだ)、しかるべき頻度(個人的にはごく稀とときどきの間くらい。近年は加速気味)で、生み出されることは2023年以降もきっと同じはず。

とはいえテクノロジーの着実な進化を反映させたガジェットやギアは、今年もしっかりリリースされていたのも事実。例えば「iPad Pro」と「Apple TV 4K」の新型の記事や、グーグル初のスマートウォッチ「Pixel Watch」の記事、アマゾンのAlexaの車載版である「Amazon Echo Auto」のレビュー記事などは多くの注目を集めた。技術開発の予算を潤沢に確保するテックジャイアントの存在感が目につくのは、2022年のタフな経済情勢を反映しているのかもしれないが、もちろんそればかりではない。

例えばスロヴェニアのスポーツ用品メーカーであるエランが開発した、折り畳み可能なスキー板「ELAN VOYAGER」や、日本のエンジニアが2017年に設立したバタフライボードが生み出した、カスタマイズ可能なクリップ式ノート「ペーパージャケット」。いずれもビッグなメーカーではないが、ユニークなアイデアを温め、それを具体化するための技術やエンジニアリングを模索し、組み合わせの妙(前者はヒンジと特殊なクリップと可動式のビンディング、後者はてこの原理と強力なマグネット)によって、美しく機能的なプロダクトを作り出している。

技術そのものは決して新しいわけではない。しかしその使い方と工夫によってブレイクスルーを果たしたのだった。目新しいテクノロジーについ注目をしてしまいがちだが、すでにあるものを上手に生かすという開発姿勢が、新しい価値の創出に繋がることをこれらのプロダクトは示している。

そしてこの姿勢は、わたしたちの生活の現場においても重要な問いかけとなっている。すでにあるものを、もっと上手に使うにはどうしたらいいのか。気候変動や環境負荷への対応、終息の見えないパンデミックと働き方の変化、IoTの進展など、ライフスタイルを根底から揺さぶる事象に囲まれたわたしたちは、生活のあらゆる局面に対する問い直しを進める必要がある。

キッチンの熱源として最適なのはガスかIHかを検証した記事が圧倒的な読者数となり、PCのディスプレイ環境の最適解を追求した記事や、米国のスマート照明メーカーの突然の業務停止によって起きたこと(そして今後もそのリスクがないわけではないこと)を著した記事が人気を集めたことも、かなり示唆的だ。

改めて言うまでもないが、プロダクトにまつわる記事を読み解くことは、わたしたちの生活そのものを考察することである。目新しいテクノロジーや製品への興味も尽きないが、すでにあるものをよりよく使う方法を探り、ライフスタイルそのものを問い続ける営みを続けていこう。


01 キッチンコンロは「ガス」か「IH」か?熱効率や環境負荷の観点で考えた結果

JAVIER ZAYAS/GETTY IMAGES

キッチンでの加熱調理の熱源として、一般的にはガスとIHが選択肢になる。それぞれ一長一短あるが、熱効率の高さや温室効果ガスを直接排出しないIHに軍配が上がる点も少なくない。>>記事全文を読む


02 物理的なノートに代わる選択肢になるか? さまざまな紙を挟んでスリムに持ち運べる「ペーパージャケット」が秘めた可能性

VIDEO: BUTTERFLYBOARD

持ち運べる「ノート型ホワイトボード」で注目されたバタフライボードが、さまざまな用紙をバインダーのようにとじてミニマルに持ち運べる『ペーパージャケット』を開発した。あえて物理的な紙というアナログなツールの可能性を追求したこの製品、いかに紙の能力を拡張しようとしているのか。>>記事全文を読む


03 ついに登場した折り畳めるスキー板「ELAN VOYAGER」は、身軽さと素晴らしい滑り心地を両立している:製品レヴュー

PHOTOGRAPH BY SUN LEE/WIRED

スキー用品づくりで75年の歴史を誇るスロヴェニアのスポーツ用品メーカー、エラン。同社が10年もの年月をかけて開発した折り畳み式のスキー板「ELAN VOYAGER」は、スキーヤーが夢見ていた身軽さと驚くほどの滑り心地を実現している──。『WIRED』US版によるレヴュー。>>記事全文を読む


04 PC用ディスプレイの理想的な数と配置は? 「最適解」を探し求めた結果

PHOTOGRAPH: SIMON HILL

在宅勤務のためにPC用のディスプレイを導入するなら、何台をどう配置するのがベストなのだろうか──。その「最適解」のひとつを、惜しみなく公開しよう。>>記事全文を読む


05 スマート照明メーカーInsteonの“死”:置き去りにされたユーザーたち 

PHOTOGRAPH: MIKE_KIEV/GETTY IMAGES

ある米国のスマート照明メーカーが、突如として運営を終了したことが波紋を呼んでいる。ユーザーは自宅の照明機器を操作できなくなり、住宅の機器類をIoT企業に委ねることの重みが改めて浮き彫りになった。>>記事全文を読む


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大手ゲーム企業による買収が多く見られたゲーム業界の2022年。一方で、「Steam Deck」や「Playdate」といった新しい携帯ゲーム機=プラットフォームも注目された。22年にオンラインでよく読まれたゲーム関連の記事をピックアップし、『WIRED』日本版が振り返る2022年(ゲーム編)としてお届けしよう。

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