Netflixによる人気番組のライブ配信の失敗は、ストリーミング競争における「新たな課題」を突きつけた

Netflixが婚活リアリティ番組「ラブ・イズ・ブラインド」で予定していたライブ配信の中止を余儀なくされた。視聴者が殺到したことが原因とみられ、激化するストリーミング競争に勝ち抜くには安定した配信が可能であると証明する必要がある。
Netflixの婚活リアリティ番組「ラブ・イズ・ブラインド」のライブ配信特番は中止を余儀なくされ、最終的に収録形式であとから公開されることになった。
Netflixの婚活リアリティ番組「ラブ・イズ・ブラインド」のライブ配信特番は中止を余儀なくされ、最終的に収録形式であとから公開されることになった。Photograph: NETFLIX

Netflixの婚活リアリティ番組「ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~」のファンたちは、4月17日の夜に配信予定だったライブ配信の特番で出演者が一堂に会することを楽しみにしていた。NetflixがTwitterのプロフィール欄で宣言していたように、シーズンを通して人気だったティファニーとブレットの仲が本当に「永遠」なのか知りたかったからだ。

ところがNetflixは大事な配信につまずき、視聴者に番組をリアルタイムで届けることができなかったのである。予定時刻から約90分が過ぎた段階でNetflixは配信を断念し、代わりに再会の様子を収録して月曜午後に公開すると約束した。

「遅くまで起きていたり、早起きしたり、日曜の午後の予定をこのために空けてくださったりしていたみなさま、『ライブで再会』のエピソードを予定通りに放送できなかったことを心からお詫び申し上げます」とNetflixはツイートで伝えている。「現在撮影中で、できるだけ早くNetflixで配信いたします。再度、御礼とお詫びを申し上げます」

ライブ配信が頓挫した理由についてネットフリックスに問い合わせたが、回答は得られなかった。

“テレビ的”な取り組みを加速させるNetflix

テレビをディスラプト(創造的破壊)したNetflixは、いまやテレビ番組の方式を取り入れようとしている(テレビは生放送に関してはかなりうまく機能していた)。コメディアンのクリス・ロックによるスタンダップコメディの特番をライブ配信する計画をNetflixがユーザーに明かしたのは、今年3月のことだった。

ライブ配信の取り組みは、ネットフリックスが動画配信業界という競争の激しい分野で差異化を図る戦略であると広く捉えられている。収益を上げるためにパスワードの共有を禁止するという不評を買う変更をした状況では、特に重要な戦略だ。

一方で、番組のライブ配信はテレビの生放送より難しく、技術的なハードルにつまづいた動画配信サービスはNetflixだけではない。需要の高いコンテンツに関しては特にハードルは高くなる。「あまりに人気だったことが原因です。成功による失敗だと言えます」と、市場調査会社のOmdiaでメディア配信を担当するアナリストのジョン・ケンドールは説明する。

大ヒットしたシリーズの出演者が再び集まる番組のように大々的に宣伝できて多くの人が待ち望んでいるコンテンツは、Netflixが人々の関心を得るために必要なものだ。しかし、番組を視聴しようとする人が多すぎたことが、ライブ配信の失敗の原因となった可能性は高い。「ネットフリックスはこの問題に直面したばかりですが、この問題に苦戦する会社はネットフリックスが最初でも最後でもありません」とケンドールは語る。

配信ならではの技術的なハードル

テレビ放送を観ていると、生放送は簡単なように見える。だが、動画配信は放送とは異なる技術を用いているので、ライブ配信は難しいのだ。

放送の場合、1対多数へと信号を送信する。従来のテレビやラジオの信号のように、多くの人がテレビをつけてチャンネルを選択することで周波数を合わせているわけだ。これに対して配信は、ユニキャストの連続である。つまり、要求に応じて単一のデバイスに信号を送信している。

これにより、コンテンツの作成、サーバーへの送信、ユーザーへの配信の各段階で問題が発生する可能性が高まるのだと、Omdiaのケンドールは説明する。また、視聴者が増えると必要な帯域幅も増える。だからこそ、視聴者の需要を過小評価すると問題が発生することになるのだ。

Netflixは特にこの点で問題に直面している。その理由は、テレビやコンピューター、スマートフォン、タブレット端末向けのNetflixアプリを介さないとコンテンツを配信できないからだと、ケンドールは指摘する。

これに対してHBOのような競合他社は、アプリで視聴する人だけでなく、契約したケーブルテレビで視聴する人もいる。このため混雑する時間帯におけるコンテンツの配信方法が分散されるわけだ。

遅延の解消が鍵に

ほかの大きなイベントのライブ配信も、期待を下回る状況がしばらく続いている。スーパーボウルをライブ配信しようとする試みは失敗が続き、21年の夏季オリンピックでも問題が多かった。「2018 FIFAワールドカップ」では、イベントが発生してからテレビ画面に表示されるまでの時間の遅延を短縮しようと、動画配信サービスを提供する各社は奮闘した

遅延は以前から、テレビなどの生放送よりもインターネット経由のライブ配信のほうが多い。これはライブ配信ではコンテンツをある程度まとめて送信し、それをデバイスが読み取る形式だからである。遅延を減らすことが鍵なのだ。

「もはやこれが機能するかどうか、あるいは視聴者数に対応できるかどうかという問題ではなくなりました」と、技術インテリジェンス会社のABI Researchのアナリストであるマイケル・イノウエは語る。「遅延がどれくらいか、という点が問題なのです」

ライブ配信は今後も成長が見込まれており、特にスポーツ分野での需要が高まっている。アマゾンは22年からナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の木曜夜の試合の独占配信を始めた。また今年後半からは、地元以外の試合を視聴できる月額契約の『NFL Sunday Ticket』のコンテンツがYouTubeを通じて配信される予定だ。

消費者がこうしたサービスを幅広く利用し始めるにつれ、遅延の問題が特に目立つようになるだろう。例えば、ファンが画面で見るより先に、Twitterでタッチダウンの情報を知る状況を考えてみてほしい。遅延はスポーツの試合で素早く賭けをする場合にも影響を及ぼす。

ライブ配信で成功と大失敗を1回ずつ経験したネットフリックスは、ライブ配信の番組を安定して提供できることをこれから証明しなければならない。Netflixはすでに24年の全米映画俳優組合賞(SAGアワード)のライブ配信を予定しており、ほかのイベントをライブ配信する可能性も高い。だが、ストリーミング戦争で勝ち残るには、もっとライブ配信の質を高める必要があるだろう。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

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