ハリケーンの影響でニューヨーク市に2時間で10インチ(254mm)もの大雨が降ってから2年。ニューヨークの街が再び集中豪雨に見舞われている。ニューヨークは気候変動の影響と闘っている世界中の多くの都市のひとつだが、温暖化は乾燥だけでなく大雨をもたらすこともあるのだ。
温暖化する地球では降雨量が増え、嵐はより強大になっていく。その影響は特に都市部で深刻である。都市は建設当時に想定されていた降雨量を処理する前提で、雨水インフラが設計されているからだ。
前世紀の建設者たちが何を望んでいたのかを思い返してほしい。雨水がたまる前に、できるだけ早く川や湖、海に流す下水道や運河である。
たいていの場合、それはうまく機能していた。しかし、時が経つにつれ洪水が発生するようになり、古くからの下水道システムは想定外の大雨や洪水をさばく役割を担っている。
コンクリートやアスファルトを多用する現在の都市は、景観の上にある種の“封印”を施しているようなものだ。道路や駐車場のような硬い路面が多く、公園のような柔らかい路面はほんの少ししかない。このため、水は地中に浸透できないまま地下鉄の階段を滝に変えたり、学校を水浸しにしたりしながら濁流をつくるしかない。
加速する都市の「スポンジ化」
よりよい下水道システムが不可欠であることは確かだろう。一方で都市計画者は、水を吸収しやすくして洪水の被害を軽減するよう設計された「スポンジシティ」として、都市を根本的に再構築しようとしている。
ニューヨーク市の洪水対策が、まだ道半ばであることは明らかだ。しかし、ニューヨーク市内には現時点で12,000以上の“緑のインフラ”があると、ニューヨーク市環境保護局の広報担当者は説明する。これには雨を吸収する道路脇の緑地帯(レインガーデン)や、池や湿地帯のような自然の排水システム(ブルーベルト)などが含まれる。こうした緑のインフラは、すべて雨水の下水システムへの流入を防ぐうえで役立っている。
「ニューヨーク市は全米で最大かつ最も積極的な緑のインフラ計画を推進しています」と、市の広報担当者は説明する。「新しい雨水規制が2022年に策定され、新たな都市開発や再開発の際には雨水を敷地内で管理し、洪水の原因となる道路への排水を許可しないことが義務づけられたのです」
同じようにロサンゼルス市はレインガーデンを導入し、雨水を拡水地(水を地中に徐々に浸透させる泥のボウルのような場所)へと導いている。干ばつに悩まされている米西部では、この方法によってなるべく多くの雨水を帯水層へと戻し、必要に応じて飲料水として利用できるようにしている。
かくして未来の都市は進化する
緑地は洪水を軽減するだけではない。都市の景観を美しくすると同時に、近隣住民のメンタルヘルスを改善する効果もあるのだ。マイクロプラスチックやその他の汚染物質をろ過し、河川などの生態系に影響しやすい水域に到達しないようする効果も期待できる。
また植物が“汗をかく”ことで、暑いときには周辺を涼しくしてくれる。これにより、都市部のヒートアイランド現象(都市部が郊外と比べてはるかに暑くなる)が緩和されるだろう。こうした緑地が都市農園であれば、食料を生産しながら緑地の効果も期待できる。
問題は都市部の土地が高価なことで、緑地も安くはないということだろう。植栽が不可能な場合、ニューヨークのような都市は透水性舗装を採用している。これは従来の舗装のように雨水の“バリア”として機能する代わりに、雨を土に浸透させる機能をもつ。
また、一部の都市では、水道の利用者に雨水対策費を追加請求し始めている。衛星画像を使って土地の透水性を調査することで、植栽より舗装のほうが多い土地の利用者から追加料金を徴収する仕組みだ。
未来の都市においては、こうした手法によって“スポンジ化”が加速していくかもしれない。だが、温暖化対策によって都市が過ごしやすい場所になり、よりレジリエントになっていくのだとしたら、未来の雨は重荷ではなく恵みになるかもしれない。
(WIRED US/Translation by Daisuke Takimoto)
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