毎日午後になると、4歳と7歳の子どもたちを電動アシスト自転車で迎えに行く。そして家に到着して地面に足を付けた途端に、子どもたちの手は真っ先にヘルメットを頭に固定しているあごのストラップへと向かい、そのまま脱ぎ捨てられるのだ。もろいヘルメットなら、地面にぶつかるとヒビが入ってしまう。
できるだけの対処はしているものの、子どもたちを責めるのは難しい。ヘルメットはケガをする危険性を大幅に下げてくれるが、うっとうしいのも事実なのだ。ヘルメットをかぶらずに自転車に乗るなんて考えたことはないが、これまでに試したヘルメットのほとんどが、かぶるにも持ち運ぶにも大きくてかさばるものばかりだった。
ヘルメットはぴったりフィットしなければならないし、値段も高い。さらにやっかいな点は、一度衝撃を受けたら使えなくなることだ。
ほとんどの自転車用ヘルメットは硬い発泡ポリスチレンフォームでできている。発泡ポリスチレンフォームが割れることで衝撃を吸収し、頭部を守る仕組みだ。事故で衝撃を受けたヘルメットは交換しなければならないが、4歳の子どもが繰り返し壁にぶつけたヘルメットも安全性が損なわれている可能性がある。
それに、家までの長い道のりを歩くことになって「Lyft」のようなライドシェアではなく、便利な電動キックボードや電動アシスト自転車のレンタルサービスを利用するときはどうするか。ヘルメットなんてもっていないだろう。そして、頭と道路が衝突する結末が待っている。
だが、かぶっても不格好にならない上に、便利で快適なヘルメットがあったらどうだろうか?
Newton-Riderのヘルメット「N1」をかぶった姿を見たほとんどの人からよい反応があった。このヘルメットはコンパクトでスタイリッシュなことに加え、厚さは通常のヘルメットの半分ほどだ。また、着用は頭の大きさに合わせてダイヤルで締め付ける方式ではなく、ニット帽のように頭部にかぶせるタイプとなっている。
これまでにもこのヘルメットの問題を解決するほかの製品を見てきたが、300ドル(日本では55,000円)のHövdingのようなエアバッグ式ヘルメットは手に入れやすいとは言えない。それに発売から数年になるが、広く普及している様子もない。一方、N1のIndiegogoでの先行予約の価格は99ドル(約13,000円)だ。
Newton-RiderのN1は折り畳むとバッグに収まる便利さがあり、1回だけでなく複数回の衝撃から頭部を守る設計となっている。これは無駄がなく経済的だ。
N1は伸縮性と耐久性のある布地で複数のパネルをつなぐ構造により、頭部を守る仕組みとなっている。それぞれのパネルは3層構造でできている。具体的には、硬いポリカーボネート製のシェルと衝撃を吸収する弾力のあるポリウレタンフォーム、そしてNewton-Riderが「超分子(supermolecules)」と呼ぶ独自の非ニュートン素材の熱可塑性エラストマーだ。
Newton-Riderによると、この超分子が「シアシニング効果」(はさみ切るような力を加えたとき、断ち切る速度が高いほど粘度が下がる)を示す。つまり、衝撃を受けると超分子の結合が解け、衝撃の力を熱エネルギーとして放出する。そして、ケチャップをしばらく置いておくと再び固まるように、非ニュートン素材の分子は衝撃を受けたあとで元のかたちに戻るのだ。
ヘルメットの最も重要な点は、これが本当に機能するかだろう。当然ながら、ヘルメットの保護能力を試すためにクルマにぶつかる気にはなれなかった。とはいえ、Newton-Riderによると、N1は欧州と米国の両方で安全基準の承認プロセスを受けており、2022年中に米国で提供できる見通しだという。
自転車に乗るときはヘルメットを毎回かぶっているので、テスト用のN1をかぶるのは問題なかった。だが、ほかの乗り物に乗るときはヘルメットをそれほど頻繁にはかぶっていない。
それでも、ローラースケートをする日にはダッフルバッグにN1を入れるようになった。さらに、スケートボードをするときもN1をかぶれるようにバックパックに入れるようになった。しばらくすると、常にとは言えないが、たいていの場合はN1をもち歩くようになったのである。
N1は縦にも横にも折り畳めるが、折り畳まれた状態は保てない。Newton-Riderの担当者によると、ヘルメットは最大4,000回、つまり1年間使用した場合に想定される折りたたみ回数分の試験を実施している。また、ヘルメットを折りたたんだ状態を維持できるほこりよけのカバーの開発を進めているという。
なお、通気孔がある通常の自転車用ヘルメットと比べると、N1の通気性は乏しい。「レース用のヘルメットではありません」と、Newton-Riderで戦略を担当するフレデリック・ジェンセンは説明する。「電動アシスト自転車に乗っている人はそんなに汗をかかないでしょう」
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)や地球温暖化の影響もあり、電動キックボードや電動アシスト自転車の人気は急上昇している。ただし、人気の上昇に伴い事故も増加傾向だ。
ニュージーランドなど一部の国は、ヘルメットの着用を義務づける非常に厳しい法律を制定している。「とても速いスピードで運転する電動の乗り物の問題に対処する法律を制定する動きが多くあります」と、ジェンセンは語る。「シートベルトの着用義務が定められたときのようなことが起きるかもしれなません」
ここで重要なのは、自転車に乗る人、歩行者、キックボードに乗る人、クルマを運転する人たちが全員で道路を共有しているということだ。
自転車に乗る人々はヘルメットをかぶることができる。各メーカーは電動の乗り物に速度制限の機能を実装するなどの安全対策を講じている。だが正直なところ、道を使う人々の安全をより高める最も効果的で確実な方法は、できるだけ多くの人々がクルマを使わなくなるよう街を変えることだろう。とはいえ、それが実現するまではヘルメットをバッグに必ず入れておきたい(そしてもう少しだけ常識的な行動をこころがけよう)。
Newton-RiderのN1は、現在クラウドファンディングサービス「Indiegogo」でキャンペーンを実施している。ただし、クラウドファンディングのキャンペーンを支持したからといって、製品が必ず手に入る保証があるわけではない点は注意してほしい。キャンペーンへの参加を決めた人はN1を99ドルで先行予約することができる(GREENFUNDINGによると日本での通常価格は18,500円)。
(WIRED US/Translation by Mayumi Hirai, Galileo/Edit by Nozomi Okuma)
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