任天堂の著作権に対する厳しい姿勢は、ゲームが持つインタラクティブな可能性を狭めている

任天堂は今年4月、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をマルチプレイ化したMOD動画などを投稿した著名ユーチューバーに対し、著作権侵害だとして動画の削除要請をした。投稿主は「フェアユース」を主張しているが、この概念の法的解釈はかなり不確実だ。
任天堂の著作権に対する厳しい姿勢は、ゲームが持つインタラクティブな可能性を狭めている
PHOTOGRAPH: Lukas Schulze/Getty Images

任天堂のキャラクターは数多くいるが、カービィは同社を代表するキャラクターだろう。まん丸でピンク色をした可愛らしいカービィには、キャラクター著作権を巡る裁判で同社米法人の代理弁護士を務めたジョン・カービィにちなんで命名されたという説もある。任天堂が1983年にユニバーサルスタジオから訴えられた際、同社ゲーム「ドンキーコング」は映画『キングコング』の著作権を侵害するものではないと裁判官を説得したのが弁護士のカービィだ。

この裁判で勝訴したのを機に、任天堂はビデオゲーム業界での出世街道を切り開いていった。その任天堂がいま、自社の知的財産(IP)を守るべく法的手段を講じる側に立っている。

任天堂が最近にらみを利かせている相手は、同社のファンとして有名なユーチューバー「PointCrow」ことエリック・モリーノだ。170万を超える登録者を抱えるモリーノは、主に「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の動画──可能な限りゲームを速くクリアするスピードランや、盾だけでゲームをクリアする縛りプレイなどといったコンテンツで人気を博している。

「ブレス オブ ザ ワイルド」は本来一人用プレイを前提とされたゲームだが、モリーノは2021年11月、自身の視聴者の中からゲームをマルチプレイ化したMOD(ユーザーによるゲーム改造データ)を開発した人に対し賞金1万ドルを支払うと発表した。23年4月には、見事MODを作成したAlexMangueとSweeが賞金を獲得し、プレイヤー32人がオンラインで結集して一緒にハイラルの山々を冒険した。

モリーノが当該MODの動画を意気揚々と投稿し始めたのは4月6日のことだった。ところがその直後に別の動画で、任天堂からデジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)に準じた削除要請を突き付けられ、「ブレス オブ ザ ワイルド」のMOD動画4本が実質的に公開禁止に追い込まれたことを明かした。

モリーノはツイッター上で、この事態に「とてもがっかり」しており、任天堂に抗議のメールを送ったと述べた。しかし任天堂はこれを受けてモリーノのチャンネルへの徹底攻撃を開始し、合計で28本もの動画が削除される事態になった。そこには「ブレス オブ ザ ワイルド」やMODとは関係のないものまで含まれていた。

モリーノはその後の動画で(現在は限定公開中)自身の弁護士が用意した声明を読み上げ、削除要請を止めてほしいと任天堂に懇願した。彼の主張は、マルチプレイヤーMODは米国著作権法でフェアユース(公正使用)の対象として保護されており、著作権侵害にはあたらないというものだ(この件についてモリーノに取材を申し込んだが、返事はなかった)。「削除要請と著作権侵害の主張を取り下げるか、少なくとも、話し合いの機会を設けてほしい。そうでないとぼくらは、御社が今後発売するゲームを楽しみに待つことができません」。モリーノは動画内でこう訴え、このままでは最新作「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」発売に際して、ストリーマーたちが自由に動画投稿ができなくなってしまうと懸念を表明した。

任天堂がこうした対応に出たことは意外でも何でもない。同社は長年にわたりコンテンツクリエイターに対して次から次へと著作権侵害を申し立ててきた。その対象は同社ゲームのサウンドトラックを使用したYouTubeチャンネルから、ファンによるオマージュ作品までさまざまだ 。しかし、23年に入って映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が大ヒットし、さらに「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が好評を博すなか、わたしたちはこの問題に改めて向き合わねばならない。なぜなら任天堂が著作権法を振りかざしてクリエイターたちの活動を制限し続ければ、ゲームというメディアが持つ最大の強みであるインタラクティビティが損なわれてしまう恐れがあるからだ。

任天堂の著作権意識は時代錯誤か

任天堂はこれまで数々の訴訟に巻き込まれてきたが、つねに原告側だったわけではない。しかし「ドンキーコング」は『キングコング』の著作権侵害だと訴えたユニバーサルスタジオに勝訴してからは、どんどんと強気な姿勢に出るようになった。89年にはゲームソフトのレンタル会社であるブロックバスターを相手に訴訟を起こしており、当時の任天堂アメリカ会長ハワード・リンカーンはゲームレンタルのビジネスを『商業的なレイプ』と言って糾弾したほどだ。

実際に裁判で争われたのは、説明書をコピーして配布するのは著作権侵害にあたるか否かという点で、裁判の末にブロックバスターは説明書をコピー以外の方法で置き換えることに同意したが、ゲームソフトのレンタル事業は問題なく継続された。

メディア企業はたいてい、遅かれ早かれ自社の著作権を巡る法廷闘争に巻き込まれるものだ。しかし腹立たしいのは、今の任天堂が自社ゲームのファンを相手に著作権侵害を申し立てていることだ。こうした同社の戦略は時代錯誤で、怒りの矛先が間違っているのではないかという印象を受ける。

例えば、13年には「Let’s Play(実況プレイ)」(1本のゲームを最初から最後までプレイする動画)に狙いを定め、自社ゲームの映像が使用されている場合は、その動画の広告収入に対する権利があると主張した。その2年後には、ゲーム業界では前代未聞の「Nintendo Creators Program」を導入。クリエイターが同社コンテンツを使用した実況動画を作成した際は、投稿を事前申請し、広告収入の40%を任天堂に分配しなければならないとした(チャンネル単位で申請すれば、任天堂への分配率は30%だった)。当時これに腹を立てた多くのユーチューバーが任天堂関連の動画投稿をボイコットし始め、Wii Uの販売台数が低迷していた時期にもかかわらずまったく関連動画が投稿されない事態となり、任天堂は絶好の宣伝チャンスを逃した。

ゲームメディア「Boing Boing」のコリー・ドクトロウによると、「任天堂からすれば緩やかな対応をとったつもりなのです。コンテンツ配信の全面禁止をしなかったわけですから」とのことだ。「しかしこれではケチくさい印象を与えてしまいます。なにしろ、ファンはYouTube上に任天堂のコンテンツを求めているわけですが、任天堂はその需要に応えるために自らコンテンツを作成しようとせず、他人が制作したコンテンツを搾取しているだけなのですから」

任天堂は結局、18年に方針を変更して「Nintendo Creators Program」を廃止。代わりに一連の「ガイドライン」を発表し、実況動画をはじめとする動画の投稿を認めることにした。

「任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショットを利用した動画や静止画像を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)すること、および別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません」(「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」からの引用)

この180度の方針転換を見るに、実況動画を投稿する大勢のユーザーをひたすら潰していくことは不可能だと判断したのだろう。しかし肝心なのは、法的には何も変わっていないということだ。

フェアユースという概念の曖昧さ

任天堂は、モリーノのYouTube動画を著作権侵害だと名指しした直接的な理由を明らかにしていない(『WIRED』がコメントを求めたが回答は得られなかった)。恐らくは、モリーノがMODとエミュレーターの動画を投稿したこと、そして不特定多数に向けてMOD作成を呼びかけたことが任天堂の反感を買ったのだろう。同社はこれまで一貫して、ゲームエミュレーターの使用を「ビデオゲーム開発者の知的財産権に対する史上最大の脅威」と非難しており、ROMサイトや改造版「大乱闘スマッシュブラザーズ」のトーナメントを閉鎖に追い込んできた歴史がある

モリーノは反論動画のなかで、自分が使っているMODはフェアユースの範囲内であると主張している。フェアユースとはアメリカにおける法律の概念で、「批評、解説、報道、学問(教室内における複数のコピー作成を含む)、研究の目的で使用する場合」は、著作物の自由な使用を認めるというものだ。

しかし最高裁を含む米裁判所では、特定の創作活動に対してこの法をどう適用するかの判断はケースバイケースだ。また、フェアユースに該当するかどうかの判断基準となる4要素 (利用の目的と性格、著作物の性質、著作物のどの部分が使用されたか、著作物の市場に及んだ影響)は幅広い解釈が可能であり、数字によって白黒を付けられるものではない。

ペパーダイン大学カルーソ・ロースクールの法律学教授ビクトリア・シュワルツによると「判断基準が抽象的なため、例えDMCAの下で創作物の削除要請が出されたとしても、フェアユースについて法廷で争われた場合には、最終的にどのような結果が出るのかを予想するのは難しいです」と話す。

しかしモリーノの立場は非常に危うい。法律事務所KBL Rocheのパートナー弁護士アレックス・レトゥルゲス=コイアニーズは、MODの法的資格に関する記事の中で「MODの作成はまさしく著作権の侵害です。著作物がもつ魅力や長所を活かしていようがいまいが、MOD作成者が事前に制作された著作物を改造していることに変わりはありませんし、著作権者はそうした行為に対して権利を行使することができます」と述べている。「MODはたとえ無料配布されたものであったとしても、著作物を利用して作成された二次的著作物であることに違いなく、フェアユースの範囲外だと言えるでしょう」

いずれにせよ、こうした法的仮説をたてたところで、モリーノが任天堂相手に裁判をするというのは現実的ではない。あれだけの巨大企業を相手に裁判ができるほどの資金力を持った個人などいないのだ。「これはすべて、著作権法におけるフェアユースの概念が曖昧なせいです」とシュワルツは話す。「モリーノは自分の創作活動がフェアユースに該当すると信じていますが、フェアユースの法的解釈があまりに不確実なため、敗訴したときのことを考えると訴訟することなどできないのです」

素晴らしいMODは時にゲームの可能性を広げることもある。しかしシュワルツが指摘する通り、任天堂にとっては自社ブランドのイメージが汚されないことが一番重要なのである。例えばポケモンが銃を持って出てくる改造ゲームを直ちに削除させたように、任天堂にとって自社の商標はキッズとファミリーにふさわしいものでなければならないのだ。「こうした姿勢はディズニーと同じです。ディズニーも自社のブランドアイデンティティにそぐわない著作物の使用に関しては、特に厳しく目を光らせています」とシュワルツは言う。

ユーチューバーMoonyが動画で指摘している通り、ビデオゲーム関連動画の「コンテンツ制作」は、企業の匙加減でいくらでも左右される状況に立たされている。動画の存続は企業の気分次第なのだ。

さらに悩ましいのは、こうした法律のいざこざよって、ゲームが持つ双方向的なインタラクティビティが損なわれかねないことだ。例えば最新作「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」には、任天堂史上、最高に自由度の高いクラフト機能が備わっている。キノコの盾や空飛ぶイカダ、この世界では想像力さえあればなんでも作れてしまう。そして、こうしたクリエイティブな要素は、まさに「ブレス オブ ザ ワイルド」のストリーマーたちによって育まれてきたものだったはずだ。

ゲームの世界は想像力に満ちあふれている。しかし、新たな法的主張がなされるごとに、プレイヤーの想像力が発揮される機会は制限されていく。

WIRED US/Translation by Yasuko Endo/Edit by Ryota Susaki)

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