「Nothing Ear (2)」は、個性的な外観と活気あるサウンドが印象的:製品レビュー

英国のNothing Technologyがワイヤレスイヤフォンの新モデル「Nothing Ear (2)」を発表した。Nothingらしい個性的なデザインを身にまとったこのハイレゾ対応のイヤフォンは、活気に満ちたサウンドが特徴的だ。
Nothing Ear レビュー:個性的な外観と活気あるサウンドが印象的
PHOTOGRAPH: NOTHING

その製品に“何か”が欠けていると、英国のNothing Technologyが判断したことは間違いないだろう。同社初の完全ワイヤレスイヤフォン「Nothing ear (1)」が発売されたのは2021年の半ばだったが、その後継モデルがすでに登場したのだ。進化を遂げ、性能が向上し、より高価になったその製品の名は、予想通り「Nothing Ear (2)」(日本では2023年3月30日に発売)である。

Ear (2)を含め、Nothingがこれまで発売した製品は4つしかない。それでもEar (2)は、同社がこれまでに送り出した製品のなかで間違いなく最も競争力の高い製品だ。長らく過剰生産の状態にある市場において、Ear (2)は改良を加えられた“売れる製品”の代表格である。

まず、外観はいくぶん個性的だ。インナーイヤー型の完全ワイヤレスイヤフォンのように、小型で機能的でなければならない製品で個性を主張することは簡単ではない。透明なプラスチックを多用することで製品の構造を可能な限り見せようとするNothingの継続的な姿勢のおかげで、Ear (2)と似た軸(ステム)が垂れ下がるような形状の完全ワイヤレスイヤフォンは、先代モデルくらいだ。

バランスのとれたすっきりとしたデザインで、片方のイヤフォンの寸法は29×22×24mm、重量は4.5gと軽量なので快適に装着できる。本体と同様に、ほぼ透明の充電ケースも56×56×22mmとコンパクトで、重量も52gと軽量だ。イヤフォン本体はIP54に準拠した防塵・防水性能を備えており、充電ケースはIP55に準拠しているので、現実的に起こりうる悪環境で使用できる。

さらにEar (2)には、3種類のサイズのイヤーチップと短いUSB-Cケーブルが同梱されている。Qi規格の充電パッドを利用したワイヤレス充電が可能で、スマートフォン「Nothing Phone (1)」のユーザー(またはほかの互換性のあるデバイスのユーザー)なら、スマートフォンの背面に充電ケースを置くことで逆充電もできる。

バッテリー駆動時間は、イヤフォンのみなら4時間(アクティブノイズキャンセリングがオンの場合)から6時間超(アクティブノイズキャンセリングがオフの状態)と、従来のEar (1)より向上した。充電ケースを使うとさらに4回のフル充電が可能になる。アクティブノイズキャンセリングをオフにした状態で充電ケースを使うと、最大36時間の再生が可能だ。そこから10分の充電で、さらに8時間ほど再生できる。

イヤフォンの操作にはアプリが最適

Ear (2)は軽量かつ小型なので、左右のイヤフォンを指先で押してつまむ操作(プレスコントロール)しない限りは、少なくともバッテリー持続時間内は快適に装着できる。ライバル製品の多くは静電容量式によるタッチ操作を物理的なインターフェイスとして採用しているが、Nothingはプレスコントロールの採用にこだわったので、左右のイヤフォンのステム下部にあるボタンをしっかり押さなければ操作できない。

このプレスコントロールによって「再生/一時停止」「次の曲にスキップ/前の曲にスキップ」「通話応答/切断/拒否」「音声アシスタントの呼び出し」を選択でき、スライド操作でノイズキャンセリングの選択が可能になっている。一方で、その操作によってイヤフォンの装着感を損なう可能性もある。

イヤフォン操作には、コントロール用アプリ「Nothing X」(iOS/Android版、無料)を使うほうが無難だろう。Nothing Xではイコライザーのカスタマイズ、アクティブノイズキャンセリングのオン/オフやトランスペアレンシーモードの切り替え(「オン」にするとアクティブノイズキャンセリングの強弱を調整でき、外音レベルに合わせて強弱を調整する「アダプティブ」モードも選べる)、バッテリー残量の確認などが可能だ。

イヤフォン装着の検出のオン/オフを切り替えることができ、イヤフォンの片方または両方を外したときに再生を一時停止させるかどうかも選択できる。また、低遅延モードのオン/オフ、高音質オーディオ(基本的にLHDC Bluetoothコーデックを意味する)の切り替えも可能だ。イヤフォンを探す機能もあり、マルチポイント接続にも対応している。

ただし、Nothing Xで再生操作ができないことは気になる。音量、再生/一時停止などの再生操作をするには音声アシスタントを呼び出すか、リスクを恐れずにイヤフォンのボタンを指で押す必要がある。

ありがたいことにNothingは音声を強調する「Clear Voice Technology」に対応している。左右のイヤフォンのステムの上部に3つのマイクが搭載されており、通話品質、音声アシスタントとのやりとり、アクティブノイズキャンセリングに対応している。マイクは適切に実装されているので、話すときも聴くときも通話品質は非常に優れている。音声アシスタントとのやりとりも頼りになる。

また、Nothing Xにはカスタマイズ機能もある。例えば、聴覚技術を専門とするMimi Hearing Technologiesが提供するリスニングテストの機能が搭載されている。まず、ユーザーはNothing Xでイヤーチップのフィット試験を実施して年齢情報を入力してから、一連のビープ音を聴いていく。このプロセスを完了すると、Nothing Xが結果分析に基づいてユーザーの聴力データに最適なイコライザー設定を調整する。そして聴いているコンテンツに応じて、リアルタイムでイコライザーを微調整してくれるのだ。好む好まざるにかかわらず、Nothing Xはあなたの聴力範囲をグラフィックで表示してもくれる。

アクティブノイズキャンセリングの強弱を調整するためにも、同様のテストが用意されている。ここでもイヤーチップのフィット試験をする必要がある。その後、パーソナライズされたテストで7種類のオーディオフィルターを使ってアクティブノイズキャンセリングを調整し、最も快適なリスニング体験を提供する。少なくとも、理論的にはそういうことになっている。

Ear (2)はワイヤレス接続の規格にBluetooth 5.3を採用しており、SBC、AAC、LHDC 5.0コーデックと互換性がある。LHDC 5.0を採用したことで、Ear (2)はハイレゾオーディオのワイヤレス認証を取得し、適切な指定のプレーヤーと接続することで最大24bit/192kHzのハイレゾ音源に対応する。

どのような規格のデジタルオーディオファイルをストリーミングする場合でも、Ear (1)から変わることのないデザインである11.6mmのポリウレタン/グラフェン製フルレンジ・ダイナミックドライバーがそのサウンドを再現する。各ダイナミックドライバーはふたつの空洞を備えた構造になっており、スムーズなエアフローを実現した。

活気に満ちたサウンド

Ear (2)の特徴を引き出すべく、LHDC 5.0コーデックでBluetooth接続で「Nothing Phone (1)」と接続してテストした。Nothing Phone (1)には、音楽ストリーミングアプリ「TIDAL」をインストールしてある。そして価格さえ気にしなければ、Ear (2)は素晴らしい性能が存分に感じさせてくれる。

「TIDAL Masters」でプリンスの「ユー・ガット・ザ・ルック」を高音質なMQA音源で聴けば、Nothing Ear (2)の性能がほぼすべてわかる。スピード感のある活気に満ちたサウンドで、低域の伸びとコントロールに優れているのだ。

細かいところまで表現され、ベース音がただテンポよくドンドンと鳴り響くようなことはない。音質や音色は見事でリズムの表現もかなり優れており、間違いなく勢いがある。

中音域でも同様に細部の表現に優れ、プリンスの声にもシーナ・イーストンの声にも、その個性とテクニックが余すところなく表現されている。Ear (2)がつくり出す音響空間は最大級のものではないが、適切に配置され制御されているので、ひとりのシンガーがほかからの干渉を受けずに存分にパフォーマンスを発揮するには十分だ。

だからといって、シンガーがそれ以外の演奏から切り離された感じがするわけではない。しかし、個別の録音を集約した音源よりも、一般的なレコーディングで制作された音源の再生に適している。

ありきたりの製品ではない

トップエンドの周波数帯域は、ほとんど無謀と言えるほどに自己主張が強い。Nothing Phone (1)と組み合わせると、高音域の鋭さと輝きが危険なレベルにまで近づくので、こうした特性を考慮しない音源を再生した場合に高音域が手に負えなくなる可能性は容易に想像できる。

特に大音量で聴いている場合には注意だ。もちろん、高音域のレスポンスが鈍くなったりロールオフしたりする状態は避けたいところだが、Ear (2)は少しその逆側に振り切り過ぎたのかもしれない。

ダイナミックヘッドルームはかなりのものだ。これは特に小さな音と大音量の間を行き来する音源を再生する場合に優れた点である。また、音源の微妙なハーモニーもディテールが損なわれないので、ソロ楽器の音色はすぐそばで演奏を聴いているかのようだ。

アクティブノイズキャンセリングも、かなりうまく実装されている。実際のところノイズをキャンセルするというより「低減」という言葉のほうが当てはまるが、それでも外部音はかなり大幅に低減されている。

しかも、イヤフォンの音は犠牲になっていない。アクティブノイズキャンセリングをオンにしても、騒音を打ち消すための逆位相の音波やノイズフロアの高さに気づくことは一切ない。この点でEar (2)は、同価格帯のライバル製品から抜きん出ている。

全体的にNothing Ear (2)には、非常に多くの魅力がある。コントロールアプリの機能が充実しているので“自分仕様”の感覚があり、主張の強い音(高音域では主張しすぎとも言える)と効果的なノイズキャンセリングの組み合わせにより、楽しく聴くことができる。また、Nothingの独特なデザイン言語ならではの外観は、かなり個性的だ。

この価格帯の完全ワイヤレスイヤフォンの選択肢にはこと欠かないが、Nothing Ear (2)がありきたりの新製品ではないことは保証できる。

◎「WIRED」な点
細部まで表現された躍動感に溢れるサウンド。ハイレゾオーディオ認証を取得している。優れたコントロールアプリと頼りになる音声アシスタントとのやりとり。ほどよく個性的な外観。

△「TIRED」な点
高音域の再生は常にギリギリを攻めているような印象。指先でつまむ物理的な操作がフィット感に影響する。ノイズキャンセリングの性能はそこそこ。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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