物理的なノートに代わる選択肢になるか? さまざまな紙を挟んでスリムに持ち運べる「ペーパージャケット」が秘めた可能性

持ち運べる「ノート型ホワイトボード」で注目されたバタフライボードが、さまざまな用紙をバインダーのようにとじてミニマルに持ち運べる『ペーパージャケット』を開発した。あえて物理的な紙というアナログなツールの可能性を追求したこの製品、いかに紙の能力を拡張しようとしているのか。
PAPERJACKET
PHOTOGRAPH: BUTTERFLYBOARD

用途に合わせた紙を選び、1冊のノートにする──。いまや「GoodNotes 5」や「Noteshelf」といったタブレット端末向けのノートアプリでは当たり前のこの機能を、物理的な紙というアナログなツールで実現しようとすると、ホチキスやパンチで紙に穴を開けたり、かさばりがちなバインダー(クリップボード)やペーパークリップを使ったりすることになる。

好みの紙を手間なく、スリムに閉じて持ち運ぶ方法はないだろうか? そんな思いから生まれたのが、現在クラウドファンディングサーヴィス「Makuake」でプロジェクトを実施している「ペーパージャケット」。好みの紙を1枚から30枚まで手軽に挟んで持ち運べる、紙専用の“ジャケット”である。

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146年ぶりのアップデート

ペーパージャケットを開発したのは、”たった一人のメーカーが生んだノート型ホワイトボード”で注目されたバタフライボードの福島英彦だ。ホワイトボードをリングノートのように何枚もとじて持ち運ぶという、ありそうでなかったアイデアは高く評価され、日米のクラウドファンディングで累計約8,500万円の資金を調達した

そのバタフライボードが次に目を付けたのは、紙のノートがもつ制約だった。「どんなにデジタル化が進んでも、思考をアウトプットする最も簡単で普遍的な方法は『紙とペン』の組み合わせですよね。でも、従来の大量生産されたノートやメモは、ユーザーのニーズが多様化しているにもかかわらず、使う紙や場所、使い方の制約によってユーザーの自由度が高いとは言い難いのが現状なのです」と、福島は語る。

カスタマイズできるノートというアイデアには、デジタルな時代においても需要があるのだろう。その証拠に、中紙を選んでオリジナルのノートを制作できるサーヴィスの人気はいまも根強い。またインターネットには、文具メーカーが出しているものから個人が制作したものまで、印刷して使えるノートやカレンダー、リストなどのテンプレートも多く出回っている。

こうしたカスタマイズをもっと手軽に、しかも手元にあるコピー用紙や裏紙、好みの書き味の紙を使ったりして簡単に実現しようというのが、ペーパージャケットの狙いだ。穴を開けずに複数枚の紙をまとめる道具というとペーパークリップがあるが、強い保持力に比例してクリップを開く力も強くなるので使い勝手が悪いという欠点がある。一方、従来のマグネット式のバインダーはとじる力が弱く、紙を1〜2枚しか束ねられない。そこで福島は両者の“いいとこどり”をした新たなクリップ構造を独自開発した。

福島が考案したのは、「てこの原理」とばねを使った従来のクリップに代わり、てこの原理にマグネットを組み合わせた新しいクリップの構造だった。彼はまず、構造を簡素化して本体を薄くするために、モーターなどにも使われる強力なネオジム磁石を採用した。これで磁力が強いことで数十枚単位の紙を挟めるようになるが、そのままでは磁力が強すぎてクリップ部分を手で開きづらい。そこで、てこの原理を応用することで、さほど力を入れなくても簡単に開けるようにしたのである。

この構造のおかげで、軽い力で開閉でき、1枚でも30枚でも紙を挟める仕組みが生まれた。なお、てこの原理とばねを組み合わせたクリップが特許登録されたのは1875年(明治8年)。紙を挟むクリップやバインダーの世界において、実に146年ぶりのアップデートである。

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薄型・軽量のハードカヴァー仕様

ペーパージャケットはA4サイズで薄さ7mm、本体重量190gと薄型・軽量だ。ハードカヴァー仕様なので、立ったまま何かを書いたり、卓上カレンダーのように用紙を立てて使ったりもできるという。また、とじ代も10mmと狭いので、紙のスペースを最大限に使える。紙をとじるためにマグネットを内蔵しているので、クリップ部分に金属製のペンをくっつけたり、本体ごとホワイトボードや冷蔵庫に貼り付けたりといった使い方も可能だ。

こうした基本的な用途のみならず、福島は将来的にペーパージャケットを「紙のプラットフォーム」として機能させることも視野に入れている。紙に手書きしたあとでデジタル化する“ハブ”と位置づけたり、ユーザーが作成したメモ用紙や卓上カレンダーなどのデザインをペーパージャケット用にオンラインで流通させたりといったアイデアだ。

ありそうでなかった構造が注目され、ペーパージャケットのクラウドファンディングは開始から1カ月あまりで目標額の3倍以上に相当する約920万円の支援を集めている。こうした実績からも、紙というプラットフォームを拡張する新しいツールとして注目していいだろう。なお、ペーパージャケットのクラウドファンディングは、2022年3月15日まで実施されている。