“禁止法”を経たTikTokは、いまと同じアプリではいられない

TikTokの米国での運営禁止につながる“禁止法”が成立したことで、事業売却か廃止かの選択を迫られる。法廷闘争に持ち込まれる可能性もあるが、いずれにしても現在と同じアプリのかたちは維持できないだろう。
Photo of Participant holding a sign in support of TikTok at a news conference outside the U.S. Capitol Building on March...
Photograph: Anna Moneymaker/Getty Images

TikTokの“終わり”が始まった。米国議会が驚くほどの速さで法律を成立させた1週間を経て落ち着きが戻るなか、来年のTikTokは現在わたしたちが使っているものとはかなり違ったものになるだろうことは明らかである。

ジョー・バイデン大統領が950億ドル(約15兆円)相当の対外支援法案を4月24日(米国時間)に承認したことで、TokTokが4年間にわたって悩まされてきた悪夢が現実のものになった。もしTikTokの親会社である中国のバイトダンス(字節跳動)が自社株の売却を拒絶すれば、米国は全国でTikTokを禁止する。対外支援法案が成立したことでタイマーが発動し、TikTokは270日内に新たな所有会社を見つけなければならなくなったのだ(『ワシントン・ポスト』の記者が指摘したように、TikTokは2025年の大統領就任式の日の前日にタイムリミットを迎えることになる)。

これには可能性として、いくつかの展開の方向性が想定される。米国の企業かプライベートエクイティファンドが、TikTokを強力な“おすすめ”のアルゴリズムとともに買収するかもしれない。あるいは、買収する企業はアルゴリズムの機能を除き、プラットフォームの骨格のみでの買収を受け入れざるをえなくなるかもしれない。

アルゴリズムを含まない売却がどのようなかたちになりうるかについて「The Information」は、バイトダンスがすでに画策を始めていると4月25日に報じている。もしくは買収企業が見つからず、TikTokが消滅する可能性もあるかもしれない。

不透明なTikTokの行方

TikTokは成立した法律に異議を申し立てる裁判を起こす方針を表明している。だが、TikTokまたはその多くのユーザーがどうにかして勝訴しない限りは、起こりうる結果がどのようなものであっても、現在のものとはまったく違ったアプリになることだろう。

もし米国のテック企業が奇跡的にTikTokとそのアルゴリズムをバイトダンスから買収することになれば、その企業はTikTokを自社の製品やサービスに組み込む可能性が高い。しかし、例えば「TikTok by Meta」のようなものが生まれる可能性は低いだろう。メタ・プラットフォームズなどの大手テック企業は、近年は反トラスト法(独占禁止法)に絡んで厳しい監視下置かれている。もし大規模なソーシャルプラットフォームをもつ企業が主要な競合製品を吸収するようなことがあれば、司法省や連邦取引委員会(FTC)の警戒を引き起こすことになるだろう。

マイクロソフトはTikTokの買収に関心を示しているが、TikTokにとってマイクロソフトは現実的な売却先としてごくわずかな選択肢のひとつかもしれない。あるいは、マイクロソフトの最大の子会社はリンクトインだが、はたしてLinkedInはTikTokのライバルといえるのだろうか?

ほかにも、もし例えばブラックストーン・グループのようなプライベートエクイティファンドがTikTokを、人もうらやむそのアルゴリズムなしで買収しても、TikTokの心臓部を再構築することは難しいかもしれない。非常に優秀なアルゴリズム専門スタッフを多く抱えていない会社には、フィードに基づくソーシャルメディアプラットフォームを最初から素早くつくり直せるほどの専門能力がない可能性が高いからだ。試みたとしても、芳しい結果が得られるかどうか疑わしい。

そして、もし買収企業が現れなかったとしたら──。「YouTube ショート」やInstagramの「リール」などが残されるのだろう。

米国でTikTokが人気になったことで、グーグルやメタも縦動画への投資を余儀なくされた。しかし、両社のプラットフォームは、より若い“スキビディトイレ世代”に向けたものだ。これらのプラットフォームが、米国のインターネット上でTikTokが占めていた部分とのギャップを埋めることは容易ではないだろう。

だが、このほど成立した法律も長続きしないかもしれない。その違憲性を声明で訴えたTikTokは、法律が覆されることに自信をもっているように見えた。

「事実と法律は明らかにわたしたちの味方であり、最終的には勝利を得ると信じている」と、TikTokの広報担当者は24日にコメントしている。TikTokは昨年、モンタナ州で可決されたTikTok禁止令の差し止めを求めた訴訟の際と同様の論拠を用いたのだ。

この訴訟がどのように展開しようと、TikTokはいまとは違ったものになる。問題は、どのように「違った」ものになるのかだろう。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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