ネクスト・ミッドセンチュリーに向けて、若き6組のアーティストが空想した「2050年の公園」

多様なバックグラウンドをもつ人々が未来を想像/創造することで「多元的な未来」が実現するのだとすれば、次世代のアーティストたちは次のミッドセンチュリー=2050年に向けて、どんな未来を描いているのだろう? 世界各国の6組のアーティストに、「2050年の公園」を想像してもらった。
ネクスト・ミッドセンチュリーに向けて、若き6組のアーティストが空想した「2050年の公園」

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.50 特集「Next Mid-Century」より。詳細はこちら

アイデアは「Reality Ahead of Schedule」(予定を先取りした現実)である──。2023年に生誕90年を迎えたビジュアルフューチャリストのシド・ミードが、自身の作品集『オブラゴン』に記した言葉だ。『スタートレック』や『ブレードランナー』をはじめとする数多くのSF作品にかかわり、未来に暮らす人々の姿を描いた彼のアイデアは、その後多くの人が想像/創造する未来に影響を与えた(その功績はこちらの記事に詳しい)。

では、現代のアーティストたちは2050年の未来をどう思い描いているのだろうか。それを知るべく、出身も職業も違う6組に「2050年の公園」を描いてもらった。

アーティスト本人たちによる作品説明とともに、その作品を紹介しよう。


Bye Bye Canyon by Attilio Bonelli

自然公園や保護区すらもエネルギー生産に利用される究極の開発が完成した未来を描いた作品。峡谷のように、かつては規制によって開発が制限されていた場所の開拓と活用に成功した姿を描いている。超効率的なプラグマティズムによって公園は都市の新たなエネルギー源となり、都市部と自然の間には危ういバランスが生まれた。もはや公園は都市の肺としてではなく、暗い金属の腸として機能するのだ。

Attilio Bonelli(29)
イタリア出身
VFX Compositor, Matte Painter, Designer

IN THREE WORDS
3単語縛りの空想アンケート
─2050年に残っていてほしいものは?
Happy polar bears.
(ハッピーなホッキョクグマたち)
─2050年になくなっていてほしいものは?
Sad polar bears.
(悲しいホッキョクグマたち)
─いまはないけれど2050年にあってほしいものは?
Emotional analog waveforms.
(感情を運ぶアナログ波形)



Floki’s Livestream Odyssey by Ina Chen

2030年、イーロン・マスクは時空を曲げて愛犬フロキの寿命を延ばすため、フロキを宇宙に送る。これを記念し、毎年世界中の人が集まり、宇宙のフロキをライヴ配信で見守るように。時は流れ、2050年のカザフスタン。ロシアの核実験と中国の一帯一路構想の傷跡が残る世界で、国立公園はいまや毒性を帯びる。それでもライヴ配信の吸引力は衰えない。人々は躊躇なく集まり、共有されたイマジネーションとリアルが融合し、現実と非現実が混ざり合っていく。(カルヴィン・シンと合作)

宇宙から地球を見つめるフロキ。

Ina Chen (28)
中国出身
Creative Technologist & Unreal Engine Artist

IN THREE WORDS
3単語縛りの空想アンケート
─2050年に残っていてほしいものは?
Tangible soup noodles.
(ヴァーチャルじゃないスープ麺)
─2050年になくなっていてほしいものは?
Massive parking lots.
(巨大な駐車場)
─いまはないけれど2050年にあってほしいものは?
Interspecies language school.
(異種間言語学校)



The Last Fragments by Chinnapat Asavabenya

容赦ない気候変動の影響によって、屋外の植物が自らの力のみで生育することが事実上不可能になった世界。公園内を歩き回ると、断片的に生える草木にさらなる損傷を防ぐための囲いが注意深くつけられていることに気づく。囲いの中では、わずかに残る樹木の一部が人工的な養分を糧に生きていた。その姿は、すでに手遅れかもしれないなか、貴重な自然の残骸を救おうとする人類の最後の努力を象徴している。

Chinnapat Asavabenya (23)
タイ出身
Animator

IN THREE WORDS
3単語縛りの空想アンケート
─2050年に残っていてほしいものは?
Abundant multispecies diversity.
(豊富な多種多様性)
─2050年になくなっていてほしいものは?
Precipitous species disappearance.
(急激な生物種の消失)
─いまはないけれど2050年にあってほしいものは?
Ethical natural symbiosis.
(倫理的な自然共生)



The Toll of Simulacrum by James Roha

Midjourneyで画像を生成し、手作業でコラージュした作品。未来の公園のデザインそのものではなく、人工的な自然のシステムが導く結果を描いた。気候変動で地球は枯れ、人々はヴァーチャルな自己完結型のシミュレーション世界に逃避するようになった。その態度はまさに「現在」の延長で、社会の無為無策と逃避主義を追及している。制作過程ではスペキュラティヴなトピックをテーマに何百もの画像を生成し、厳選したものをコラージュに掲載した。

James Roha (30)
米国出身
Creative Technologist, Lecturer

IN THREE WORDS
3単語縛りの空想アンケート
─2050年に残っていてほしいものは?
Diversity, open-mindedness, humans.
(多様性、オープンマインドネス、人類)
─2050年になくなっていてほしいものは?
Human-trafficking, subscriptions, billionaires.
(人身売買、サブスクリプション、億万長者)
─いまはないけれど2050年にあってほしいものは?
More nuanced understanding.
(よりニュアンスに富んだ理解)



Glowing Guardians by Sakaokaew Jindawitchu

気候変動や光害が自然に打撃を与え、ホタルの数が減少した現代。ホタルが夜を照らす魅惑的な光景を最後に見たのはいつだったか、もはや思い出すことさえできなくなっている。それならば、機械仕掛けのホタルが昼夜の制限なく、生息地で生き生きと繁栄する世界を想像してみるのはどうだろう? 無数のホタルたちがまばゆい光を生み出す魔法のようなその光景は、きっと魅惑と驚きを再び呼び起こすことだろう。

Sakaokaew Jindawitchu age.23
タイ出身
Animator

IN THREE WORDS
3単語縛りの空想アンケート
─2050年に残っていてほしいものは?
Preserve natural phenomena.
(自然現象の保護)
─2050年になくなっていてほしいものは?
Excessive light pollution.
(行き過ぎた光害)
─いまはないけれど2050年にあってほしいものは?
Wildlife sanctuary haven.
(野生動物保護区の天国)



Biocouture: Moving Patches of Vibrant Green by RAW

都会のシンフォニーのなかを堂々と練り歩くわたしたちは、思い出や体験、夢を織り込んだタペストリーを自分だけの庭として身にまとう。都会の喧騒を、躍動する緑のパッチで洗い流すかのように。地下鉄の駅で見知らぬ人の近くに立つと、庭は触れ合い、集まり、公園となる。ウェアラブルな庭を通じて互いに体験を共有するその瞬間、わたしたちは集合的に公園をつくりだすのだ。わたしたちが足を止めるありふれた瞬間に、公園は「生まれる」。

RAW
Luis Garcia Grech (30)
スペイン出身
Dana Shaviv (26)
イスラエル出身
Santiago Ceballos (30)
コロンビア出身
Orin Torati (27)
ベルギー出身

IN THREE WORDS
3単語縛りの空想アンケート
─2050年に残っていてほしいものは?
Physical human interactions.
(人と人の物理的なやりとり)
─2050年になくなっていてほしいものは?
Zuckerberg ’ s digital verse.
(ザッカーバーグのデジタルヴァース)
─いまはないけれど2050年にあってほしいものは?


PHOTOGRAPH: Alicia Afsher

なお、今回作品を寄稿してくれたのは、南カリフォルニア建築大学のフィクション&エンターテインメント修士プログラムの学生および卒業生たちだ。スペキュラティブ・アーキテクトを名乗り、SF映像作品を通じてテクノロジーが社会にもたらす影響を描いてきたリアム・ヤングが受けもつこのプログラムでは、学生たちがエンターテインメント業界のプロフェッショナルたちと働きながら、ワールドビルディング(世界観の構築)やストーリーテリング、映画やビジュアルエフェクト、ゲームなどに関する専門知識を学んでいる。

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.50 特集「Next Mid-Century」より転載。


雑誌『WIRED』日本版 VOL.50
「Next Mid-Century:2050年、多元的な未来へ」

『WIRED』US版の創刊から30周年という節目のタイミングとなる今号では、「30年後の未来」の様相を空想する。ちなみに、30年後は2050年代──つまりはミッドセンチュリーとなる。“前回”のミッドセンチュリーはパックスアメリカーナ(米国の覇権による平和)を背景に欧米的な価値観や未来像が前景化した時代だったとすれば、“次”のミッドセンチュリーに人類は、多様な文化や社会や技術、さらにはロボットやAIエージェントを含むマルチスピーシーズが織りなす多元的な未来へとたどり着くことができるだろうか? 空想の泰斗・SF作家たちとともに「Next Mid-Century」を総力特集する。詳細はこちら


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