アマゾンのドライブレコーダー「Ring Car Cam」は一般ユーザーには不便な点が多い:製品レビュー

アマゾン傘下でセキュリティ機器を手がけるリング(Ring)のドライブレコーダー「Car Cam」が登場した。つくりはしっかりしているものの、停車してしばらくすると電源が切れて盗難対策に使えなかったり、電源に接続していないと動画を確認できなかったりと期待に応えてくれない部分も多かった。
アマゾンのドライブレコーダー「Ring Car Cam」は一般ユーザーには不便な点が多い:製品レビュー
PHOTOGRAPH: RING

最初から“使えない”とわかっている製品のレビューを引き受けたことはない。アマゾン傘下でセキュリティ機器を手がけるリング(Ring)と法執行機関との連携について懸念はあるが、それでも総じて同社の製品は使いやすく、製品のつくられた目的、つまりユーザーとその家族の安全を守ることに長けていると思う。

これを伝えた上で、リングの「Car Cam」がドライブレコーダーとしての目的を果たしてくれなかったことを主張したい。クルマは信じられないほど高価な資産であり、誰も見ていない屋外に置いておくことが多いものだ。クルマを1カ月も使えなくなる当て逃げ事故に昨年遭ったのだが、そうした事故の記録映像を保存したり、夜間に自宅前の私道に駐めているクルマに誰かが侵入しようとしているという通知を受け取れたりできる機能があったら、非常にありがたい。

しかし、残念ながら「Car Cam」はそうしたことには使えない。取り付けたその日に「Car Cam」がクルマのバッテリーを使い尽くしてしまったことを、リングのアプリが知らせてきたのだ。おかげでカメラを取り外しにパジャマを着たまま急いで外に出ることになった。クルマを守る助けにならない上に、クルマを使えなくするカメラに価値はない。

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取り付けは驚くほど簡単

まずは取り付けについて説明しよう。「Car Cam」自体のつくりはしっかりしているように感じた。クルマのダッシュボードとフロントガラスの隙間に差し込む湾曲した本体の上部に、前方と後方を向いた2つのカメラが搭載されている。リングのカメラが非常に普及しているひとつの理由は、取り付けが驚くほど簡単だからだ。とはいえ、リングがクルマのメーカー、モデル、年式を尋ねたことが最初に感じた嫌な予感だった。

「Car Cam」はクルマの左側にある自己診断用のOBD2ポートに接続して使うので、そこにポートがない場合は使用できないかもしれない。対応していない車種はここから確認できる。ただし、対応していない理由が明らかであるとは限らない。自宅で使用しているクルマはキア(起亜自動車)のSUV「ソレント」の2018年モデルだが、同じ時期に発売されたキアの「ニロ」や「カデンツァ」では、クルマのセキュリティライトで動作を誤検知してしまうなどの理由から使用できないという。

2つ目の欠点は、(これは先に警察には謝っておきたいことなのだが)「Car Cam」を使うことが米国の一部の地域では「違法」である点だ。オレゴン州を含むいくつかの州では、運転手の視界を妨げるか、ほかの人が車内を見ることを妨げる可能性があるものをフロントガラスやほかの窓に取り付けることは認められていない。今回は構わず取り付けたが、もし警察に止められていたら違反切符の費用を『WIRED』に請求していたところだ。

こうした欠点があってもなおこの製品を使うことにしたとしよう。「Car Cam」にはフロントガラスとダッシュボードの間にあるほとんど見えないほどの隙間に本体を取り付けるためのツールが同梱されている。取り付ける前にオンラインのレビュー欄を確認したところ、どうやら取り付ける際にフロントガラスが割れてしまった人もいるようだ。

この取り付け作業には不可解な部分もあった。USBポートはカメラの右側にあるのだが、リングは車体の左側にあるOBD2ポートがある車種で「Car Cam」を使用するよう明確に指示している。それなのに、なぜUSBポートはOBD2ポートの逆側にあるのだろうか。ケーブルを通すには曲げる以外に方法はない。フロントガラスの下に小さく折れたワイヤーが見える。これはケーブルが外れるか、緩んでしまう原因となるものだ。

カメラをOBD2ポートに接続すると、ポートのカバーは閉じられなくなる。したがって、カメラを使う際にはクルマの電子機器が外部に剥き出しになってしまい、この点は不安に感じた。また作業をしている自分の姿と青い光が点滅する様子を見て、監視されたくない人は運転席側の窓を割って「Car Cam」を簡単に奪えてしまうと思わずにはいられなかった。

PHOTOGRAPH: RING

ライドシェアサービスの運転手向け?

とはいえ、本当の問題はここからである。まずクルマが一定期間(例えば1時間)動かない場合、「Car Cam」は自動でオフになる。これはわたしが「Car Cam」を使いたかった理由のひとつを台無しにするものだ。夜間に私道に駐車したクルマに近づく侵入者の検知には使えないのである。

アプリではカメラの消費電力を調整できる。今回は頻繁に運転しない場合や3年以上が経過したバッテリーを搭載するクルマに適した「低」の設定に変更した。「高」の場合は電力消費が増えるものの、「Car Cam」がすぐにオフになることはない。ただし、充電を維持するために頻繁に運転する必要がある(「中」の選択肢もある)。

バッテリーを完全に充電するために、理想的には1日に少なくとも1回は高速道路を走行する速度で運転することをリングは推奨している。だが、自分は高速道路の近くに住んでおらず、時速40マイル(同約64km)以上で運転することもあまりない。

クルマのバッテリーは3年以上が経過しているが正常に機能していた。エンジン警告灯も点灯していない。ところが、「Car Cam」を昼ごろに取り付けたところ、その日の夜11時ごろにクルマのバッテリーが完全になくなる寸前だとリングのアプリが通知してきたので、急いで外しに向かわなければならなかった。

「Car Cam」をポートから抜くと別の問題が生じる。「Car Cam」がオンになっている状態でしか動画を閲覧できないのだ。電源を抜いた状態ではアプリから動画を確認することも、動作を検知した履歴の確認もできない。家を出てクルマに乗り込み、エンジンをかけ、「Car Cam」をポートに再び差し込み、スマートフォンのアプリを操作する──。これを損害保険の審査の担当者の前でやることは難しいだろう。

カメラの視界についていうと、車内を撮影することに関しては問題なかった。車内全体を映しており、後部座席にいる子どもたちの姿もはっきりと見える。動きの通知は正確であると感じた。クルマが静止して「Car Cam」が自動でオフになるまでの短い間も、家族がクルマに乗り降りしたことを知らせる通知が届いた。歩道を通行する郵便配達員や、飼い犬によくちょっかいを出している近所のネコの動きに関する通知は届いていない。

ただし、前方を写すカメラは不十分である。所有しているもう1台のクルマの約6フィート(約1.8m)後方に停車したときも、ナンバープレートがぼやけていて読み取れなかったのだ。これでは事故の様子を撮影するというドライブレコーダーとしての役割も果たせない。

最後の欠点は月額サービスに加入しなければならないことだ。確かに、月額サービルに加入しなくとも使用することはできるが、特定の機能を利用するには(例えばLTE通信経由で動画を確認したり、ライブビューの動画や動きを検知した動画の冒頭をクラウドに保存したりするなど)、月額6ドルの「Ring Protect Go」に加入しなければならない。

「Car Cam」が役立つであろう具体的な用途が2つ思い浮かぶ。1つはライドシェアサービスの運転手をしている場合だ。高速道路を頻繁に使う上に、乗客があなたに暴力を振るうことを防げるだろう。

ただし、オレゴン州では同意なしに誰かとの会話を録音することは違法である。したがって、ほとんどの場合は「Car Cam」のプライバシーシャッターを有効にすることになる。また、録音を開始する際には乗客に通知しなければならない。2つ目の用途は法執行機関とのやり取りの録画だが、警察官がクルマを停めるように言ってそれに従えばカメラの録画も止まってしまう。

ドライブレコーダーの使用には一切反対していない。家の中にカメラを設置することはほとんどないものの、屋外は公共の空間であると認識している。自宅には宅配便を確認できる玄関の応対用のカメラと、ゴミ収集が実際に来たかどうかを確認するガレージ用のカメラを設置している。

しかし、車載カメラとして「Car Cam」は使い物にならなかった。製品に期待していることを何ひとつ応えてくれないデバイスに250ドルも支払うなんて考えられない。返品できてこれほどうれしいことはなかった。

◎「WIRED」な点
広い視野角。つくりはしっかりしている。本体の前後にカメラを搭載。月額サービスはクラウドストレージや動きの通知、動画のダウンロード機能を利用できる。プライバシー保護用のシャッターがある。

△「TIRED」な点
USBポートが逆側にある理由がわからない。便利な機能を使うには月額サービスへの登録が必要。ナンバープレートの確認には映像が不鮮明。カメラがオフの場合は動画を確認できない。しばらくするとカメラが自動でオフになる。クルマのバッテリーを消耗させる。州によっては違法。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

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