サム・アルトマンがOpenAIに正式復帰、マイクロソフトの「オブザーバー」参加で影響力は強まるか

サム・アルトマンがOpenAIの最高経営責任者(CEO)として正式に復帰した。主要な投資家であるマイクロソフトが議決権のないオブザーバーとして取締役会に加わることが明らかになり、その影響力が強まる可能性もありそうだ。
Two people on stage with the OpenAI logo on a large screen behind them
Photograph: Justin Sullivan/Getty Images

サム・アルトマンが11月29日(米国時間)、OpenAIの最高経営責任者(CEO)として公式に復帰した。社内で共有されたメモから明らかになったもので、OpenAIの主要な投資家であるマイクロソフトに新たに議決権のないオブザーバーのポジションが用意されたことなど、OpenAIの取締役会(理事会)の変更についても記されている。

スタッフに送られると同時にOpenAIの公式ブログでも公開されたメモでアルトマンは、取締役会がCEOに対する信頼を失ったことが引き金となり、会社のほぼすべてのスタッフが辞めると脅した過去2週間の混乱について、「不安定さの兆候」ではなく「スタートアップのレジリエンス(回復力)の証」と形容している。

「みなさんは互いのために、この会社のため、そしてわたしたちの使命のためにしっかりと地に足を付けていました」と、アルトマンは記している。「(人工知能を)安全に構築するチームにとって最も重要なことのひとつは、ストレスの多い不確実な状況に対処し、的確な判断を維持する能力です。その意味では“満点”と言えるでしょう」

解任理由は「AIの安全性」とは関連しない?

アルトマンがOpenAIから“追放”されたのは11月17日のことだった。OpenAIの非営利部門の取締役会は審議の結果、アルトマンが「取締役会とのコミュニケーションにおいて一貫して率直ではなかった」と結論づけたと発表したのだ。OpenAIの特異な組織構造の下において、取締役会の義務はビジネスではなく、人類に有益な人工知能(AI)の開発というプロジェクト本来の非営利のミッションの遂行にある。

アルトマンを追放した取締役会には、OpenAIのチーフサイエンティストであるイルヤ・サツキヴァーも含まれていた。しかし、彼は後に判断を撤回し、アルトマンを復職させなければ辞めると脅していた従業員たちに加わっている。

この件に関してアルトマンは禍根はないとしているが、今回のメモにはサツキヴァーの今後に関する“疑問”も記されていた。

「わたしはイルヤのことが大好きだし、尊敬しています。彼に対する悪い感情は一切ありません」と、アルトマンは説明している。そのうえで、「わたしたちは仕事上の関係を続けたいと願っていますし、彼がOpenAIでどのように仕事を続けられるかについて話し合っています」と付け加えた。はっきりしていることは、サツキヴァーが取締役会に復帰することはない、ということだろう。

今回のスタッフへのメモによると、OpenAIの新しい取締役会には元財務長官のラリー・サマーズのほか、OpenAIの技術を一部利用して構築された独自のチャットボット「Poe」をもつQuoraのCEOのアダム・ディアンジェロ、セールスフォースの元共同CEOのブレット・テイラーで構成さる。このうちテイラーが取締役会長になることが確認された。ディアンジェロは前取締役会のメンバーのなかで唯一残っている。なお、旧取締役会のメンバーだったのヘレン・トナー(ジョージタウン大学の安全保障・新技術センターのAIと外交関係の専門家)と、起業家の起業家のターシャ・マッコーリーは辞任した。

OpenAIの共同設立者だったイーロン・マスクは、今回の発表の直前に開催された『ニューヨーク・タイムズ』のイベントでアルトマンに対する懸念を表明し、なぜサツキヴァーが彼を解雇することに賛成したのかと疑問を呈している。

取締役を辞任したトナーは辞任を報告したXへの投稿で、アルトマンを解任した理由はAIの安全性に関連するものではなかったと説明している。「はっきり言っておきますが、わたしたちの決定は取締役会が会社を効果的に監督する能力に関するものです。それはわたしたちの役割であり責任でもありました」と、トナーは書いている。「憶測もありますが、OpenAIの仕事を遅らせたいという動機からではありません」

これに対して『ニューヨーク・タイムズ』は以前、アルトマンと取締役会との間に緊張が高まった原因のひとつは、AIの安全性に関するOpenAIの取り組みを批判したトナーの研究論文だったと報じている

さらにトナーはXへの投稿で、アルトマンを復帰させることへの合意の一環として調査が実施されることにも言及した。「この1〜2週間で多くのことが書かれてきましたが、今後もっと多くのことが語られるに違いありません」

マイクロソフトによる新たな“監視の目”

マイクロソフトがOpenAIの取締役会に議決権のないオブザーバーの席を得たのは、アルトマンが解任された経緯にマイクロソフトCEOのサティア・ナデラが不服を表明した後のことだった。「こんなふうに不意打ちを食らうような状況はもう二度とごめんです」と、ナデラはテック系ジャーナリストのカラ・スウィッシャーがホストを務めるポッドキャスト「Pivot」と「On With Kara Swisher」の共同エピソードで語っている。

OpenAIが16年1月に制定した11ページに及ぶ内規は、「取締役会のメンバーは他の取締役を選出・解任する独占権を有し、取締役会の規模も決定できる」と規定している。だが、「オブザーバー」としてのポジションについては触れられていない。

一方で、取締役会は諮問委員会を設置することが可能で、この諮問委員会には取締役会のメンバーや非メンバーを任命できる。この諮問委員会は、取締役会が最終権限を保持したまま勧告を発することが可能だ。

マイクロソフトによる新たな“監視の目”はOpenAIの将来の取締役会の決定を可視化し、大きな影響力をもつ可能性がある。マイクロソフトは19年に初めてOpenAIに出資して10億ドルを投じたが、「ChatGPT」のリリースを経て130億ドルにまで投資額の上限を拡大した。マイクロソフトはOpenAIの技術を、検索エンジン「Bing」や生産性向上ツールに追加されるAIアシスタント「Copilot」に組み込もうとしている。

今回のアルトマンのメモによると、OpenAIの当面の優先事項は取締役会の欠員を補充すること、製品の展開と改善を継続すること、そして「あらゆる安全性への取り組みに投資する」と同時に研究を加速させることだという。

WIRED US/Translation by Daisuke Takimoto)

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