FTX創業者サム・バンクマン=フリード、「禁錮25年」判決の重みとは

2023年11月に7つの罪で有罪とされていたサム・バンクマン=フリードに、このほど禁固25年の判決が下された。米国政府が「史上最大の金融詐欺のひとつ」と表現した事件の量刑判断について、弁護士らはどう受け止めているのか。
Collage art of Sam BankmanFried founder of FTX cryptocurrency exchange
ILLUSTRATION: OLIVER HAZELWOOD; GETTY IMAGES

ニューヨーク州南部地区連邦地裁の判事は3月28日(米国時間)、破綻した暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)取引所であるFTXの創業者サム・バンクマン=フリードに禁錮25年の判決を下した。さらに、110億ドル(約1兆6,600億円)の資産没収も言い渡した。

2023年11月、ひと月にわたる裁判の末に、バンクマン=フリードにはFTXの破綻に関連した詐欺および共謀の7つの罪で有罪との評決が出されていた

FTXは22年11月、顧客資金の引き出しを処理する原資が枯渇した結果、経営破綻した。資金不足に陥った理由について陪審団は、バンクマン=フリードが手の込んだ詐欺を遂行した結果、ユーザーの数十億ドル相当の資金は系列会社に流れ、高リスクの取引や投機的な賭け、債務返済、個人的な融資、政治献金のほか、バハマでの贅沢な生活に使用されたからだと判断した。

“犯罪の重大性が反映された”判決

訴状によると、米国政府はこの事件を「史上最大の金融詐欺のひとつ」と表現している。そして、バンクマン=フリードは「比類のない強欲と思い上がり」や「法の支配に対して恥知らずの不敬」を示したとしている。

判決を言い渡す前、主任判事を務めたルイス・カプランは「判決には犯罪の重大性が反映されなくてはなりません。これは非常に重大な犯罪です」と述べた。そして、バンクマン=フリードが与えた「莫大な損害」や「その行動の厚かましさ」「真実を途方もなくねじ曲げる姿」を指摘した。

カプランは、公判中のバンクマン=フリードの証言台での振る舞いも非難した。彼は偽証にとどまらず、検察の質問を「はぐらかし」「重箱の隅をつつくような言動」をしたという。「わたしはこの仕事に30年近く従事していますが、このような態度は見たことがありません」とカプランは語った。

判決を言い渡す際、バンクマン=フリードは起立した状態で頭を下げ、手を重ね合わせていた。その表情は、場に似つかわしくないほど平静だった。

今回の判決は、栄光からの大きな転落を締めくくるものだ。2019~22年の間、バンクマン=フリードはFTXの時価総額を320億ドル(現在の為替相場で換算すると約4兆8,600億円)まで押し上げ、一代で財を築いた起業家として世界で最も若い人物だった時期もあった。現在32歳の彼は、規制当局や政治家、スポーツ界のスター、スーパーモデルと親しくしていた。

ベンチャーキャピタリストたちはバンクマン=フリードに憧れ、もてはやした。また、メディアは「次のウォーレン・バフェット」や「暗号資産界のマイケル・ジョーダン」などともち上げた。プライベートでは、米国大統領になりたいと周囲に話していたという。

判事のカプランは判決文において、バンクマン=フリードの犯罪の潜在的な動機のひとつとして、政治的な野心を挙げている。そして、左派・右派双方の候補者への莫大な献金は「歴史上最大の政治・金融犯罪」だと指摘している。

「彼はこの国の政治に大きな影響を及ぼす人間になりたかったのです。その目的は権力と影響力にありました」とカプランは指摘する。

政治的な未来の代わりに(少なくとも、これから何年もの間)バンクマン=フリードは、まったく輝かしくない刑務所生活を送ることになるだろう。

「よくも悪くも総合的」な評価

バンクマン=フリードに対する適切な量刑を検討する際に、裁判官は根本的な犯罪の詳細以上に、さまざまな要素を考慮する必要があった。これらには、被害者の経済的損失の程度、被告人の性格や経歴、何らかの司法妨害があったかどうか、再犯の可能性などの要素が含まれる。

「法廷において被告人は、よくも悪くも総合的に評価されまる」と、元検察官で法律事務所Pallas Partnersのパートナーのジョシュア・ナフタリスは語る。裁判の目的が誰かの行動の「スナップショット」を評価することであるとすれば、量刑の目的は「その人を徹底的に評価する」ことだと彼は言う。

検察側は最長50年の懲役刑を求めたが、バンクマン=フリードの弁護士は裁判所に減刑を申し立てた。弁護側は、依頼人に「冷酷無比にほかの人を操る者」や「道徳心のない男」といったレッテルを貼る人たちは「本当のサム・バンクマン=フリードを知らない」と書いている。弁護側は、彼が慈善活動をしていたことや、菜食主義者であること、そして彼が無快感症(表向きの言葉の意味は「幸福感を感じられない」こと)であることを強調したのだ。

弁護側が提出した裁判書類には、バンクマン=フリードの家族やさまざまな関係者からの手紙が添付され、それらはバンクマン=フリードの善良な人柄、後悔の念、功利主義的な理想を証言していた。「サムに対する世間の認識は、真実からまったくかけ離れている」と、母親のバーバラ=フリードは書いている。「刑務所に何十年も収監されることは、絞首刑と同じくらい確実にサムを破滅させるでしょう。彼の人生に意味を与えている世界のすべてを奪うことになるのですから」

バンクマン=フリードの弁護団は、FTXの債権者たちが破産手続きの末、資産を全額回収する軌道に乗っていることを踏まえて、刑期を短縮するよう求めた。もっとも、暗号資産の価格は急激に上昇しており、当時の評価額に満足する人たちばかりではない。

弁護団はまた、バンクマン=フリードの社会復帰が早すぎれば、彼が再び罪を犯す可能性があるとする政府の主張に「仮説の上に仮説を重ねた推測だ」と反論した。バンクマン=フリードの弁護団は、彼は6年半以上の懲役刑には値しないと主張した。

しかし裁判官は、その主張に賛同しなかった。「実損は発生しなかったとする被告側の主張は一切受け入れられない」と述べ、「誤解を招く」「論理的に欠陥がある」「推測的」な主張だとした。

再犯の可能性を評価する際、主任判事のカプランはバンクマン=フリードのリスク選考に焦点を当てた。 裁判官は彼を「数学オタク」と呼び、その意思決定の枠組みは主に「EV(expected value)」、つまり期待値によって導かれていたと評したのだ。

「言い換えれば彼は、地球上に生命が存続できるかどうかを、コインの裏表に賭けることをいとわないような男である。それがこの事件全体に流れる中心的なテーマだ」と、裁判官は指摘している。「この男は将来また何か悪いことをする危険性がある」

歯磨き粉は「チューブに戻せない」

やはり元米国検事で、法律事務所Wiggin and Danaのパートナー弁護士であるポール・タックマンは、バンクマン=フリードの問題をたとえて「歯磨き粉を決してチューブに戻せない」ようなものだという。将来いつか、FTXの顧客が資金を取り戻せるという事実をもってしても、「それまでに顧客らが受けた被害をほぼなかったことにできるわけではありません」と、彼は言う。

例えばあるFTXの顧客は被害者の声明において、「取引所の破綻後は、ハムとチーズとケチャップのサンドイッチで食いつないだ」と述べている。また破産申し立ての金額は、現在の暗号試算の価値に基づいたものではないことから、FTXの破産処理に携わった再建のプロであるジョン・レイ3世も「(バンクマン=フリードによる)巨大な詐欺行為がなければ顧客が今日得ていたであろう経済状況が回復されることは決してない」と語っている。

米司法省は、判決前の報告書においてこの問題を取り上げ、バンクマン=フリードの犯罪の重大性、被害者の数と範囲、そして彼が証言台で「虚偽の証言」をして捜査を妨害したことを激しく非難している。

米国政府はまた、暗号資産詐欺を抑止する必要性を強調し、「一部の人たちは、自分たちは規制や刑罰の対象ではないことで、監視されたり重い懲役刑を受けたりすることはないという誤った判断に基づいて活動している」と示唆した。司法省は2021年に暗号資産犯罪の専門委員会を設置したが、FTXが破綻するまでは暗号資産に関する画期的な有罪判決をほとんど得られなかった。しかし、暗号資産業界で神のような存在だったバンクマン=フリードに有罪判決が下されたことで、裁判官は暗号資産業界に「メッセージを送る」ことができたのだとタックマンは言う。

判決が下ったバンクマン=フリードは、連邦刑務所局が収監先を決めるまでの間、逮捕から収容されていた一時勾留施設に戻される。判事は、彼の両親が住むサンフランシスコ・ベイエリアにできるだけ近い、軽~中度のセキュリティの施設にバンクマン=フリードを収容するよう勧告している。決定は数カ月以内になされる予定だ。

連邦制度では、仮釈放の可能性はない。控訴して勝てる見込みも少なく、バンクマン=フリードが望める最善の道は、模範囚となって早期釈放されることだろう。

判決前に法廷で演説したバンクマン=フリードは、すでに重罪を受ける覚悟をしているようだった。「わたしは間違った決断を繰り返してしまいました。それは利己的な判断ではありませんでしたが、無私無欲の判断でもありませんでした。それは間違った判断だったのです」と彼は語った。「わたしの人生における役割は、おそらくもう終わってしまいました。そうなってしばらく経ちますし、逮捕される前から終わっていたのです」

米司法省はこのFTXの創業者を、懲役150年の判決を受けた投資詐欺師のバーニー・マドフとしばしば比較してきた。しかし、これらの事件の性質の違いを考慮すると、「バンクマン=フリードの量刑は、弁護側が主張したものでさえ長いと感じます」と、ナフタリスは言う。「これはマドフの事件ではないのです」

「サム・バンクマン=フリードは暗号資産業界のトップに立っていましたが、暗号資産業界はウォール街ではありません。それを忘れないでください」

どのような施設であれ、バンクマン=フリードの収監生活は快適からはほど遠いものになるだろう。「考えてもみてください」と、ナフタリスは言う。「刑務所での一日は長いですよ」

(Originally published on wired.com, edited by Mamiko Nakano)

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